mapio's STREETS OF MOVIE

観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

オーケストラの少女 One Hundred Men and a Girl

2006年09月11日 | Weblog
監督:ヘンリー・コスター
製作:チャールズ・R・ロジャース 
ジョー・パスターナク
原作:ハンス・クレイリー
脚本:ブルース・マニング
チャールズ・ケニヨン
ハンス・クレイリー
撮影:ジョセフ・ヴァレンタイン
音楽:チャールズ・プレヴィン
出演:ディアナ・ダービン
アドルフ・マンジュー
レオポルド・ストコフスキー
1937/米/1h24m ☆☆☆☆☆

 オーストリアのユニヴァーサル社でMGM社から移籍した子役ディアナ・ダービンの長編初出演作『天使の花園』が製作され、映画はその年のスタジオ最大のヒットを記録する。その演出を手掛けたヘンリー・コスターとパスターナクが、ダービンの美声と愛らしさを最大限に生かして、人気作家ハンス・クレイリー原案の映画化を企画して製作された一篇。冒頭、ストコフスキーの十八番、チャイコフスキー交響曲第5番での颯爽とした指揮振りで始まるこの映画は、当時、指揮棒を使わずに両手の指でオーケストラを指揮することで有名だったスター指揮者ストコフスキーが、常任指揮者を務めるフィラデルフィア管弦楽団とともに、台詞付きで初めて映画に出演していることでも大きな話題となった。財政難に陥っていたユニヴァーサルは『天使の花園』とこの映画の成功で倒産を免れ、ダービンは一躍トップスターの仲間入りを果たし、ティーンエイジャーのアイドル的存在として人気を博した。
 失業中のトロンボーン奏者ジョン(それまでプレイボーイ的な役柄が多かったアドルフ・マンジュー)の娘パッツィ(ディアナ・ダービン)は、父を始めとした多くの腕利きの演奏家が失業しているのは、オーケストラの数が少ないからだと気が付き、気まぐれな富豪フロスト夫人(アリス・ブラディ)の口約束を信じて失業中の楽士達を集めてオーケストラを結成。 妻の愚行をもみ消そうとする夫のジョン(ユージン・パレット)は、有名な指揮者を出演させてコンサートを成功させればオーケストラのスポンサーになると公約。 パッツィはコンサートホールにもぐりこんで、世界的な名指揮者レオポルド・ストコフスキーに失業楽団の指揮を頼むのだが…。ストコフスキーが本人の役で楽団と共に出演。劇中、フィラデルフィア交響楽団はチャイコフスキーの『第五交響楽』、ベルリオーズの『ラコッツイ行進曲』、モーツァルトの『ハレルヤ』、 リストの『ハンガリア狂詩曲第二番』、ワーグナーの『ローエングリン』、ヴェルディの『ラ・トラヴィアータ』の6曲を演奏。 当時15歳のダービンは随所で、『ハレルヤ』、『乾杯の歌』、『光の雨』、『心は自由』の4曲を歌い、その澄み切った美声は「天使の歌声」と評された。ホームドラマにクラシック音楽を組み合わせるという試みに挑んだ本作は、世界最高の指揮者ストコフスキーの出演も相まって空前の大ヒットを記録。第10回アカデミー賞では作品賞を含む5部門にノミネートされ、作曲賞を受賞した。
 ストコフスキーも、準主役級の役どころで、素人とは思えないほどの意外な演技者振りを見せている。中でも終盤、100人の失業者楽団がパッツィに率いられて、ストコフスキー邸に忍び込んで1階から吹き抜けの階段も全て埋めて繰り広げる演奏は絶品。最上階の自室でピアノを弾いていたストコフスキーが忍び込んだパッツィに導かれ、フロアを埋めた100人を見た瞬間、驚きと怒り混じりの表情が演奏と共に和らぎ、やがて曲に合わせて手がカクカクと動き出す。そしてそのままフィナーレの演奏会へと移行する。喜びに頬を濡らしながらパッツィが歌う『乾杯の歌』とその合間にトロンボーンを吹く父に嬉しさ一杯のフェイス・コンタクトを送るシーンはこの映画の感動のハイライトだ。満点。
 余談だが音楽担当のチャールズ・プレヴィンは名指揮者アンドレ・プレヴィンの親戚であり、ストコフスキーがピアノを弾くようにアンドレ・プレヴィンも又、同時にピアノもよくする音楽家である。指揮者レナード・バーンスタインも同様である。世に指揮者は多いが、レナード・バーンスタインのものほどには広く知られているとは言い難いとしても、ピアノを愛するアンドレ・プレヴィンも作曲家としてかなりの数の作品を残しており、こういった映画出演があれば、さぞ楽しかっただろう。


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