ハイエク 知識社会の自由主義

ハイエク 知識社会の自由主義 (PHP新書 543) 池田 信夫 PHP研究所 このアイテムの詳細を見る

ずっと昔、サッチャー首相が、ハイエクを大いにとりあげていましたっけ。自伝にも何度も登場します。気にはなったのですが、まったく読んでなかった人です。

著者はパワーブロガーの池田信夫教授。この人のブログは毎日チェックせずにはいられません。そこに書かれている意見はどうもハイエクが根底に流れている思想家の一人となっているようで、やっぱり一度ハイエク関連の本を読んでみなければ、と思ったわけです

経済学者として有名ですが、博士号をとっているのは実は法学と社会科学。経済学はもちろんのこと、政治哲学、法哲学、心理学と幅広い範囲で活躍をしていますので、一筋縄ではいかないわけです。

この本は、その多岐にわたるややこしいハイエクの全体像を説明しようとした入門篇です。ところが、単なる入門篇にとどまっていなくて、現在の景気が混乱した情報ネットワーク時代を読み解くにあたって、ハイエクをこう使うと良い、という筆者の持論が開示されている本でもあるのです。だから、入門篇になっている部分はわかりやすく、それ以外の章は　ごとにわかりやすいところとわかりにくいところがあるような気がしました。

第一章　帝国末期のウィーン、第2章　ハイエク対ケインズ、第3章　社会主義との闘い、第6章　自由主義の経済政策あたりはたいへん明快で面白いものでした。本の約半分にあたるので、この部分だけでも十分に元がとれたというかんじ。経済学にそれほどくわしくなくても楽しめます。第一次大戦の敗戦によってすべての価値が崩壊してしまったウィーンで生まれた懐疑主義の色が濃いオーストリア学派はもちろんのこと、シカゴ学派（マネタリスト）、ケイジアン、マルクス主義の説明、他学派をハイエクが批判した理由などがとりあげられています。戦前から一環して社会主義の欠陥を見抜き、批判を続けたハイエクの洞察力と勇気は驚くほどです。

また、2章あたりを読むと、麻生新総裁が率いる自民党政権が続こうと、小沢党首の民主党に政権交代になろうと、どうも行われそうなのが景気対策（別名ばらまき対策）がまったく不合理なものに思われてきます。小渕政権で行われたケイジアン的景気対策にゼロ金利政策は効果があった気がしなかっただけでなく、財政の大赤字体質を生んだわけですし...　第一、赤字財政から黒字へ転換して景気を回復させた国はケインズ流景気刺激策をとっているわけでもありません。財政均衡社会主義がダメだ、というのはもはや常識になっていますが、ケインズ流景気政策もダメだ、というのは世界的に見れば、そろそろ常識になっているのでは。

問題は、経済を超えた範囲をとりあげた章。第4章「自律分散の思想」、第5章「合理主義への反逆」、第7章　自生的秩序の進化、第8章　自由な社会のルール　あたりは、理解できた気がしません。8章は私個人の問題かもしれませんが。結論などはたいへん面白いです。「分配の正義」は幻想にすぎない、というのはブログでもとりあげられているテーマで面白いと思っているのですが、本書では世界の法体系の概論の説明、日本の法の特徴をとりあげていたのが、いきなりハイエクにうつり、結論がきてしまった、ように思えました。

ともあれ、上の4つの章はハイエクの守備範囲の広さと現在に通じる思想をとりあげたところで、今となっては経済面での功績よりも大きな意味を持つのかもしれません。再読した上で、他の人の書いた解説本か、ハイエクそのものに挑戦するのがよいのでしょう。

手軽なところでは下の本でしょうか。

自由をいかに守るか―ハイエクを読み直す (PHP新書 492) (PHP新書 492) 渡部 昇一 PHP研究所 このアイテムの詳細を見る

池田教授が今読んで面白いといっているのは次の本。出版社から、「近年ではとくに、`知識論'がインターネット思想を半世紀も先駆けて展開していたことによって、注目されています。その知識論とは、社会主義国家や官僚国家に代表される中央集権的な知識のあり方を否定し、インターネットやウィキペディアに代表される`非中央集権的'システム、`自律分散的'な知識のあり方を提示したものといえます。さらには、`地方分権'の背骨となる思想とも言えます。ハイエク思想、21世紀を知るうえで、読んで損のない一冊。 」というコメントがあがっています。たしかに現代的。高いのが難点。

個人主義と経済秩序　ハイエク全集 1-3 【新版】 ハイエク 春秋社 このアイテムの詳細を見る

元気があれば、原書ですかね。やっぱり。Amazonのレビューを見ると、訳本はあまり読みやすくないようなので。わかった気になれない8章の内容を理解するにはよさそうです。

The Constitution of Liberty (Routledge Classics S.) Routledge このアイテムの詳細を見る