晴、27度、84%
モモさんが逝く2週間ほど前、福岡は気温が上がりました。寒い冬から春に向かうというよりやや汗ばむほどの4月の陽気でした。あの頃、モモさんは前立腺の肥大が進み、すでに尿も便も出すことができませんでした。尿は毎日採ってもらいに病院に通います。便が出ないで、あそこまで長く生きることができたのは不思議です。前立腺の肥大は足の付け根を圧迫して右後ろ足にむくみが出ました。後ろ足を引きずります。散歩や通院のためにバギーに乗せましたが、自分で歩きたがります。暑いので「ゼーゼー。」少し毛を短くしようと思いました。
香港の頃は3月には毛を短くし始めます。引越しの荷物に変圧器をかけて使おうと入れたバリカンのセットです。 8年以上、毎夏週に1回モモさんの毛を短くしました。バリカンを出してきてさあ刈ろうとした時、私はこんな考えが頭をよぎりました。「モモさんがあちらに行って、お父さん、お母さんに会うのに毛が短いより自然のままで会わせてやりたい。」モモさん13歳です。おそらくお父さんもお母さんももうこの世にはいないと思います。モモさんを買った時、血統書をもらいませんでした。香港のことですから、その真偽がわかりません。モモさんのお母さんもお父さんも生まれた場所も知りません。今考えると血統書をもらっておくべきだったと思います。そんな思いで、一度は開けたバリカンの箱の蓋を閉めました。閉める前に、スリッカーブラシで毛を梳きました。
ココさんの毛を短くし始めて3回目、モモさんの毛がついたスリッカーブラシの入った箱を開けるには勇気がいりました。4月の昼下がりのことを思い出します。モモさんの毛並みや匂いを思い出します。初めはモモさんのスリッカーブラシを入れたまま、ココさんの毛を刈りました。それから2週間、用もないのにバリカンの箱を開けてはモモさんの毛のついたスリッカーブラシを眺めます。毛を取ってココさんも梳いてやらなくてはと思うのですができません。ココさん用のブラシを買いました。モモさんのブラシは毛をつけたまま、大事にしまいました。バリカンの箱にはピンクのブラシが入りました。
モモさん、あちらに渡ってお父さんお母さんに会う時、自然の姿のままで会うことができました。兄弟にも会ったでしょう。しまって置いたモモさんのブラシを見つめていると、ココさんが足元にいます。「暑くなったね、ブラッシングしようね、ココさん。」