青い花

読書感想とか日々思う事、飼っている柴犬と猫について。

花様年華

2016-06-27 07:11:32 | 日記
『花様年華』(2000)は、ウォン・カーウァイ監督のロマンス映画。
主人公のチャウを演じるのは、トニー・レオン。ヒロインのチャン夫人は、マギー・チャン。本作は『欲望の翼』の続編、『2046』の前編ともいわれている。

本作でトニー・レオンがカンヌ国際映画祭にて男優賞を受賞した。その他、モントリオール映画祭最優秀作品賞、香港電影金像奨最優秀主演男優賞(トニー・レオン)・最優秀主演女優賞(マギー・チャン)、金馬奨最優秀主演女優賞(マギー・チャン)、ヨーロッパ映画賞最優秀非ヨーロッパ映画賞、2001年セザール賞外国語作品賞など多数受賞。

≪1962年、香港。新聞社のジャーナリストであるチャウが妻と共にアパートに引っ越してきた日、隣の部屋にもチャン夫人が夫と引っ越してきた。
チャン夫人は商社で秘書として働いている。
チャウもチャン夫人も多忙で、配偶者とはすれ違いの生活が続いていた。それぞれ一人で部屋にいることの多い二人は、本の貸し借りなどを通じて言葉を交わすようになっていく。
ある時、チャウは、妻が夜勤と偽って不倫していることに気づく。
チャウとチャン夫人は、実はお互いの妻と夫が浮気していることを察し始める。そのうちに二人は次第に親密になっていくが…。≫

“女は男に自分に近づく
チャンスを与えたが
男は勇気を出せず
女は去って行った“

冒頭の文言でネタばらしをしているので、二人の物語は出会いの場面から仄暗い破局の気配に満ちている。視る者は、恋の成就の過程ではなく、失われていく過程を楽しむことになる。

言葉による説明ではなく視覚から脳に訴える、映像作品にしか出来ないアプローチ。説明を極限まで排除することによって、視る者の想像をかき立てる。
エモーショナルな音楽と、緑と赤を基調にした官能的な映像。
暖色の室内灯に照らされて煌めくガラスや、時計、鏡、置物。揺れて消える煙草の煙。絡まない視線。チャン夫人が頻繁に着替えるチャイナドレスの柄にも、何らかのメッセージが込められているのかもしれない。

カメラの動きが少ないので、人物が度々画面から消える。
見えない間に彼らは何をしているのか。また、チャウとチャン夫人の逢瀬の場面は、細切れに映像が変わり、会話が少なく、二人の間に何があったかは語られていない。又、彼らの配偶者はいつも後ろ姿で顔がはっきり映らず、何を話しているのかもよく解らない。四人は二組のカップルと言うよりは、バラバラで孤独な単体だ。

甘ったるい愛の囁きも激しい諍いもない乾いた大人の恋愛物語は、胃にもたれることなく、ただただほろ苦い。
登場人物は少なく、物語は終始一貫静かにゆったりと流れていく。いい年をした大人の男女の恋なので、応援したり、諌めたりする喧しい脇役は出てこない。洗練された衣装を身にまとった美男美女は、水槽の中の熱帯魚の様に儚く優美で見飽かない。

ダブル不倫がテーマなのに、がっついた印象が無く、どこまでも上品なのは、主人公二人が自分たちの関係を成就させる気が希薄だからだろう。一歩踏み込まれたら、一歩退く。駆け引きめいた言動も、お互いの距離を縮めるのが目的ではなく、ある程度の距離までしか相手に許さないための牽制なのだと感じた。

“過ぎ去った歳月は
ガラスを隔てたかのよう
見えてもつかめない
彼は過去を思い返し続けた
あの時そのガラスを
割る勇気があれば
失った歳月を取り戻せただろう“

静かに始まり、静かに進行し、静かに終わる二人だけの物語。
ロマンティックな不倫の恋も、成就してしまえば、その先に待っているのは退屈な日常だ。胸が甘い痛みに疼くうちに終わらせるのが正解。硝子越しに揺らめく思い出を懐かしむのが、不倫の恋の醍醐味なのではないだろうか?
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