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毛皮のマリー

2009-05-23 09:03:08 | TV/映画/舞台
美輪さん演じる毛皮のマリーを生で見ることはないだろうと勝手に思っていました。なにせ初演は40年以上前。70歳をこえていきなりバスタブから始まるこの劇はきつかろうと...

ところが奇跡のように今年、再演が決まりました。

う~む、寺山修司を見た、ってかんじです。極端なものが奇妙にミックスをしている舞台。有名な台詞があります。「歴史はみんなウソ、去っていくものはみんなウソ、権力者のために都合よく書かれた歴史もウソ、明日来る鬼だけがホント!」この台詞が全編の基調になっているような舞台。

なにしろ、今、見聞きしたものが次の瞬間にはすべてウソとしてひっくり返されるんです。

たとえばマリーの欣也(吉村卓也)に対する態度。鬼母なのか、聖母なのか、ばかにしているのか、愛のすべてを注いでいるのか、独占したいのか、邪魔だと思っているのか、大切な存在なのか、ころころと態度をかえるので、さっぱりわかりません。おそらくはすべてホントでウソなのです。たとえば、マドロスに「復讐として女の子にしたててやる」といっておきながら、最後には、欣也を守るために女の子にしたて、その美貌をほめやかします...冒頭で白雪姫がまだ生まれていないことを喜ぶ継母のお后から、白雪姫の誕生を心から喜ぶ母親になっちゃう。たぶん、どちらもその瞬間にはホントで、次の瞬間にはウソに化ける気持ちなのでしょう。

ゲテモノにちかいものをひたすら並べる倒錯見せ物劇なのか、デカダンスな美の物語なのか、近親憎悪の話なのか、はたまた崇高な母性愛の物語なのか残酷なのか優しいのか、マリーは、男の子からきれいな少女となり、復讐の女神となり、鬼母と聖母の間をつなわたりで乗り切ったかと思えば、残酷な悪巧みを抱く悪女、色情狂と姿をかえ...振り子がころころゆれて、ウソがホントになり、またそれがいれかわっていき、という舞台でした。たぶん、はじめから終わりまでホントのことだけをいっていたのは素朴なマドロス(菊池隆則)ただ一人。

マリーの衣装も男女ミックスというか、不思議なものでした。女性っぽい色合いとラインなのになぜか片方の胸が常に見えて男性であることを強調。下男が執事のような実直そうな格好から、いきなりバタか、と思う赤い長いすそのスカートをはいてみたり。他の人たちもワダエミさんの衣装で、きれいでしたが、不思議な世界でした。コスプレかと思うと、ふんどしになってしまったりね。

舞台背景もそうでしたね。キノコ雲に突如、桜の花のライトがあたり、あっというまに桜の木になっちゃう。

これはグロかお笑いだろう、という見せ物的なところはたっぷり。まず冒頭の入浴シーン。それから、麿赤児が演じる下男が大変身して赤のドレスに身を包み、醜女のマリーとなって繰り広げるらんちき騒ぎ。怪演でありました。マリリン・モンロー、白雪姫、小野小町、八百屋お七などなど美女の亡霊集団(みんな男性)のコスプレがおおはしゃぎでラインダンスまで踊ってしまいます。一人一人をみるとなかなか容姿端麗な人がはいっているんですけどね、あの格好での男くさいラインダンスって、こわいものみたさで見るとき以外はみたくないかも...

「美少女」紋白(若松武史)もすごかったです。テーマ曲がモー娘。の「LOVEマシーン」でして、それをバックグラウンドに登場します。ロングブーツに、蝶のようなひらひら服にかざりをいっぱいつけたロングヘアという姿は昔のアイドルそのもの。なのに、作り物の胸のオブジェがどーんとのっかってます。で、役柄は美少女。どこがだあ、という見かけなのもご愛敬(笑)よくよく台詞をきいていると、肉欲と純愛を揺れ動いているんですが、見た目も演技もこっけいというかグロテスクというか。欣也がクラシカルな戦前の絵から抜け出したような美少年であっただけに、この二人のやりとりは笑えるというか、居心地が悪いというか...

欣也にしたって、変な子です。男娼マリーに育てられているわけですから、すくすく健康的、なんてありえません。一見、容姿端麗で上品な男の子。18歳にもなって外にでたことがなくて、家の中で網をふりまわしてマリーが離した蝶をおいかけまわしている、という変な子。マザコンなのはまちがいなくて、気も弱いのに、おそろしく残酷な面もある...

流れている音楽の組み合わせも奇妙です。昭和初期の流行歌、シャンソン、三味線、...なんじゃ、これ、というくみあわせ。桂冠詩人ならぬ鶏姦詩人なんてのもでてきましたね。兜に鶏冠とお尻に巨大な鶏の尾をつけているという爆笑の格好で、お月様と星を手にもっています。さらには五七調でたたえる詩を作るといいつつ、どこがそうなんだ、って詩を作ってくすくす笑わせてくれました。

好きか嫌いかは、実はよくわかりません。が、ものすごいものを見たのは確かです。美輪さんの舞台はたくさんみましたけど、これが一番の問題作なのはまちがいありますまい。台詞の一言一言、細かい演技、衣装、ライト、音楽を含む舞台美術と、たいへんよく練られた熟成の舞台です。

ラストは華麗なクジャクを背景に金粉が降り注ぐ中、美輪さんと吉村くんのお辞儀でしめくくります。拍手にこたえる美輪さんのお辞儀の美しさはいうまでもないですが、吉村くんもなかなかがんばってました。美しい組み合わせでありました。

グロテスクで華麗な美輪版マリーは、もう見ることはないでしょうから、この機会にぜひ。アングラってこれなのね、って納得しちゃう舞台です。趣味にあうかどうかはともかくとして、忘れられない舞台といえましょう。

原作は文庫本ででてます。が、文字で読むより、舞台のほうが内容が豊かかもしれません。

戯曲 毛皮のマリー・血は立ったまま眠っている (角川文庫)
寺山 修司
角川グループパブリッシング

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