mapio's STREETS OF MOVIE

観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

ナチョ・リブレ 覆面の神様 Nacho Libre

2008年03月22日 | Weblog
監督・脚本:ジャレッド・ヘス
製作:ジャック・ブラック、デヴィッド・クローワンズ
   ジュリア・ピスター、マイク・ホワイト
製作総指揮:スティーヴ・ニコライデス、デイモン・ロス
脚本:ジャレッド・ヘス、ジェルーシャ・ヘス、マイク・ホワイト
音楽:ダニー・エルフマン
キャスト:
ジャック・ブラック(イグナシオ/"ナチョ")
アナ・デ・ラ・レゲラ(シスター・エンカルナシオン)
ヘクター・ヒメネス(スティーブン/"ヤセ" )
セサール・ゴンザレス(ラムセス)
エフレミ・ラミレッツ
リカルド・モントーニャ(ギレルモ)
ピーター・ストーメア
モイセス・アリエス
2006/米/92min. ☆☆☆★

 『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラックが爆笑と感動のゴングを鳴らします。ロックの次はリングで爆笑。今度はルチャ・リブレ(メキシコのプロレス)で爆笑パフォーマンスを披露します。破壊的でハチャメチャだけど、なぜか憎めない陽気なスター、ジャックが、太った体をレスリングスーツに包み、マントを羽織ってルチャを気取る、その姿だけでも笑えるコメディー。誰にだって人生一度は輝く瞬間がある。そんな勇気と優しさを与えてくれる映画、それが『ナチョ・リブレ 覆面の神様』。かの「タイガー・マスク」の原案とも言われるメキシコの伝説的ルチャドール、フライ・トルメンタ(日本名:暴風神父)の実話がベースで、彼の物語はジャン・レノ主演の『グラン・マスクの男』としても映画化されています。監督は「バス男」で全米スマッシュヒットを記録した新鋭ジャレット・ヘス。登場人物の誰もが、ちょっぴり変わり者で不恰好、アドリブ(!?)と思われるジャックのセリフや動きはあいかわらず突拍子もないけど、根底に情があるから、見終わったあと温かい気持ちに。ジャックの弾けっぷりとやさしさを堪能できる作品です。製作&脚本は「スクール・オブ・ロック」「オレンジ・カウンティ」に続きジャック・ブラックと三度目の爆笑タッグを組んだマイク・ホワイト。
 素性を隠して子どもたちのために戦う物語だけ聞くと感動モノだが、ジャック・ブラックの怪演や、カルト的人気作『バス男』のジャレッド・ヘス監督によるとぼけた味の演出で、全編、苦笑と爆笑の連続。牛に蹴られたり、ハチの巣を突っついたりと、的外れな特訓シーンに腹を抱えてしまいます。ブラックお得意の歌もドラマにぴったりで笑いを倍増。さらに脇役キャラも強烈で、リング上でイグナシオとパートナーを組むやせっぽちのスティーブンや、対戦相手となる小さな猛獣のようなコンビなど、その個性は並ではありません。しかし最終的に、ただのオバカ映画になっていないのは、各俳優が体を張って演じているからでしょう。 笑って、笑って、最後にホロリとくる、コメディの見本のような作品です。
 監督は「バス男(原題Napoleon Dynamite)で衝撃的デビューを飾ったジャレッド・ヘス。出演者全てにちょっと"へん"な物語がついてまわる、その独特のスタイルは監督2作目にして既に確固たるものがあります。脚本は『スクール・オブ・ロック』の盟友マイク・ホワイト。「僕らが目指したのは、皆に広く受け入れられ、それでいて誰も見たことのないオリジナルな映画なんだ」と言う通り、『ナチョ・リブレ 覆面の神様』他に類をみない映画に仕上がっています。主演のジャック・ブラックが「ジャレッド・ヘスが監督を引受けてくれるならタイツだって裸だって何でもやるよ!」と言う通り、体当たりの演技で、これがルチャ・リブレ初挑戦とは思えないほどの華麗な肉体技を披露します。更に自らあみ出した<必笑技>の数々が、ルチャの華やかでエンターティメント性に富んだ世界にハマりにハマっています。
 共演は、メキシコ映画界のスター、ヘクター・ヒメネス。ストリート・ファイトには滅法強いが、リングではからきし弱いというおマヌケ演技と、タッグを組むジャック・ブラックとの強烈な絡みは絶妙です。ナチョが一目惚れするシスター役には、清楚な美しさが光り輝くメキシカン美女のアナ・デ・ラ・レゲラ。更にイングマール・ベルイマン作品の常連ピーター・ストーメアや、ラテン・エンターテインメント界の輝ける星リカルド・モントーヤなどが脇を固めています。
 メキシコ独特の美しい風景を紡ぎだすのは『美しい人』『夜になる前に』の撮影監督ハビエル・ペレス・クロベット。ナチョの色鮮やかなマントをはじめ色彩溢れる豊かな衣裳は『デスペラード』『マスク・オブ・ゾロ』のグラシエラ・マソン。ルチャ・リブレのエキサイティングな格闘シーンは『グラディエーター』『ラスト・サムライ』のスタント界の巨匠ニック・パウエル。そして、エスニック・サウンドに彩られた心地良い音楽は巨匠ダニー・エルフマン、と世界の才能が集結している点にも注目です。
  イグナシオ/愛称ナチョ(ジャック・ブラック)の両親は2人とも宣教師だ。母親は、スカンジナビア地方から来た宣教師、父親はメキシコ人の助祭士。互いを改宗させようとして恋に落ち、結婚をしてしまった2人はナチョを産んですぐに死んでしまう。二人の死後、ナチョは戒律が厳しくユーモアもない修道院の中で孤児として育てられる。成長してからは修道院の料理番を担当しているナチョだが、修道院にはお金がないために、まともな食材を使えない。おまけに、寝ている老人を死人と思い込んで祈りの言葉を捧げてしまったり・・・トホホな失敗の連発で、修道士のギレルモ(リカルド・モントーニャ)などからバカにされている。とはいえ、ナチョは 修道院の孤児たちからは慕われ、ナチョ自身も子供たちが大好きだ。ある日、ナチョは、新しい先生として修道院にやってきたシスター・エンカルナシオン(アナ・デ・ラ・レグエラ)にひとめ惚れしたことから、俄然、ヤル気を出す。ところが、町に食材を貰いに行くと、すばしっこくて神出鬼没の謎のやせた男に襲われ、チップスを奪われてしまう。落ち込んで歩くナチョだが、憧れのルチャ・リブレのスター、ラムセスの豪華な暮らしぶりを目撃、また賞金のかかったアマレス大会のポスターも見つける。先生のために食事のレベルをアップさせようと町に買い物に繰り出した彼だが、そのとき憧れのルチャ・ドール(メキシコのプロレスラー)のリッチぶりに遭遇。それを見たナチョは、賞金がかかったアマチュア大会にルチャ・ドールとして出場し、お金を稼ごうと決意。お金持ちになって、美人シスターやかわいい子供たちにおいしい食事をさせてあげようとする。相棒のスティーブン(ヘクター・ヒメネス)とともに厳しい特訓を積んだ後、修道院には秘密でリングに上がるナチョ。彼らは連戦連敗を重ねながらも、チャンピオンのラムセスと戦うチャンスを手にする。果たしてナチョは試合に勝てるのだろうか。

ライラの冒険 黄金の羅針盤 The Golden Compass

2008年03月20日 | Weblog
監督・脚本:クリス・ワイツ
プロデューサー:デボラ・フォート&ビル・カラッロ
編集:アン・V・コーツ
衣装:ルース・マイヤーズ
美術:デニス・ガスナー
撮影監督:ヘンリー・ブラハム
音楽: アレクサンドル・デプラ
原作:フィリップ・プルマン「ライラの冒険:黄金の羅針盤」(新潮文庫刊)
出演:
ニコール・キッドマン(コールター夫人)
サム・エリオット(リー・スコースビー):「ゴーストライダー」の老カウボーイ
エヴァ・グリーン(セラフィナ・ペカーラ):「007/カジノ・ロワイヤル」
ダコタ・ブルー・リチャーズ(ライラ・ベラクア)
ダニエル・クレイグ(アスリエル卿):「007/カジノ・ロワイヤル」
クリストファー・リー(第一評議員)
イアン・マッケラン(声:イオレク・バーニソン)
キャシー・ベイツ(声:ヘスター)

アカデミー賞:視覚効果賞
英国アカデミー賞:特殊視覚効果賞
全米美術監督組合賞:美術賞(ファンタジー部門)

2007/米/112min.  ☆☆☆☆★

 本編の開始前にこの作品は三部作の第一作目に当たると表示されたので(かなりの自信。期待出来そう!)と思いました。アカデミー視覚効果賞取っているだけあって迫力は満点、見ごたえは十分にありました。話もうまくまとめられており、原作を読んでなくとも十分その世界に入り込めました。さあこれからと思ったらエンディング!これってかなり中途半端で不完全に感じました。2作目はここから始まるの?「パイレーツ・オブ・カリビアン」の2作目や「ロード・オブ・ザ・リング」の1作目を思い出す方もいるのでは。
 ライラの冒険(原題:His Dark Materials)は、イギリスの作家フィリップ・プルマンが書いた、我々の世界と良く似た別世界に住む11歳の少女ライラ・ベラクアと、我々の世界に住む12歳の少年ウィル・パリーを中心に、無数に存在するパラレルワールドを旅する三部作の冒険ファンタジーです。第一部「黄金の羅針盤」(1995)、第二部「神秘の短剣」(1997)、第三部「琥珀の望遠鏡」(2000)で構成されます。1995年に、第一部『黄金の羅針盤』が、カーネギー賞を受賞。また2007年には同賞の70周年を記念した過去受賞作の中の最高傑作を一般からのオンライン投票で選定する企画で1位となり、「Carnegie of Carnegies」に選定されました。2001年には第三部『琥珀の望遠鏡』がウィットブレッド賞の児童文学部門賞と大賞を受賞しています。児童文学部門賞受賞作が大賞に選ばれたのは、この作品が史上初です。
 BBCの読者ランキングで「ハリー・ポッター」シリーズを超える人気を誇る、20世紀最後のファンタジー超大作の映画化にあたり、ニコール・キッドマン、ダニエル・クレイグ、エヴァ・グリーンら豪華俳優陣がこぞって参加を表明しました。そして、15,000人にも及ぶ候補者の中から、“世界を変える運命の少女ライラ”に選ばれたのは、期待の新人ダコタ・ブルー・リチャーズ。幼さの残るあどけない表情に、まだ13歳とは思えないほどの強い意志を持った瞳で、映画界に新世代のヒロイン像を提示します。そして優美なるエンディングでこの映画のオリジナルソング「ライラ」を歌うのはイギリスのベテラン歌手ケイト・ブッシュ。3度のグラミー賞ノミネートを経験しているブッシュは、今回自らプロデュースし、オックスフォードのマグダレン・カレッジの合唱団をコーラスに加えて自分のスタジオでレコーディングを行ったそうです。
 この壮大なる冒険三部作の序章の舞台となるのは、私たちの住むこの世界と“非常によく似ているが、どこか異なる”幻想的で魅力的な「未知なる世界」。人間が、“ダイモン”と呼ばれる動物の形をした自分の分身と共に生きている不思議な世界であり、物語は、その世界のイギリス・オックスフォードで幕を開けます。――ジョーダン学寮で暮らす12歳の少女ライラ。何者かにさらわれ、北の地に連れ去られた親友ロジャーを助けるため、真実を指し示す“黄金の羅針盤”、彼女のダイモンであるパンタライモン、そして旅の途中で出逢うよろいグマ族のかつての王イオレクと共に、未知の世界へと足を踏み出す。その第一歩が、全人類・全生物の未来をかけた、想像を絶する戦いに向かっているとも知らずに。運命の針に導かれ、今、かつてない大冒険の扉が開く…。
 物語は我々の世界に良く似てはいるが、人間には誰もが分身ともいえる動物「ダイモン」がついており、魔女やよろいグマなどが住んでいる世界から始まります。我々の暮らす世界とは、似て非なるパラレルワールドのイギリス・オックスフォード。ジョーダン学寮で育てられた孤児ライラは、教授たちも手を焼く12歳のお転婆娘。この世界の人間が持つ「ダイモン」と呼ばれる動物の形をした分身―パンタライモンと共に、屋根の上を走り回っては、大人たちを困らせる毎日。しかし、そんな生活が、ある日一変する。子供が何者かに遥か彼方の北の地へ連れ去られているという噂が街中を駆け巡る中、親友ロジャーまでもが突然姿を消したのだ。ゴブラーという組織が北極で子ども達を何かの実験に使っているという噂。ライラの親友ロジャーもさらわれ、叔父のアスリエル卿も失踪する。ライラと彼女のダイモンのパンタライモンは、船上生活者ジプシャンたちとともに、ロジャーやその他の失踪した子どもたちや、アスリエル卿を救出するために、学寮長から渡された世界にたった6つしかないという金色に輝く「真理計(アレシオメーター)」を手に、北極へと旅立つ。旅の途中で現れる、敵か味方かわからない大人たち、そして、ライラの運命を変える、よろいグマ族のかつての王イオレクとの出逢い…。ライラはまだ知らない。この旅の行く末に、全てのパラレルワールドを巻き込む戦いが待ち受けていることを。そして、彼女自身が戦いの運命を握る「鍵」となることを。底が抜けるような驚きと、引き返せないほどの恐怖を前に、ライラの意志が試される!

キャプテン・ウルフ THE PACIFIER

2008年03月09日 | Weblog
監督:アダム・シャンクマン
脚本:トーマス・レノン、ロバート・ベン・ギャラント
製作:ロジャー・バーンバウム、ゲイリー・バーバー、ジョナサン・グリックマン
製作総指揮:アダム・シャンクマン、ジェニファー・ギブゴット、デレク・エヴァンス、ギャレット・グラント、ジョージ・ザック
撮影監督:ピーター・ジェームズ,A.C.S.,A.S.C.
美術:リンダ・デセンナ
編集:クリストファー・グリーンバリー
音楽: ジョン・デブニー
出演:ヴィン・ディーゼル(シェーン・ウルフ)
ブリタニー・スノウ(ゾーイ・プラマー)
マックス・シエリオット(セス・プラマー)
モーガン・ヨーク(ルル・プラマー)
ローガン&キーガン・フーヴァー(ピーター・プラマー)
ボー&ルーク・ヴィンク(タイラー・プラマー)
ローレン・グラハム(クレア・フレッチャー)
フェイス・フォード(ジュリー・プラマー)
キャロル・ケイン(ヘルガ)
ブラッド・ギャレット(マーニー)
クリス・ポッター(ビル・ファウセット大佐)
2005/米/95min. ☆☆☆☆

 ディズニーらしいハートウォーミングなアクション・コメディで、任務遂行のために《ハウスキーパー》をするハメになった無敵のソルジャーの破天荒な2週間を描いた、エンターテイメント・ムービーです。主演は、『トリプルX』で一躍大ブレイクし、ハリウッドのトップ・スターとなったヴィン・ディーゼル。戦場では無敵な彼が“家事をこなす一方で、敵を撃退しなければならない”という、史上最悪の状況に陥った男、《キャプテン・ウルフ》役を熱演します。おむつ替えや、子守唄のダンスを踊ったりと、鍛え抜かれた頑健な男が右往左往する様は、とてもコミカルで、思わずニヤリとさせられます。ヴィン・ディーゼルによって魂を与えられ、ここに、ディズニー史上最も強く、でも本当は、とても心優しい魅力あふれるキャラクターが誕生しました。
 主演のヴィン・ディーゼルの魅力のひとつはそのセクシーな声にもあります。こういうタイプの作品は、極端な話、台詞をあまり聞かず、画面だけ漠然と眺めていても楽しめますのでファミリーものを志向している作品としては、まず順当な配慮と言えるでしょう。対象を子供から大人まで問わずに作品を構築しようという心構えは、そもそも冒頭の、主人公シェーン・ウルフの普通の仕事ぶりを見せつつ本編へと導くためのシークエンスでいきなり窺われます。首尾良く一端は救出対象である教授を敵の船から奪還、任務を完了させたかに見えたところで、教授は家族に連絡しておきたいと言い出します。安全と言える場所に移動できるまで、と説得しますが応じない教授にシェーンは一歩引き、先にヘリコプターに乗って操縦士に指示を出そうとしますが、操縦士は既に息絶えており、慌てて外に出ようとした直前に銃声が鳴り響き、第二弾がシェーンの躰を弾き飛ばします。ここで教授が死んだことで、シェーンが教授宅に乗り込むための道がつけられることになるのですが、幾らでも残酷に描けそうなこのシーンで、カメラは一滴も血を映しません。操縦士が撃たれるシーン等全然無く、教授が襲われたという事実も銃声のみで示し、シェーンが負傷したことはアングルのなかから彼が弾き飛ばされたことで窺い知れるのみなのです。直接銃口を向けられる場面も、血飛沫が舞うような描写も用意せずに、プロローグを終えています。
 事件の背景は戦争絡みながら、あくまで物語のテーマが、海軍の英雄が何の因果か子守りの真似事をさせられ、抵抗を顕わにする子供や無邪気な赤ん坊相手に苦戦するさまを描くことにあるということをよく訴え、随所にアクションを織り交ぜて、クライマックスも危機の連続ながら残酷さの欠片もなく結んでいます。
 そのうえ、クライマックスにおける事件の解決に、ちゃんと中段の珍妙なホーム・コメディでの出来事や描写がきちんと奉仕しているのです。やもするといたずらに暴力性が強調されたり、大団円がこじつけめくファミリー向けもどきもある中で、本編の作りはかなり誠実です。
 起きていること、やっていることは滑稽だけれど、決して主人公やそれに準ずるキャラクターたちが、他人を侮ることで笑いを生もうとしていないことも評価できます。そうした側面が特に明瞭となっているのは、長男セスへの態度です。選択したレスリングにまるで身が入らず、その理由を詳らかにしようとしない彼ですが、やがてひょんなきっかけからシェーンは事情を知ります。知られたことで卑屈になるセスに、シェーンは決して無理矢理レスリングのほうへと走らせることをせず、彼の夢を追い求めることを薦めます。普通のコメディなら、レスリングに対する苦手が判明したところで即、無理にでも覚え込ませようとする場面だが、そこに一呼吸おくことで、相手の個性を馬鹿にしないという態度が明確になっているのです。
 笑いの見せ方にもメリハリが効いています。前段では子供達の食い違いと、まだろくに意思の疎通も出来ない子供二人の世話に四苦八苦する様をそのままコメディとして描いていますが、後半以降はそれを踏まえて、お互いに対する理解の様子そのものにおかしみを滲ませています。セスに関するくだりもさることながら、ゾーイやルルと心を通わせていくその過程がまた心温まりつつも不思議な感じでいいです。
 そしてちゃんと物語の最後には目頭の熱くなるようなシチュエーションもきちんと用意してあります。これだけ揃っていたらもうほとんど文句はありません。強いて言うならヴィン・ディーゼルにもっと弾ける場面が欲しかったことと、もう少しぐらい突出した箇所が欲しかったぐらいでしょうか。

 米海軍特殊部隊の指揮官であるシェーン・ウルフ大尉(ヴィン・ディーゼル)にとって、それは初めての失態だった。核発射阻止のための特殊プログラム、通称“ゴースト”を開発中だったハワード・プラマー教授(テイト・ドノヴァン)が誘拐され、彼を奪還することが使命だったが、成功間近のところで教授は何者かによって殺害、シェーンもまた銃弾を浴びて重傷を負った。二ヶ月後、怪我から回復したものの屈辱感に苛まれるウルフに、新たな任務が下される。それは、博士自らが"ゴースト"を保管した可能性のあるスイスの銀行にプラマー夫人(フェイス・フォード)が出向き、貸金庫のパスワードを模索している間、ハウス・キーパーになって留守宅を警備せよ!というもの。そこで上司のビル・ファウセット大佐(クリス・ポッター)はシェーンに家の警護と侵入者の捕獲を図ると共に、大佐がプラマー夫人のジュリー(フェイス・フォード)を伴い、スイス銀行にある教授の隠し金庫を開けに行く短い間、子供達の面倒を見るように命じる。教授の死に重い責任を感じていたシェーンに異存はなかった。早速教授宅を訪れたシェーンだったが、この任務、意外にもかなり厄介な代物だった。
 プラマー家の子供は総勢五人。長女のゾーイ(ブリタニー・スノウ)は思春期まっただ中で、実のところ教授宅に現れた侵入者の正体は、彼女のところに忍んできたボーイフレンドだったらしい。着任早々ボーイフレンドを捕まえたシェーンは彼にお仕置きとして腕立て伏せ20回を課したりするが、「これでもう二度と来なくなる」とゾーイは怒り心頭のご様子。愛想のない長男のセス(マックス・シエリオット)は無口で、何を考えているか解らないタイプ。ふらっと姿を消したから部屋に閉じ籠もっているかと思えばただトイレに向かっただけだったり、学校ではやたらと軟弱で、受講しているレスリングの担当・マーニー教頭(ブラッド・ギャレット)はじめ生徒たちにも侮られている。おませな次女のルル(モーガン・ヨーク)は低学年だが早くも大人に見られたい年頃のようで、シェーンが幼児として扱うとつむじを曲げる。ガールスカウトの仲間たち共々、かなりおしゃまなところがあるようで、上のふたりに比べるとややシェーンの存在を受け入れるのは早いようだが。
 そしてシェーンにとって最大の難物は次男のピーター(ローガン&キーガン・フーヴァー)と三男タイラー(ボー&ルーク・ヴィンク)である。まだまだ幼いピーターはシェーンたちの手を焼かせ、タイラーに至ってはまだおむつも取れずハイハイしか出来ない赤ん坊。戦いの世界しか知らなかったシェーンにとってこの二人は完全に異世界の存在だった。
 プラマー夫人が発ったいま、何とかして自分のやり方で彼らを監督しようと、シェーンは軍隊式に子供達とベビーシッターのヘルガ(キャロル・ケイン)とをコードネームで呼び、自分を上官として命令には絶対服従するよう指示するが、当然子供達は反発する。ゾーイとセスは彼を追い出そうと罠まで仕掛けるが、運悪くかかってしまったのはヘルガ。結果として彼女は日頃から溜まりに溜まっていた鬱憤を爆発させ、 職場を放棄してしまう。いよいよシェーンは途方に暮れた―子供の面倒どころかおむつ替えさえ学んだことのない彼らに、護衛と子守りとを兼任するなんて、果たして可能なのだろうか。
 子供たちを学校に送り届けるのも、ウルフの仕事。ウルフは観念して後ろにピーターを背負い、前でタイラーを抱え、子供たちをミニバンに乗せて学校に急行。 出迎えた教頭のマーニー(ブラッド・ギャレット)は嫌がるセスにレスリングを強要し、授業をさぼっているゾーイに停学をちらつかせる一見豪腕な奴だが、美人のフレッチャー校長(ローレン・グレアム)には口答えできない矛盾したキャラの持ち主。ウルフがそんな教頭の弱点を一瞬で見抜いたのは言うまでもない。
ある夜、プラマー邸に謎のニンジャ軍団が侵入する。狙いは定かじゃないが、もしかして"ゴースト"は銀行の貸金庫の中ではなく、邸内のどこかに隠されているのかも知れない。ウルフは側にあったモップやほうきを武器に応戦し、奴らを撃退。子供たちを危険から守り抜く。そして、レスリングとは対極にあるミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の練習にこっそり打ち込んでいたセスを勇気づけたり、そのセスの前で憎いマーニーをレスリング試合で打ち負かしたり、本当はパパを亡くして以降、無理して強がっていたゾーイの悲しみを癒したり、etc,…ウルフは徐々に子供たちの信頼を勝ち取っていく。そしてそれは、なかなか寝付けないピーターの前で、プラマー教授が息子のために作ったという子守歌"ピーター・パンダ・ダンス"をウルフが歌って踊った時、より確かなものになる。歌い終えたウルフに向かって、ピーターが「おやすみ、パパ」と呟いたのだ。ウルフはいつしかハウス・キーパーでもベビーシッターでもなく、子供たちにとって紛れもない"父親代わり"になっていた。そんな時、スイスから一報が入り、遂に"ゴースト"の所在が明らかになる。だが、ウルフと子供たちを繋いだ例の"ピーター・パンダ・ダンス"が謎を解く鍵になろうとは…。
 p.s. 映画「サウンド・オブ・ミュージック」でJ・アンドリュースが訪れるトラップ一家の主人フォン・トラップ大佐を演じたのは、クリストファー・プラマー。今回の作品の舞台がプラマー一家と言うのは、偶然の一致!?

かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート DRAGON TIGER GATE/龍虎門

2008年03月03日 | Weblog
監督:ウィルソン・イップ(『スパイチーム』『SPL/狼よ静かに死ね』)
アクション監督:ドニー・イェン(『修羅雪姫』『SPL/狼よ静かに死ね』)
音楽:川井 憲次
美術監督:ウィリアム・チャン(『恋する惑星』『2046』)
出演
ドニー・イェン
ニコラス・ツェー
ショーン・ユー
ドン・ジェ
2006/香港/94min. ☆☆☆☆

 香港で35年以上にも渡って愛され続けている(連載30周年の記念切手がつくられるほど!)国民的コミック「龍虎門」を原作にしたアクション映画です。幼いころに生き別れになった兄弟が再会し、正反対の世界で生きていた2人が再びその絆を取り戻すまでの戦いを描いています。監督として白羽の矢が立ったのは、『SPL/狼よ静かに死ね』のウィルソン・イップ。さらにアクション監督と俳優という2足のわらじで活躍を続ける『SPL/狼よ 静かに死ね』のドニー・イェン、甘いマスクと抜群の演技力で人気再上昇中の『香港国際警察/NEW POLICE STORY』『PROMISE』のニコラス・ツェー、そして歌手としても俳優としても急スピードで躍進中の『インファナル・アフェア』シリーズのショーン・ユーが三つ巴のトリプル主演を果たし、怒濤のアクションを披露します。磨き上げた武術で悪の組織に立ち向かっていく男たちの苦悩と成長のドラマを、生き別れた兄弟の絆と共に描き、熱い感動を呼びます。最大の見どころは勿論アクションシーン。ドニー・イェン自身がアクション監督を務めたバトルでは、ニコラス・ツェーの足技、ショーン・ユーのヌンチャク、そしてドニー・イェンの掌打と、それぞれが異なる得意技で高速の組み手を披露します。中でも長い足を使ったニコラス・ツェーの足技は惚れ惚れするような美しさがあります。物語後半にはコミック原作らしい“必殺技”も登場。痛快な気持ちを味わわせてくれるカンフーエンターテイメントに仕上がりました。
 さらに、それら全てを彩るのは、『2046』の美術監督ウィリアム・チャンによる多彩な映像美と、『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』『DEATH NOTE デスノート』など日本の映画音楽シーンを常にリードし続けてきた川井憲次が手掛ける旋律です。アクション×映像×音楽のトリプル効果により、すべてが画面からはみ出すほどの迫力で、観る者の心をヒートアップさせてくれます。またCGを多用しながらも、すべてをデジタルに頼らないその手法は、カンフー映画の古き良き感覚をも彷彿とさせます。
 タイガー・ウォン(ニコラス・ツェー)は、親と生き別れ、行き場を失くした子供たちが流れ着く道場『龍虎門“ドラゴン・タイガー・ゲート”』で育つ。タイガーは、昔生き別れとなった兄から教えられた「武術は正義を守るためにある」という言葉を守り、「龍虎門」の兄貴分として頭角を現していた。ある日、仲間たちと海上レストランで食事をしていたタイガーは、無作法なチンピラに腹を立て、いつものごとく彼らを懲らしめるが、チンピラは秘密結社“江湖”の一味で、彼らはあっという間ギャングに囲まれてしまう。武術に自信があるタイガーは戦いを挑むが、中でも一人だけ異彩を放つ男ドラゴン・ウォン(ドニー・イェン)には歯も立たなかったが、何故かドラゴンは止めを刺さずにその場を立ち去る。後日、再び江湖に襲われるタイガーたち。乱闘に巻き込まれたヌンチャクの使い手ターボ・セック(ショーン・ユー)もタイガーに加勢するが、多勢に無勢の中、“江湖”が優勢に。しかしなぜかドラゴンがタイガーたちを助けに入り、事なきを得る。不思議に思うタイガーを残したまま、再び姿を消すドラゴン。その時タイガーは、生き別れた兄が昔身につけていた翡翠のペンダントを発見する。実は、彼こそが長年探し続けていた生き別れた兄だった。卑劣な“江湖”に属するドラゴンが兄だったということを知り、ショックを受けるタイガー。一方ドラゴンもまた、長い間別々の道を歩んでいた弟を目の当たりにし、悪のために働いている自分に葛藤を覚えていた。そんなある日、“江湖”のボス・マーは、娘シャオリン(ドン・ジェ)との平穏な生活のため、アジア一の巨大犯罪組織“羅刹門”との関係を解消し、引退を表明する。それを知った“羅刹門”のボス・シブミは激怒し、マーを虐殺。マーを守ろうとし重傷を負ったドラゴンは、妹同然のシャオリンをタイガーの元に預け、復讐のためにその場を去る。タイガーもまたターボとともに“羅刹門”との闘いを誓うが、師ウォン・ホンロンを惨殺され「龍虎門」の看板を奪われてしまう。肉体もプライドもズタズタになり、瀕死の重傷を負ったタイガーとターボは、伝説の仙人の元へとおもむき、そこで修行を積む決意をする。打倒宿敵シブミ。揺るぎないその闘志だけが、今彼らを奮い立たせる。そして、いよいよ、ドラゴン、タイガー、ターボの、己の拳、そして己の魂を懸けた、命知らずの最後の闘いの幕が開かれる…。