母さんが、家出をした。
歩いて1分の、我が家に。
おはようございます。
夕方、玄関チャイムが鳴った。
なんだろう?と出てみると、
そこには、ちゃんとお洒落ウィッグを被った母さんが立っていた。
「どうしたの?」と聞くと、
「家出をしてきたんや!」と言うじゃないか。
まあまあ、入ってよっと迎え入れると、
なぜか、のん太が熱烈な歓迎をした。
のん太「おい、ばばぁ!のんらぞ。覚えてるか?」
母さんは、滅多なことでは我が家に来ない。
のん太と再会したのは、ジジババ保育園以来だから、2年振りだ。
さらに進んでいくと、次はおたまとたれ蔵だ。
おたま「ばあちゃだ!おらの事、おぼえてるか、ばあちゃ?」
おたまとは、何年振りだろうか?
おたまも、子猫の時はジジババ保育園に通った。
たれ蔵「お祖母ちゃん、お祖母ちゃん」
たれ蔵は、母さんの足の間で見上げてる。
たれ蔵も、短い期間だったが、ジジババ保育園出身だ。
やはり、2年振りの再会だ。
とりあえず、酒でも飲むかぁっということで、
私と母さんの酒盛りが始まった。
もちろん、あやもご挨拶をしに来た。
あや「祖母ちゃん、すごく久しぶりね。」
あやは、滅多なことでは来客に姿を見せない。
ということは、あやも母さんをちゃんと覚えているということだ。
「さて、わしは、これからどこに住もうか、考えとるんや」
と母さんは言う。
「ここに住んだらいいじゃん?」と笑うと、
「ここに居ると、ジジィが来るから邪魔くさいわ。
行くとこは、色々あるんや。友達もおるし、ミー(姪)も
わしが行ったると、喜ぶやろうしな。」
と、母さんは言った。
母さんには、そんな友人はもうない。
ミーのおばさんも、突然母さんが来たら、戸惑うに違いない。
母さんは目一杯の虚勢を張っている。
その虚勢は、認知症の母さんに妄想を描かせる。
私と猫達は、それから2時間余り、母さんを囲んで、
母さんの妄想交じりの希望や、父さんの悪口や
どうしようもない孤独感や歳を追う事の絶望を、
静かに聞いていた。
すると、ようやく、私の携帯に父さんからの電話が鳴り、
「お前の猫らは、皆、偉いもんやな~。
ちゃーんと、わしの話を聞いてくれとる。
よし、そろそろ頭も冷えたで、わし、帰ったろうかな?」と
母さんは納得にしたように、立ち上がった。
父さんからの電話を待っていたんだな?っと笑いそうになったが、
私と猫達は、笑いを堪えて、母さんを見送った。
気付けば、日本酒を1本空けていた訳だが、
母さんを実家に送っている私は、フラフラの酔っぱらいなのに、
母さんの足取りは、しっかりとしたものだった。
うんこ「カズコさん、まだまだお元気ね。」
うん・・・すげーよな。
猫っていう生き物も、凄いよな。
2時間で、すっかり人を癒しちゃうんだもん。
ありがとう、愉快な仲間達よ。