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玉藻前曦袂

2007-04-21 22:38:44 | TV/映画/舞台
文楽公演に行ってきました

今日は午前の部の「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」について書きます。

全体の話はとっても複雑なものらしいです。鳥羽院の寵愛を受けていた女性が実はインドや中国でも国を滅ぼす元となった美女に化けた九尾の妖狐で、安倍泰成の祈祷で都を終われ、その後、殺された後も、執心が残り殺生石となった、という 謡曲「殺生石」をもとにした物語。一段目と二段目は天竺、唐土を舞台にしているそう。今回上演されたのは「清水寺の段」「道春館(みちはるやかた)の段」です。

日蝕の日に生まれたために帝位につけなかった薄雲皇子(うすぐものおうじ)は陰謀をたくらんでいます。皇子の敵であった右大臣道春もなくなり、その秘蔵の獅子王の剣も鷲塚金藤次(わしづかきんとうじ)に盗ませて手に入れ、野望を果たそうとしている皇子は道春の娘桂姫(かつらひめ)を入内させようとしますが、安部采之助(あべうねめのすけ)に恋している姫は応じようとしません。腹をたてた皇子は金藤次に姫の首を討ってこいと命じます。道春の奥方である萩の方は、桂姫が実は子供のできなかった道春が神社の近くで拾ってきた拾い子であること、雌龍の鍬形を添えて捨てられていたその桂姫を神から授かった子供と思い、実の娘である初花姫(はつはなひめ)が生まれた後も大事に育ててきたことを語り、初花姫を桂姫の身代わりにしてくれるように頼みます。お互いにかばいあう姉妹をみて、双六で負けたほうの首を討つことになりました。負けたのは初花姫。ところが金藤次は桂姫の首を討ちます。それに怒った萩の方、采女之助が金藤次を討ちます。実は、桂姫は金藤次の実の娘でした。知らぬことであったとはいえ、娘を育ててくれた恩人から獅子王の剣を盗んだばかりか、恩人の娘である初花姫を殺すことなどできないと、娘の桂姫を殺し、わざと自分を討たせたのでした。金藤次が息絶える中、采女之助は姫の首を持ち、獅子王の剣を取り替えそうと薄雲皇子のもとにでかけていきます。ここで幕。

この後、初花姫は入内して、玉藻前と呼ばれ、帝の寵愛を受けるのですが、九尾の妖狐に食い殺されてしまうそうです。しかし、采女之助が取り返した獅子王の剣を安部康成が抜くと、狐は招待を表し、那須野ヶ原に逃げていく、という展開になるそうです。

今回、大熱演で非常にすばらしかった咲太夫(さきたゆう)に拍手。かばいあう母と姉妹の心中や、悪人と思いきや、実は善人であったことがわかる鷲塚金藤次の葛藤を面白くきかせてくれました。特に金藤次はよかった。悪人らしく振舞うところは、耳障りな笑い声をあげて観客をいらだたせ、心中を明かした後は、義理の堅さ、弱さや暖かさを見せてほろりとこさせくれました。 太夫さんがよいと、三味線(鶴澤燕三)、人形が乗るようで、姫が打たれた後からはテンションがあがりっぱなし。生みの両親に一目会いたいといって死んでいった桂姫の首をかきいだいて、「コリャ娘、父ぢゃわやい、なぜ物言ふてはくれぬぞ」となきくずれるところなど、三役がぴたりとあい、泣けました。

それから、道春館のはじめに登場した鶴澤寛治の名人芸にも拍手を。でだしの初花姫の琴をあらわす演奏など聞きほれました。同じ三味線でどうしてこれだけ音が違うのでしょう

セットも初夏の若葉を思わせるさわやかな色合いを基調としたお屋敷で、ふすまに花の絵があり、姫たちが住む住居らしく華やかな雰囲気にあふれています。同じようにだいじに育てたことを示すためか、最初は姫二人は赤の振袖、そして自分こそが首を討たれて死のうと考えたときもやはり雪柳の白でおそろい。思い切った転換がよいですね。切り髪姿の萩の方の鼠色の綸子の打掛も格をかんじさせるものでした。采女之助の青を基調とした衣装はきりりとした雰囲気。金藤次はそれほどの年でもないはずなのに、棒茶筅の先まで真っ白な白髪頭。始めは憎憎しげに見え、後では哀れに見えるのも、この白髪頭がきいているんでしょうかね。

気になったのが、文雀さんが前よりも足下がやや心もとなげに見えたこと。金藤次を討たんとして、壁にかかった長刀をはずすところがあるんですが、もうちょっとで遅れそうで(太夫の言葉が先にいってしまいそうで)一瞬ひやっとしました。1928年生まれですからね。なんとか元気でいてもらって、あの渋い名人芸をまだまだ見たいもの。

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