先日、いつものように夕方の畑作業をしていた。水を撒いて、枯れた葉を落とし、一箇所に集め乾かして、いずれ焼いて草木灰として肥料に利用するために。すると畑の向こうから、若い男女が犬を連れて歩いてきた。妙齢の女性がニコニコして声を掛けた。
「先生、お元気でしたか?」
先生というからには教え子に違いない。よく見ると確かによく見知った子だ。
こういうときは慌てず落ち着いて全部覚えているような顔をして応答をする。
「やあ久しぶりだね。」まだ名前、その他を思い出さない。顔だけはわかるのだが・・・
「私、学校に復帰して来年卒業します。あの時にはいうことを聞かないでごめんなさい。」
心の中の反応。「あー思い出した。看護科で高校部から2年制の専門部(看護専攻科)に進級したものの、1年次にやる気を失って休学していったMだ。」
「君は成績も優秀で、周りの期待も厚く、ご両親が教員をされていてすごい重圧があったんだね」
「私、あの時は回りが見えなくなっていました。校長先生から何度も辞めないように説得され励まされたのですが・・・」
「そうだったね。僕も一所懸命励ました。もっとゆったりと考えて、きつい今を乗り越えれば、きっと後で『あの時辞めなくてよかった』と思う日が来るよ」
随分時間をかけて説得したけれど、あの時のMは表情が硬く、どんな言辞にも心を開かなかった。
何とか退学を訴えていたのだが、休学に変えさせたのだった。休学は問題の先送りなのだが、それでも人間時の流れの中でどう変わるかわからない。環境が変わり、冷静になって自分を見つめた時自分にとって「教育=学校を続けること、そして看護師になること」というのはどういうことなのかをじっくり考え直す。そして、もう一度やり直そうと決意して復学。この時退学してしまっていれば、時間4年間のロスそして再受験となる。あまりにもリスクが大きいのだ。
男の子は最近夕方の散歩の時によく出会っていた。近所で外国の雑貨を商いしているBさんの息子さんで、Mと交際中。Mが学校の休みで遊びに来たのだそうだ。
「私、前にもここ訪れたんですよ。残念ながらだれもいらっしゃいませんでした。私が復学した後、挨拶に幼稚園の方まで行ったのですがもう退職されたと聞きました」
二人は所謂美男美女で男性も大阪の大学に通っているという。
いいなあ、若い子は・・・

急いで畑に下りて野菜を採り入れて土産に持たせたのはいうまでもない。
朋遠方より来る亦楽しからずや。
若者には限りない可能性がある。夢をもってその実現に挑戦していけ。高校の校長として常に言ってきたことだ。自分で選んで入った場所(学校や職場)ではそこを一所と定めて命がけで学べ働けとー
「夢・挑戦そして一所懸命」これがおやま先生の教育指針だった。

