mapio's STREETS OF MOVIE

観た映画の感想とそれから連想したアレコレ(ネタバレ有)。

フラガール Hula girl

2006年10月28日 | Weblog
監督・脚本:李相日(り・さんいる)
製作:李鳳宇
脚本:羽原大介
撮影:山本英夫
美術:種田陽平
音楽:ジェイク・シマブクロ
出演:
   松雪泰子:平山まどか
   豊川悦司:谷川洋二 
   蒼井優:谷川紀美子
   山崎静代:熊野小百合
   池津祥子:佐々木初子
   徳永えり:木村早苗
   岸部一徳:吉本紀夫
   富司純子:谷川千代
   高橋克実:木村清二
   三宅弘城:猪狩光夫
   志賀勝:熊野五郎
   寺島進:石田(借金取り)
2006/日本/2h ☆☆☆☆★
 
 昭和40年1月15日、福島県いわき市の炭鉱町に“常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)”がオープンするまでに、フラダンスショーの成功を支えた人々の姿を描いた実話の感動ドラマ。『69 sixty nine』の李相日監督が石炭から石油へと激動する時代を駆け抜けた人々の輝きをフラダンスを通じて活写する。主演の松雪泰子をはじめ、『花とアリス』の蒼井優や南海キャンディーズのしずちゃんこと山崎静代らが魅惑的なフラダンスを披露する…。
 石炭から石油へとエネルギー革命が押し寄せ、閉山の危機脱出の為に炭鉱会社が構想したのが、レジャー施設“常磐ハワイアンセンター”だった。当初、ハワイアンセンターの吉本部長の「求む、ハワイアンダンサー」の呼び掛けに集まったのは、僅かに4人。そして娘たちにフラダンスを仕込むために東京から本場ハワイでフラダンスを習い、SKD(松竹歌劇団)で踊っていたダンサー、平山まどか先生を招く。最初は田舎町を軽蔑し、母親の借金を背負って自暴自棄気味で泥酔しないとこんな遠くまでやって来れないまどか先生だったが、紀美子達の熱心さに次第に忘れかけていた情熱が再燃し夢を持つ大切さを思い出す。やがて身内が炭鉱を解雇された娘たちも徐々に加わり、ダンサーの数が増えてゆく。子供たちに教えられ、だんだんと変わっていくまどか先生。言葉に出すわけでは無く、それでも感情の共有部分が増えて子供たちへの愛情が芽生えていくのを感じさせる。特筆すべきは、教え子の一人、早苗がフラガールになる事を快く思っていない父親から顔が腫れ上がるまで殴り飛ばされ髪まで切られた現場に駆けつけ、父親を庇い自分が悪いと落ち込む早苗を尻目に、単身銭湯の男湯に怒鳴り込み、湯船に浸かっていた父親に拳を振り上げるシーン。この裸の男たちの群れの中に突進していく痛快な光景は、まどか先生の感情表現が下手で言葉は少ないが生徒達に対する過多な思いの証しであり、笑いと共に胸を熱くさせてくれます。
 宣伝キャラバンツアーが始まるが、畳敷きの会場で酔客からの野次や物投げに紀美子たちは喧嘩を始めてしまう。帰りのバスで互いに責任をなすりつけ合う娘たちに、まどか先生の一喝「“一山一家”とか言って、出来ないなら出来ないなりに、助け合うとか、励まし合うとか、そういう気持ちは無いわけ?悔しくないならもうやめちまえ!見てるこっちが恥ずかしい!」。そう言って一人バスを降りてしまいます。反省する娘達でしたが最後のキャラバンステージの直前、落盤事故で小百合の父が犠牲となった報が届く。一度は「帰ろう」といったまどか先生だったが早苗のステージを続ける熱意にキャラバンを最後まで行う。しかし炭鉱へ戻ると事故にも関わらずキャラバン続行の責任を取って、まどか先生は東京に戻る事になってしまう。電車に乗り込み発車を待つまどか先生に駆け付けたフラガールの面々は覚えたフラでメッセージを送る。その踊りの意味は“わたしは あなたを 心から 愛してます”。まどか先生はそれを涙ながらに見て残る事にする。劇中、まどか先生の講釈にあるがフラの踊りは一つ一つに意味を持ち、手話的要素を持っているのです。
 そして遂に常磐ハワイアンセンターのオープンの日を迎える。リズミカルな音楽が鳴り響く中、最初は反対していた紀美子の母も含めた大勢の客が詰め掛けたドームのステージに、笑顔(スマイル)をたたえたフラガールたちが登場する!
 見ていて気持ちが良くなるアメリカンな映画です。
☆フラ(Hula)とは、ハワイの伝統的な踊りと音楽を意味する。日本では長い間「フラダンス」と呼ばれてきたが、現在は正しく「フラ」の名称に統一されつつある。

妖精たちの森 THE NIGHTCOMERS

2006年10月24日 | Weblog
製作総指揮・監督:マイケル・ウィナー
製作:アラン・ラッド・Jr
原作:ヘンリー・ジェームズ
脚本:マイケル・ヘイスティング
撮影:ロバート・ペインター
音楽:ジェリー・フィールディング
出演:マーロン・ブランド/ステファニー・ビーチャム/ソーラ・ハード/ハリー・アンドリュース/バーナ・ハーベイ/クリストファー・エリス/アンナ・パーク
1971/英/1h35m ☆☆☆★
 マイケル・ウイナーは、70年代のアメリカ映画「メカニック」「シンジケート」「デスウィッシュ」シリーズ(初期3作)を始めとするチャールス・ブロンソンの一連の作品群や「スコルピオ」と言ったアクション映画の作り手として、ハリウッドで重宝がられたが、元来はイギリスのTVディレクター出身で、業界を扱った「明日に賭ける」や奇想天外な戦争アクション「脱走山脈」、オリンピックの偽善性を笑い飛ばした「栄光への賭け」等、イギリス時代に才気溢れる作品を撮っていた監督である。今作は、商業主義に陥っていたウイナーが、唯一ハリウッドで自身の作家性を見出した異色のねっとりとした人間ドラマである。かのゴシックホラー小説の名作ヘンリー・ジェイムズの『ねじの回転』を原作とした映画。『ねじの回転』は、イギリス郊外にある邸宅に住む二人の幼い姉弟、その家庭教師とメイドが体験する心霊現象の恐怖を描いた幽霊物語である。不慮の事故死を遂げたとされている前任の家庭教師と下男の霊が、それぞれ姉と弟に取り憑き、その肉体を使って生前のような男と女の関係を続けようとするという物語だ。そして『ねじの回転』は1961年に、ウィリアム・アーチボルド、現在映画にもなっているトルーマン・カポーティ、ジョン・モーティマー三人の手を経た脚本とジャック・クレイトン監督によって映画化され高い評価を受けている。本作は61年作品のリメイクではなく、『ねじの回転』の前日譚という体裁になっている。下男ピーターと美しい家庭教師マーガレットの爛れた関係、それを覗き見つつピーターに感化されていく幼い子供たちの姿を、ゴシック調に丁寧に描いている。が故に、美しいイギリスの庭園風景や、これまた心にしみる美しいピアノを主体としたクラシック音楽とともに、得も言われぬ不快感を盛り上げてくれる。そして迎える衝撃のクライマックスは、身の毛もよだつ恐怖を観るものに感じさせる。本作では恐怖の対象としての超自然現象は全く無い。ただひたすらに、19世紀末の上流階級の日常の営みを追い、刹那的に覗く闇を的確に捉えているのだ。下男役でありながら風格たっぷりのワイルドなマーロン・ブランドが好演。翌年の「ゴッドファーザー」で彼は2度目のアカデミー主演男優賞を受ける。
 両親を事故で亡くした、幼い姉弟フローラとマイルズの住むロンドン郊外の屋敷。下男のピーター・クイントは姉弟にとっては良き遊び相手で信頼も厚かったが、粗野で残忍 な一面も持ち、家庭教師ジェセルを力づくで犯しては強制的な肉体関係を続けていた。ジェセルは罪の意識に苛まれながらも、そんなクイントを拒みきれないでいた。しかし屋敷を取り仕切る家政婦のグロース夫人は、二人の関係を察知し、クイントに屋敷への出入り禁止を命じる。不憫に思ったフローラとマイルズは、 二人の愛を永遠に成就させてやろうと考え…。原題の「NIGHTCOMERS」は下卑た言い方をすれば“夜這い”だが、横溝正史を流用して“夜歩く”なんて邦題も良かったのでは。