やっちゃったな~。
昨日は、久々にやってしまった。
おはようございます。
最近のおたまは、扱いやすい。
おたまは、我が家にやって来て以来ずっと、
あやに拘り過ぎて、逆にあやに嫌われているのに、
それでも、あやにチョッカイを掛けようとする。
けれど、そんな時も、
「ダメよ~、おたーまちゃん」
と声を掛けるだけでやめるようになった。
たれ蔵との関係も落ち着いていた。
以前は、たれ蔵を撫ぜた手で触られるのも嫌がったが、
最近は、たれ蔵と追いかけっこして遊んでいる。
とはいえ、それはたれ蔵の細心の注意の元に成り立っている。
一定の距離、走るスピード、時間、
おたまが嫌がらない範囲を、たれ蔵はいつも探っている気がする。
それなのに、昨日はやってしまった。
訳もなく、いや、おたまには訳があるのかもしれないが、
不意にスイッチが入り、荒ぶっていたのを見て、
「おたまちゃん、やめようか~?」
と声を掛けても止まらない。
多頭でいると、悪戯に興奮させるのは禁忌だ。
興奮が他の猫にも伝染して、あっちこっちで喧嘩が勃発することにも成りかねない。
特に、オス猫が多めの今の我が家は、微妙なバランスで保たれている。
そうなると、大惨事だ。
私は慌てたが、いかんせんトイレに座っていた。
まだ立てない。
だから、トイレから、おたまに声を掛けていたのだ。
でも、そうも言っていられない。
あやは、けたたましいサイレンのように、おたまに威嚇音を発している。
私はグッと出そうな物を腹に引っ込めて、立ち上がり駆け寄った。
すると、おたまは私に向かってシャー!っと威嚇した。
私は再び、腹にこみ上げる物と、ほんの僅かな怒りを堪えて、
おたまを撫ぜた。
いや、撫ぜようと手を伸ばしたのだ。
その時、おたまは、私の手を咬み、シャー!とまた威嚇した。
そして、あろうことか、
その声を聞いて駆け付けた、たれ蔵に、ガブリと噛みついた。
私が咄嗟に
「こらぁ!」と怒鳴ると、
おたまはたれ蔵から離れて走って行った。
私は、シャーっと威嚇しながら走り去るおたまの後ろ姿を見送りながら、
「ああ、やってしまった・・・」
と呟いた。
普段、しょぼくれた顔で寝ている事の多いおたまは、
決して、穏やかな猫じゃない。
それは、拾った時から変わらない。
おたまは、幼い頃からずっと、心に何かを秘めている。
それが何かは、私には分からないし、
おたまは決して隠しておきたいと思っている訳でもないだろう。
けれど皮肉なことに、
私としたら分からないから、おたまを信じられない。
そんな中、おたまは随分変わったところもある。
6年間まったく食べられなかったドライフードも食べるようになったし、
ブラッシングもさせてくれるようになった。
撫ぜると漏れなく咬みついていたおたまが、
ゴロゴロ控えめに喉を鳴らした時、あの時、私は跳び上がるくらい嬉しかったが、
あの時、私じゃなくおじさんが撫ぜている時だったものだから、
嬉しかったけれど、おじさんに飛び蹴りしたくもなった。
「どうして、あたしじゃねーんだよ」って。
環境の変化に最も苦手で神経質なおたまが、
新たに加わった新入りとの日々を、ゆっくりゆっくり構築している。
自分を変えながら、ゆっくりとだ。
よちよちと歩き始めたたれ蔵に、ようやく近づき始めた頃
並んで食事ができるようになった頃
私は、そんなおたまの変化も信じられない。
おたまに、いろんなことが乗り越えられるのかと信じらない訳だ。
一番厄介なのは、実はおたまを信じられない私なのだ。
だから昨日は、しょんぼりしていた。
私もしょんぼり。
おたまも、しょんぼり。
訳も分からず咬まれたたれ蔵も、いささかしょんぼりして見えた。
白い猫と黒い猫と、くすんだ肌の女は、
三角形を作る位置で、それぞれしょんぼりしていた。
「おたまぁ・・・ごめんな」
と声を掛けたら、おたまは頭を上げて目を細めた。
「たれ蔵、ごめんね」
と声を掛けたら、たれ蔵はすっかり熟睡していた。
なんだか、ひどく静かで、この上なく平和な時間だった。
そして、そんな昨日は、よねの命日だった。
よね「あのね、あのねのね~」
何か伝えに来てくれたのかい?
よね「あの子をね、もっと信じてあげてよね~」
そうだよね。
そうなんだよね。
よね「あぁぁ、そこもっと、ゴリゴリしてよね~」
私とおたまは、ゆっくりと進んでいくよね。