12月28日、民主記念塔周辺を大規模に占拠する反タクシン派集会で、熱弁を振るうステープ元副首相
反政府運動で揺れるタイ王国だが、来年1月中にタイ全土でさらなる激しい活動が展開される見通しだ。
今回の反政府運動は、これまでの戦術とはまったく様相が異なっている。
これはもはや、すべての建前を剥ぎ取った、本音だけの戦いと言ってよい。
倒すか倒されるかのどちらかしかない。
もしこの戦いに敗れれば、すなわちタクシン一族がタイ王国に”新王朝”を築く。
タクシン王朝によって、タイ王国は欧米資本の草刈場と化し、あとには草木一本残らないだろう。
丸裸にされた山が元の緑にもどることはない。
森林を失えば、豊かな土壌は、一雨で流れ去ってしまう。
これはそういう戦いなのだ。
妥協はありえない。
5月7日、タイの英字新聞Bangkok Post を広げると、UDDが10万人を集めると豪語していた。
そして、10万人集められなければ、占拠をやめると宣言した。
紙面におどる100,000という数字はかなり非現実的だ。
できもしない数字を挙げた意図がよくわからない。
※UDD : 反独裁民主戦線、親タクシン派団体、通称「赤シャツ」
UDDは、憲法裁判所判事9名全員の辞任を要求して、憲法裁判所前を占拠し続けていた。
タイの現行憲法は、2007年に暫定政権が起草し、国民投票を経て承認された。しかし、現与党タイ貢献党とその支持団体UDDは、この2007年憲法の改定の動きを強めている。憲法裁判所は、彼らの改憲案に対する合憲性を検討する決定を下した。これに反発したUDDは、憲法裁判所前を占拠し、判事全員の辞任を要求したというわけだ。
※タイ貢献党の事実上の党首は、海外逃亡中のタクシン元首相
占拠を実行したのは「民主化運動のためのラジオ放送者」というUDDの一派だ。しかし、この占拠グループの言動は徐々に不穏当になり、判事全員の拘束さえ口にし始めた。そのため、他のUDD組織は、とばっちりを恐れてこの占拠作戦から手を引いてしまった。
結局のところ、UDD本体が空想的な10万人集会を謳い、実現できなければ占拠をやめると宣言したのは、このやっかいものになった身内を円満に現場から排除するためだった。
そうとも知らず、翌8日、くだらない茶番の現場にまんまと出かけてしまった。
昼過ぎに憲法裁判所前に着いたが、占拠組みは拍子抜けするほどまばらだった。赤シャツを着ている者も少ない。どうもいつもと様子が違うとは感じた。参加者の一人が、集会は午後4時からで、6時に終わると教えてくれた。そんな短時間の集会も聞いたことがない。
夕方になるとピックアップやバイクが集結し始め、多少、赤シャツ集会らしくはなった。
そして、占拠を実行したグループによる短い会見が行われた。
その後、集会はじつにあっさり終了した。
最終的にこの10万人集会に集まったのは、警察発表で2800人だった。彼らが占拠している場所はそれほど広くない。この立地を知っている者なら、10万人集会は最初から見え透いたブラッフだと分かっていただろう。現に、この集会には外国メディアの姿はなかった。のこのこやってきた外国人はたぶん僕だけだ。
ただ、UDDが一度はじめたことを、笑いものになるのを覚悟で自ら幕を引くというのはめずらしい。占拠グループが本当に裁判官を襲撃する恐れがあったのかも知れない。UDDはタイ貢献党の事実上の下部組織だ。たとえUDDの一派が起こした事件でも、それはタイ貢献党の暗黙の了解があったとタイ国民は理解する。そうなれば、政権与党であるタイ貢献党の立場は極めて悪くなる。
もともとUDDの問題解決方法は、恫喝や脅迫、そして暴力だ。都合の悪い存在は暴力的に排除せよという発想なのだ。したがって、この占拠グループが判事全員の拘束を公言したのも、別段驚くほどのことではない。しかし、これほど法治国家の原則をあからさまに無視した発言もない。さすがのタイ貢献党もこれはまずいと感じたのだろう。
しかし占拠グループは、タイ貢献党の思惑をストレートに表現してしまっただけの話なのだ。タイ貢献党がタイ王国の全権を掌握するためには、まず憲法裁判所を無力化しなければならないからだ。
タイ貢献党の前身は、この憲法裁判所によって二度解党処分を受けている。その度に衣を変えて活動を再開している。タイ愛国党からPPP(パラン・プラチャーチョン党)へ、PPPから現在のタイ貢献党へ。解党処分になると党幹部は5年間政治活動を禁止される。
タイ貢献党にとって、憲法裁判所は、改憲の前にそそり立つ障壁であると同時に、憎き仇敵でもある。なんとしても憲法裁判所を骨抜きにしたい。そして、行政、立法、司法のすべてを支配化に置きたい。法の支配ではなく、独裁こそが彼らの望みなのだ。
憲法裁判所への攻撃はこれから本格化する。
参考資料
2013.04.24 Reds rally at Constitution Court
http://www.bangkokpost.com/news/local/346799/red-shirt-protesters-demand-removal-of-all-nine-charter-court-judges
2013.04.26 Red-shirt protest to call for freeze on charter judges' pay
http://www.bangkokpost.com/news/politics/347066/red-shirt-protest-to-call-for-freeze-on-charter-judges-pay
2013.04.27 PT:Thaksin not behind pressure on judges
http://www.bangkokpost.com/news/local/347316/charter-court-protest-not-thaksin-idea
2013.04.27 Reds threaten to capture judges
http://www.bangkokpost.com/news/local/347230/reds-threaten-to-capture-judges/page-5/
2013.04.29 Pressure on charter judges continues
http://www.bangkokpost.com/breakingnews/347592/rally-demanding-resignation-of-charter-court-judges-in-eighth-day
2013.05.06 Korat reds to join mass court protest
http://www.bangkokpost.com/breakingnews/348668/korat-red-shirts-to-join-mass-protest-against-constitution
2013.05.08 Concern as red shirts threaten mass protest
http://www.nationmultimedia.com/politics/Concern-as-red-shirts-threaten-mass-protest-30205645.html
2013.05.08 Red protesters heading for parliament
http://www.bangkokpost.com/news/politics/348993/red-shirts-march-on-parliament-demanding-removal-of-the-constitution-court-judges
2013.05.09 Thaksin key to rally's end
http://www.bangkokpost.com/news/politics/349080/thaksin-key-as-red-shirts-call-off-protest
2013.05.10 Reds petition court to probe 3 of its judges
http://www.bangkokpost.com/news/politics/349269/reds-petition-court-to-probe-3-of-its-judges
2007年タイ王国憲法の制定過程とその成立
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/235/023510.pdf
タイの新憲法公布と総選挙に向けた課題
http://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/rim/pdf/2687.pdf
「2007年タイ王国憲法」
http://www.jetro.go.jp/world/asia/th/business/regulations/pdf/general_1_2007.pdf
4月10日、バンコクでUDD (反独裁民主戦線:親タクシン派団体)が大規模な集会を行った。
この日は、2010年の騒乱の三周年にあたる。
三年前、軍とデモ隊との銃撃戦で双方合わせて92人が命を落とした。
デモ隊側は軍用火器を所持する武装部隊を密かに準備していた。
バンコクで最も華やかなショッピング街と近代的なビジネス街は戦場と化した。
UDDの集会やデモはこれまでいく度となく取材している。
主だった幹部は全員撮影した。
最高幹部二人は、インラク政権の閣僚に登用された。
その他の主要幹部も2011年の選挙で議員になっている。
今回の集会に参加したUDD幹部コーケオ(Kokaew Pikulthong)氏も下院議員になった。
ただし、騒乱時の活動がテロ行為にあたるとしてテロ容疑の被告でもある。
現在、保釈取り消しの審査中であり、拘置所にもどる可能性もある。
UDDの "チームカラー" は赤で、集会はいつも真っ赤になっている。
そのためタイの英字新聞は記事の冒頭でUDDの正式名称を記載したあとは" red shirts "と表記するのが常だ。
見出しは" Reds "を使用することもある。
ただし、非公式の武装部隊は赤シャツではなく、全身黒を着用する。
そのためメディアは" Men in Black " と表記するようになった。
この武装部隊を編成し訓練した指揮官は軍を離反したカティヤ陸軍少将だった。
彼は、2010年5月、屋外でのインタビュー中にビルの上から頭部を狙撃され死亡した。
饒舌なカティヤ少将が死亡し、 Men in Black の詳細は闇の中に消えた。
この部隊を捉えた画像や映像は極めて少ない。
UDDは武装部隊の存在を否定しているようだが、タイ国軍は幽霊に銃撃されたとでも言うのだろうか。
姿を現さず、タイ国軍に銃撃を加え、証拠を残さず消え去るという芸当を演じた戦闘集団がいたことは間違いないのだ。
UDDは毎年、騒乱の犠牲者を追悼し、タイ国軍を非難している。
しかし、犠牲者がいったい誰の弾丸によって命を奪われたのかは、いっさい答えは出ていないのだ。
もしそれが武装部隊の弾丸であったとすれば、ほとんどの犠牲者は味方に銃撃されたことになる。
デモ隊に多数の死傷者が出れば、有利になるのはUDD側であることは間違いない。
それを物語る新証言も出ている。
2011年7月の選挙で、UDDが支持するタイ貢献党は過半数を獲得して政権与党に返り咲いた。
これでMen in Black の正体と、92人の犠牲者の死の真相の解明は極めて困難になったと言える。
Kokaew Pikulthong(UDD幹部、タイ貢献党下院議員)、右
UDD議長Thida Thawornseth、手前
<参考資料>
騒乱三周年
2013.04.10 衝突から3年 タクシン派団体、バンコクの民主記念塔で集会
http://www.newsclip.be/news/2013410_037727.html
2013.04.10 Reds gathering at Ratchadamnern
http://www.bangkokpost.com/news/politics/344813/udd-rallying-at-ratchadamnern
2013.04.10 Army asks DSI for deaths probe update
http://www.bangkokpost.com/news/local/344803/army-wants-progress-report-from-dsi-on-inquiry-intp-soldiers-deaths-at-khok-wua-in-2010
2013.04.10 Army chief also demands answers
http://m.bangkokpost.com/topstories/344844
2013.04.11 Tensions stirred on anniversary
http://www.nationmultimedia.com/politics/Tensions-stirred-on-anniversary-30203855.html
2013.04.11 陸軍司令官、「デモ死傷者への補償で兵士と参加者とで差をつけるな」
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=1867
Men in Black
2010.04.27 Who are Thailand's mysterious black-clad gunmen?
http://www.reuters.com/article/2010/04/27/us-thailand-politics-gunmen-idUSTRE63Q1F220100427
2010.05.29 Unmasked:Thailand's men in black
http://www.atimes.com/atimes/Southeast_Asia/LE29Ae02.html
2012.09.14 Thai army, red shirts blamed for 2010 violence:report
http://www.asianewsnet.net/news-36333.html
2012.09.19 Who were the men in black?
http://www.bangkokpost.com/learning/learning-from-news/313086/who-were-the-men-in-black
2012.10.13 Democrat convoy tours 2010 'men in black' sites
http://www.thaivisa.com/forum/topic/590830-thai-democrat-convoy-tours-2010-men-in-black-bangkok-sites/
2012.10.14 Democrats:Thaksin was behind 'men in black'
http://www.nationmultimedia.com/politics/Democrats-Thaksin-was-behind-men-in-black-30192301.html
2013.04.10 Men in black 'sparked unrest'
http://www.bangkokpost.com/news/local/344713/men-in-black-parked-unrest
新証言
2013.03.19 パトゥム・ワナーラム寺院の6名の殺害に軍は関与していない、フランス人ジャーナリスト証言
http://www.suzukitk.com/
2013.03.18 Journalist puts troops in clear
http://www.bangkokpost.com/news/local/341195/journalist-puts-troops-in-clear/page-2/
2013.03.19 Journalist clears King's Guard
http://www.bangkokpost.com/learning/learning-from-news/341308/journalist-clears-king-guard
UDDコーケオ幹部
2012.07.16 刑事栽、与党議員の保釈取り消し検討、過激発言が発端
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=240
2012.08.10 Court hears both sides over bail
http://www.nationmultimedia.com/politics/Court-hears-both-sides-over-bail-30188028.html
2012.11.14 Court delays red-shirt terror
http://www.nationmultimedia.com/politics/Court-delays-red-shirt-terror-30196108.html
2012.12.03 タクシン派議員、保釈取り消しで刑務所に逆戻り
http://www.bangkokshuho.com/article_detail.php?id=1083
2013.03.25 Criminal Court Schedules April 19 To Hear Kokaew's Bail
http://www.nationmultimedia.com/breakingnews/Criminal-Court-schedules-April-19-to-hear-Kokaews--30202672.html
6月12日、CNNのタイ特派員 Dan Rivers は、タイ外国特派員クラブで短い声明を読み上げた。彼は、タイメディアによる、自分とCNNに対する「偏向」報道批判は、まったくの誤認であると主張した。
しかし、外国メディアと同じ現場で取材しているタイのメディアにとって、外国メディアが、タイ情勢をどのように伝えているかは、誰よりもよく分かる。外国メディアが事実を適切に伝えていないとしたら、その報道姿勢に疑問を持つのは当然のことだ。特に、CNNのような影響力の大きなメディアならなおさらだ。
問題は、いくつかの外国メディアは、一方の見解だけを報じたことだ。
パチンコや花火、爆竹、ロケット(花火)しか持っていないわれわれに対して、治安部隊は軍用の武器で武装しているのだ、と語るデモ参加者と幹部をCNNは取材しているが、アル・ジャジーラは、銃を所持するデモ隊の証拠写真を掲載している。
2010.05.25 The Nation
Answers sought to media 'bias'
http://www.nationmultimedia.com/home/2010/05/25/politics/Answers-sought-to-media-bias-30130098.html
5月13日以降の武力衝突で、タクシン派団体UDDも軍用の自動小銃を用いて発砲を繰り返していたことは歴然としている。UDDが逃走した後には、遺棄または隠匿していた多量の武器弾薬が発見されている。パチンコや花火は、非力を装うプロパガンダにすぎない。
CNNが、UDD側の武装について知らなかったということはあり得ない。しかし、実際の報道では、あたかもUDDはパチンコやロケット花火だけで、武装した治安部隊と戦っているかのような印象を、世界の視聴者に与えようとした。こうしたCNNの報道を見て、タイのメディアや視聴者が、その報道姿勢に疑問を持つのは自然の成り行きだった。
こうした批判に対するCNNの特派員 Dan Rivers の反論はこうだ。
「4月9日以来、われわれは、15回もの民主党のライブ・インタビューを行なっている。衝突が発生した日には、政府関係者との7回のインタビューを行なっている」
「タイメディアの一部は、われわれが黒シャツ隊の映像を意図的に隠匿している、と主張しているが、それは事実ではない。われわれは、映像を入手したあと、ただちに放映している」
「わたしはさらに、赤シャツは武装していないと発言した、と告発されている。実際は、衝突の前日(5月18日)のレポートで、われわれは、4月10日の事件で黒服の男たちが自動小銃を発砲している様子を放映した。ただ、自分自身の目で、それらのガンマンを見たのかを問われたので、私は”No”と答えた。しかし私は、デモ隊が武器を所持していると地元メディアが報じていること、政府は500人の武装民兵が赤シャツ隊の中にいると主張していることを、繰り返し伝えた。だが、わたしの後半の説明は留意されなかった。そして、ツィッターとフェイスブック上では、CNNが赤シャツは非武装だと報じている、と感情的な反応が巻き起こった。だが、事実は違う」
2010.06.12 The Nation
CNN, BBC correspondents defend coverage
http://www.nationmultimedia.com/home/2010/06/12/politics/CNN-BBC-correspondents-defend-coverage-30131418.html
これだけを読めば、CNNは公平な報道をしたような印象を受ける。
しかし、この声明の中で述べられている「4月10日」の黒シャツガンマンの映像は、タイ政府によって公開されたものだ。この映像は、世界中に配信されている。したがって、すでに世界中に配信された映像の「隠匿」をタイメディアが問題にしているのではないことは明らかだ。それを知りながらCNNは、政府発表の映像を放映していると、わざととぼけている。
タイメディアの指摘は、CNNが独自に撮影した黒シャツガンマンの映像があるはずだということだ。おそらくその指摘は正しい。黒シャツガンマンの映像は、ユーチューブにも投稿されているのに、豊富なスタッフを抱えるCNNに、まったく撮影のチャンスがなかったとは考えにくい。もしくは、そのチャンスがあったとしても生かさなかったかだ。
また、Rivers はこのレポート(Who are Thailand's men in black?)の中で、「500人の武装テロリストがUDD内にいる」という政府発表を確かに伝えてはいる。しかし、それをもって報道が公平だ、ということにはならない。公平さを装うためのコメントや映像の挿入は実にたやすい。映像や音声、ナレーションの編集如何で、視聴者に与える印象は操作できる。
Dan Rivers は声明の中で、「わたしの後半の説明は留意されなかった」と、まるで視聴者に責任があるかのように主張しているが、それこそが、メディアの巧妙な操作の結果を表わしている。レポートの中で強調したい事と、そうでないことを効果的に分けているのだ。
しかも、今回のように批判されたとしても、われわれは公平に双方の主張を報道しているのに、視聴者が勝手に誤解して、われわれを批判しているのだ、と責任を転嫁することができる。
しかし、タイの視聴者の方が正しい。CNNの意図は明らかだ。架空の構図を世界に印象づけようとしたのだ。花火しか持たない非力なデモ隊を、重武装した治安部隊が無慈悲に弾圧しているのだ、と。
タイの視聴者やメディアが、CNNの「偏向」を見抜いたのは、彼らがすべての事情に通じている当事者だからだ。特に同じ現場で取材しているメディアにとっては、CNNの恣意的な報道は一目瞭然だっただろう。しかし、世界の視聴者にはそんなことは分からない。CNNにとって、当事者のタイ人のことはどうでもよいのだ。BBCにいたっては、「あらゆる異議は大歓迎」と、タイメディアやタイ視聴者の批判を一顧だにしていない。
「偏向」報道こそメディアの使命
CNNに限らず、海外の主要メディアは、これまでのタイ情勢について、一貫して、タクシン元首相とタクシン派団体UDDに有利な報道を心がけてきた。
タイ報道に関して、外国主要メディアは「公平で中立」という仮面をはずし、「偏向」した報道を行なっていることは明らかだ。しかし、それが本来のメディアの姿であると認識している人は少ない。タイ報道は、決して例外的な事例ではない。メディアに公正な報道を期待する方がそもそも間違いなのだ。
メディアとは、公正さを装いながら、意図した方向に視聴者や読者の感情・思考を誘導する機関であり、そうしたノウハウとテクニックを長い歴史の中で磨き、積み上げてきた。こうした組織的記憶が、メディアの最大の知的財産と言える。メディアは、素材を注意深く選別して、巧みに加工し、慎重に効果を計算したあと、世に送り出す。事実や真実を伝えるという観点などメディアにはない。それは目立つ場所に掲げられてはいるが、単なる供え物にすぎない。
メディアは、決して、主体性を持つ独立した存在などではない。大きなメカニズムの一要素なのだ。大きな歯車が一回転する間に、小さな歯車群が忙しく回転して、次々に回転を伝達していく。メディアとは、そういう歯車群の一部にすぎない。独自に回転する能力は持っていないし、その意思もない。
メディアの存在意義とは、事実や真実を加工して、まったく別のものに造り変えることなのだ。
<参考資料>
2010.05.25 The Nation
Answers sought to media 'bias'
http://www.nationmultimedia.com/home/2010/05/25/politics/Answers-sought-to-media-bias-30130098.html
2010.06.12 The Nation
CNN, BBC correspondents defend coverage
http://www.nationmultimedia.com/home/2010/06/12/politics/CNN-BBC-correspondents-defend-coverage-30131418.html
2010.05.18 CNN
Who are Thailand's men in black?
http://edition.cnn.com/video/#/video/world/2010/05/18/rivers.thailand.men.in.black.cnn?iref=allsearch
2010.05.18 CNN
Escalating violence in Bangkok
http://edition.cnn.com/video/#/video/world/2010/05/18/sidner.thai.red.shirt.leader.cnn?iref=allsearch
2010.04.28 Al Jazeela
Soldier dies as red shirts and Thai military crash
http://www.youtube.com/user/AlJazeeraEnglish#p/search/59/25G2D-5iogI
2010.05.15 YouTube
Armde black shirt men
http://www.youtube.com/watch?v=F_xg0l6-oHY&feature=player_embedded
2010.05.20 Bangkok Post
Munitions found at rally site
http://www.bangkokpost.com/breakingnews/178573/explosives-ammunition-found-at-rally-site
2010.05.21 バンコク週報
大量の武器弾薬を発見
http://www.bangkokshuho.com/news.aspx?articleid=10123
2010.05.23 The Nation
Seized weapons put on display
http://www.nationmultimedia.com/home/2010/05/23/national/Seized-weapons-put-on-display-30130001.html
タイ王国の首都バンコクは、平常にもどりつつある。
タクシン派団体UDD(反独裁民主主義市民同盟)が占拠した地域は、バンコク都民の手によって清掃され、元に戻った。
そこにはUDDが残していった無残な爪跡もあるが、人は灰の中からでも立ち上がる。
問題が解決したわけではないが、少なくともバンコク都民は、同じ事態だけは二度と許すことはないだろう。
アピシット首相が5月2日に5項目の和解案をUDDに提示したとき、無用な譲歩をしたように見えた。
民主党政権を支持してきたPAD(民主主義市民連合)でさえ、アピシット首相を批難した。
しかしその後、迷走を続けたのはUDDの方だった。
方針をめぐって幹部が対立、和解派の幹部はステージから姿を消した。
和解などという選択肢は、タクシン元首相(以下敬称略)にはない。
彼の頭にあるのは、民主党政権打倒、王制打倒だ。
そして、自身の返り咲きだ。
UDDが迷走する中、強硬派幹部カッティヤ少将が狙撃されると(5月13日)、武力衝突が勃発した。
占拠地域では、連日、武力衝突が繰り返された。
これこそが、タクシンが待ち望んだ事態だ。
支持者が市街戦を展開している最中の5月15日、タクシンは家族とともにパリのルイ・ヴィトン・ショップに現われ、優雅に買い物を楽しんだ。
待ち望んだ事態がようやくおとずれ、タクシンは安堵したのかも知れない。
あとは、支持者の大量死を待つだけだった。
女性・子供の退避を拒んだUDD
和解案が決裂したため、アピシット首相は実力行使で占拠地域を奪還しなければならなかった。政府・治安部隊が最も懸念したのは、砦内にいる女性や子供が戦闘に巻き込まれることだった。
UDD側が、女性や子供、高齢者を砦から退避させることを拒んだため、治安部隊は安易に動けなかった。UDDは、女性や子供を楯に戦うつもりはなかった。そんなことをすれば、国際的な批難を浴び、立場が不利になる。UDDの魂胆は、女性や子供の犠牲者を出すことだった。そうすれば、批難を浴びるのは政府・治安部隊の方だ。
赤シャツ隊が、治安部隊と武力衝突を繰り返し、徐々に犠牲者を出しているにもかかわらず、豊富な武器弾薬を有するUDD武装部隊=黒シャツ隊が治安部隊と交戦することはなかった。その理由は、女性子供のいる場所で戦闘をしなければ意味がないからだ。戦闘のどさくさに紛れて、味方に銃弾を浴びせても、どちらの弾が当たったかは分からない。黒シャツ隊の保有する武器の多くは、治安部隊から奪ったものだからだ。
女性や子供の無惨な死体が国際世論に与える訴求効果は大きい。そして、その数はできるだけ多い方が望ましい。
だが、UDDの目論見どおりにはならなかった。主砦の周りに配置された小砦を制圧した治安部隊は、そこで動きを止めた。赤シャツ隊が、火炎瓶やロケット花火、そして銃撃でいくら挑発しても、治安部隊はけっして動かなかった。これでは、黒シャツ隊は成すすべがない。結局、数百名と推測される黒シャツ隊はほとんど戦闘をしないまま、武器弾薬とともにゆくえをくらました。
女性や子供など約3000人のUDD参加者は、砦近くの仏教寺院に避難していたが、後に寺院内の池などから多量の弾薬類が発見されている。黒シャツ隊は、中立地帯の寺院内で銃撃するつもりであったことは間違いない。治安部隊が到着する前に、この寺院内で6名が射殺されている。その経緯はまったく分かっていない。
女性や子供の犠牲者を出すことなく、占拠地域を奪還したことは、政府側の完全勝利と言えた。
アピシット政権打倒のために、莫大な費用と時間をかけたタクシンの目論見は砕け散った。
計画された首都炎上
幹部が政府に投降し、占拠地域を放棄したUDDは、そのあと予想外の行動をとった。
UDD幹部が占拠の中止を宣言した直後から、バンコク都内の約30ヶ所で火の手があがった。放火されたのは、UDDが反タクシン勢力と見なしてきた銀行や新聞社、放送局などだった。アジア最大級のショッピングモール、セントラル・ワールドは、大火災で建物の三分の一が崩落した。
これらの放火は、暴徒化したUDDの場当たり的な犯行とされている。しかし、地方から動員されてきた集会参加者が、巨大都市の中の30ヶ所もの反タクシン派の所在地を、暴徒化してから把握したと考えるのは無理がある。「暴徒」が証券取引所を襲撃するというのも不自然すぎる。
事前にターゲットを設定し、所在を確認し、襲撃の人員をきちんと割り振っておかなければ、同時的に30ヶ所もの襲撃放火ができるわけがない。
UDDの二ヶ月間におよぶ反政府活動は、政府にも、タイ経済にも、ほとんどダメージを与えなかった。それがUDD幹部の焦りを生んだと考えられる。莫大な費用と時間をかけて何の成果もなければ、タクシンに顔向けができない。バンコクが炎と煙に包まれれば、政府の無策を演出でき、観光やビジネス、投資に対する影響を期待できる。証券取引所を焼けば、株価下落をまねくだろう。
確かに、バンコクの空に立ち上る何本もの黒煙は衝撃的だった。だが、見た目の派手さに比べて、物理的にも、精神的にも、それほど大きなダメージはなかったと言える。占拠されていたラチャプラソン一帯は、バンコク都民の手によって清掃され、すぐに日常に戻された。焼けた建物や破壊されたインフラは再建すれば済むだけの話だ。5月以降、外国投資家の投資意欲は減少したが、タイ経済はとりたてて外国資本を必要とはしていないので、特に問題はない。
最も被害を受けたのは観光業だが、観光客もほどなく戻ってくることは間違いない。バンコクはアジア最大のハブ都市であり、平常に戻れば自然に人が行き来する。
それでも、UDDによる首都同時放火は、タクシンにとっては無意味ではなかったかも知れない。UDDメンバーの敗北感や挫折感を癒す効果くらいは期待できるだろう。
二ヶ月もの間、炎天下の暑さと不衛生な環境、退屈な演説に耐え続けたにもかかわらず、徹底抗戦を口にしていた幹部は、土壇場で政府に投降するか、逃亡した。威勢の良かったUDDのセキュリティも治安部隊に軽くあしらわれた。取り残され、途方にくれた無防備のメンバーは、政府の用意した無料バスで故郷に送られた。バス・ターミナルから家までの交通費も政府から支給された。自尊心は傷つき、徒労感がつのる。そんな彼らにとって、反タクシンの牙城首都バンコクが炎上したことで、しばらくは溜飲を下げることができるかも知れない。
しかし、さすがのタクシンも、首都が炎上する様を目の当たりにして、UDDと自分とは何の関係もない、カネを出した事もない、と言い出しはじめた。UDD幹部の1人は、タクシンから活動資金をもらって何が悪い、と発言しているのに。
反政府活動というビジネス
アピシット首相の手腕によって、タクシンの目論見は砕け散った。
ただし、最悪の事態こそ回避したが、半面、黒シャツ武装部隊を、武器とともに無傷で逃走させることになった。それが今後の大きな不安材料になる可能性はある。
タクシンは海外メディアとのインタビューで「政府の行為はゲリラ戦を招くだけだ」と、またも言わずもがなの発言をしている。今後、ゲリラ戦がはじまっても、それはアピシット政府の責任だと言いたいのだ。しかしそれは、タクシン自身のゲリラ闘争宣言と言ってもいいだろう。タクシンに残された選択肢はそれほど多くはない。
無傷の黒シャツ隊にはゲリラ戦を展開するだけの能力はあるだろう。武器弾薬は豊富にある。北部・東北部では太陽の下を堂々と歩けるだろう。警察はタクシンの古巣なので、追跡される心配もない。そもそも首都の同時的放火も、警察が何もしなかったから可能だったのだ。武器弾薬があり、隠れる必要もなく、警察の追跡捕縛もないなら、これほど楽なゲリラ戦はないだろう。
しかし、闇に消えた黒シャツ隊のメンバーには大きな弱点がある。彼らの多くは、カネでスカウトされた元軍人や警官のはずだ。彼らの動機はカネであり、カネこそがすべてなのだ。もし、そのカネが手に入らないとしたら、彼らはゲリラ戦に従事するだろうか。
アピシット首相は、タクシンと結びついた多くの企業や個人の金融取引を凍結している。過去の取引はすべて調査され、タクシンのカネの流れが解明されるだろう。すべての資金ルートを潰すことは不可能だとしても、いままでのように蛇口を全開にした資金供給はできなくなる。
タクシンが供給する資金なくして、いかなる反政府活動の継続も不可能だ。タクシン派政党プアタイ党もタクシン派団体UDDも、豊富な資金が流れ落ちてくるからこそ、人が群がってきたにすぎない。反政府活動とは、ある意味ではビジネスなのだ。満ち足りた大富豪のために、無給で働く者がいるだろうか。国会議員から軍人や警官、末端のデモ参加者まで、タクシン・マネーで繋がっている。マネーの供給が細れば、求心力はなくなる。
UDD幹部の一人ナタウットは、1億バーツもの現金を知人に見せびらかしたことがある。1億バーツは日本円で3億円近い。豪邸や高級車を購入した幹部もいるようだ。UDD幹部のこんな豪勢な話を聞いて、黒シャツ隊は、ゲリラ生活を送れるだろうか。
タクシン・マネーの供給をいかに遮断するかが、今後の成り行きを大きく左右することになる。
タクシンがゲリラ戦でバンコクを攻撃するなら、アピシット首相はマネーの流れをせき止めて、それを封じるだろう。
タイ王国の長く孤独な戦い 2へつづく