私は、毎朝、
母さんにサンドウィッチを作ってもらっている。
おはようございます。
それも、10年以上になるだろうか。
卵焼きとハムのサンドウィッチだ。
最初の頃は、実は味に飽き飽きしていた。
毎朝、同じ具の同じ味がするサンドウィッチだ。
そりゃあ、さすがに飽きる。
ところが、ここ数年の母さんのサイドウィッチは、
毎日食べても、決して飽きることがなくなった。
母さんは「わしは、まんだボケとらん」と頑張っているが、
母さんの認知症は、年々酷くなっていることが、
サンドウィッチを食べていると、よく分かる。
辛子とマヨネーズを間違えて、
大量に辛子が塗られてあった日は泣いた。
あり得ないような間違いをする母さんに、ではなく
単純に辛くて泣いた。
いやもはや、痛かった。
「順番が分からんようになってまった。」と
途方に暮れた顔の母さんを見た時は、
その時は、泣きそうになるのを堪え、
パンの上に卵焼きが乗っかったサンドウィッチを食べ、
「うん、こういうのも、アリだよな」って笑った。
つい先日も、
その日のサンドウィッチは、
なんと、ケチャップの代わりに、イチゴジャムが入っていた。
この、さりげなく斬新なサンドウィッチを、
あろうことか、私はまったく気づかずに、普通に食べていた。
私が出勤した後、残りを食べた父さんは、一口ですぐ気が付いたのにだ。
父さんからの電話に、私は落ち込んだ。
「あたしの舌、バカなの?バカなのか?」とね。
次の日、それを笑い話として
母さんに話そうと思ったが、やめた。
その日の母さんは、ぼうっとしていて、
サンドウィッチを作ることさえ、忘れているように見えた。
「かずこさん?」
恐々、声を掛けると、母さんは、
「昨日、わし、呑み過ぎて二日酔いや」と吐き捨てたから、
「どうしようもねーな」って笑うと、
母さんも、つられて笑った。
私は、母さんが笑ってるんなら、
それでいいやって、思えた。
私の願いは、「母さん、笑ってよ」ってだけなんだ。
ぼうっとしてたら、せっかくのチャンスを見逃すんだね。
ジャム入りに気付けなかったのは、ほんと悔しかった・・・って
おい、おたま!
まだ、寝てんのか?
もうご飯、終わったんだぞ!
おい、そろそろ起きれ。
朝ご飯、食べんと、余計ぼうっとしちゃうぞ~!
あや「あたし、ぶっ飛ばしてやろっか?」
フフフフ、
いや・・・そっとしておこうよ。