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名門校殺人のルール

2006-11-14 21:10:16 | 
名門校 殺人のルール

新潮社

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閉鎖環境って、ミステリにぴったりの舞台ですね。孤島なんてのはその最たるものですが、学校もそうだといえるんでしょう。P.D.ジェイムズの神学校の死のように、学校もミステリにふさわしい閉鎖環境といえるのでしょう。

エリザベス・ジョージのリンリー・シリーズ3作目「名門校殺人のルール」は、その学校を舞台にした作品。タイトルはどうよ、これ、っていう気がしないでもありませんし、シリーズ初期の特徴であるという猟奇的殺人色も濃いので好き嫌いがわかれるかもしれません。しかし、構成の緻密さ、古典劇を思わせる重厚さ、人物造詣のうまさ(たくさん登場人物がでてくるのに、混乱してしまうことはまずない)、描写力と、これでもか、というぐらい濃厚な本格ミステリにしあがっています。特に人物造詣がすぐれているかもしれません。たくさん登場人物がでてくるのに、混乱してしまうことがまずありえないのは2作目と同じです。それになおかつ、関係者の個性や境遇のぶつかりあいが、少年の殺害という悲劇を生み出したというのを読者に納得させてしまうような力技をやってのけているところがすさまじい。

リンリーのイートン時代の同級生で、今は古い名門校で全寮制の私立学校ブレッドガー・チェンバーズの教師で寮監をしているジョン・コーンテルが、生徒の一人が学校を抜け出し、行方不明になったと、スコットランドヤードのリンリーのもとに相談にやってきます。結局、少年の死体が学校から遠く離れた教会の木の下で見つかります。捜査に乗り出したリンリーとバーバラ・ハヴァースのコンビは、優秀なシニア監督生チャス・キルターの案内のもと、学校の捜査を開始します。名門校とは思えないほど荒れた寮、そこで繰り広げられるいじめや風紀の乱れ、おびえながらも生徒同士の告げ口を大人にしないという名誉の掟にしばられ、口をつむぐ生徒たち、秘密を警察より隠そうとする教師や学校理事、過去におこった自殺事件という暗い事実が次々と明るみにでていきます。さまざまな要素が巧妙に絡み合い、謎が一転、二転する展開はなかなかのもの。物語の始まる前に書かれた引用「うっかり屋根越しに放った矢が、偶然に己れの兄弟を傷つけてしまったのだ(『ハムレット』っていうのが最後の最後にきいてくるというおまけまでついてます。この引用のせいか、チャスが部屋に飾り付けているさまざまな英詩の引用のせいか、古典の悲劇のような味わいをもっている作品にしあがっているような気がします。

また、おなじみのレギュラー陣にまた会えるというシリーズならではの楽しみも味わうことができます。今回は、前回、旅にでてしまったヘレンとリンリーのその後の展開、前作までは幸せそうだったサイモンとデボラ・セント・ジェームズ夫妻の思いもよらない断絶、病気の両親を抱えて奮闘しているバーバラの私生活の変化などが描かれています。時間の経過とともにリアルに変わっていくレギュラー陣の人生を見るのは、一種の大河ドラマを見てるみたいなもんですね。

このシリーズはしつこくお付き合いしていく予定。


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