歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の格言 レドモンド先生の本より≫その2

2021-07-14 18:23:58 | 囲碁の話
≪囲碁の格言 レドモンド先生の本より≫その2
(2021年7月14日)
 


【はじめに】


 今回も、マイケル・レドモンド(Michael Redmond、1963年~)九段の次の著作にもとづいて、囲碁の格言について、解説してみたい。
〇マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年
 とりわけ、ツケ関連の格言、「タチの腹ヅケ」など動物名のみえる囲碁格言、「切り違い一方ノビよ」「六死八生」「ナカ手九九」など、上記の本に載っている格言を解説する。そして、本にはないが、有名な格言「二目にして捨てよ」「「2の一」に手あり」について補足しておく。




【レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版はこちらから】

レドモンドの基本は格言にあり (NHK囲碁シリーズ)







マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』(NHK出版、2008年)の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
第1章 布石の構想
1 一にアキ隅、二にシマリ、三にヒラキ
2 星は辺と連携せよ
3 ヒラキの余地残せ
4 第一着は右上隅から
5 カカリは広い方から
6 地は攻めながら囲え
7 広い方からオサえよ
8 ハサミがある方からオサえよ
9 星の弱点は三々にあり
10 二線は敗線
11 二線ハウべからず
12 二線、三線は余計にハウな
13 三線は実線
14 四線は勝線
15 ヒラキの原則は二立三析
16 一間トビに悪手なし
17 ヒラキとハサミを兼ねよ

第2章 序盤の戦い
18 根拠を奪え
19 重くして攻めよ
20 攻めはケイマ
21 攻めは分断にあり
22 モタれて攻めよ  
23 地は攻めながら囲え
24 逃げるは一間
25 弱い石から動け
26 弱い石を作るな
27 厚みに近寄るな
28 厚みは攻めに使え
29 厚みを囲うな
30 スソアキ囲うべからず
31 大場より急場

第3章 正しい形、わるい形
32 二目の頭は見ずハネよ
33 車の後押し
34 千両マガリを逃すな
35 ポン抜き30目
36 亀の甲60目
37 ダンゴ石を作るな
38 アキ三角打つべからず
39 ツケにはハネよ
40 切り違い一方ノビよ
41 アタリアタリは俗筋の見本
42 裂かれ形を作るな
43 ケイマにツケコシあり
44 ケイマのツキダシ俗手の見本
45 ツケコシ切るべからず

第4章 中盤の攻防
46 サバキはツケよ
47 三々の弱点は肩ツキ
48 消しは肩ツキ
49 消しはボウシ
50 ボウシにケイマ
51 格言も時によりけり
52 弱い石にツケるな
53 攻めはボウシ
54 切った方を取れ
55 攻めの基本はカラミとモタレ
56 利かした石を惜しむな
57 模様に芯を入れよ
58 両ケイマ逃すべからず

第5章 接近戦の心得
59 イタチの腹ヅケ
60 天狗の鼻ヅケ
61 馬の顔、犬の顔、キリンの首 
62 鶴の巣ごもり  
63 初コウにコウなし
64 石塔シボリ
65 石の下に注意
66 三目の真ん中は急所
67 六死八生
68 死はハネにあり
69 ナカ手九九は三3、四5、五8、六12
70 眼あり眼なしはカラの攻め合い

番外編
①「一方高ければ一方低く」がヒラキの要領(50頁)
②「ダメのツマリが身のつまり」は大事な戒め(138頁)
③「左右同型中央に手あり」は便利な手筋(184頁)
あとがき




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・ツケ関連の格言
≪No.39 ツケにはハネよ≫
≪No. 43 ケイマにツケコシあり≫
≪No. 45 ツケコシ切るべからず≫
≪No. 46 サバキはツケよ≫
≪No. 52 弱い石にツケるな≫
≪No. 59 イタチの腹ヅケ≫
≪No. 60 天狗の鼻ヅケ≫

・「弱い石にツケるな」の例~高尾紳路 『布石から中盤入門』より
・戦いのテクニックとしての「攻める石にツケるな」
・昭和囲碁史上の妙手とされたツケ
・攻める石にツケるなの問題

・動物名のみえる囲碁格言
≪No. 59 イタチの腹ヅケ≫
≪No.60 天狗の鼻ヅケ≫
≪No.61 馬の顔、犬の顔、キリンの首≫ 
≪No.62 鶴の巣ごもり≫
・【補足】「大模様にはキリンの首」
・【補足】「狸の腹つづみ」

・「三々」に関連して
≪No.9 星の弱点は三々にあり≫
≪No.47 三々の弱点は肩ツキ≫

・≪No.40 切り違い一方ノビよ≫について
・格言「切り違い一方をノビよ」とは限らない例
・≪No.67 六死八生について
・≪No.69 ナカ手九九は三3、四5、五8、六12≫について
・【補足】「二目にして捨てよ」という格言の典型例
・【補足】「2の一」に手あり







ツケ関連の格言


ツケ関連の格言を抜き出してみると、次のようになる。

≪No.39 ツケにはハネよ≫
≪No. 43 ケイマにツケコシあり≫
≪No. 45 ツケコシ切るべからず≫
≪No. 46 サバキはツケよ≫
≪No. 52 弱い石にツケるな≫
≪No. 59 イタチの腹ヅケ≫
≪No. 60 天狗の鼻ヅケ≫

このうち、≪No. 43 ケイマにツケコシあり≫≪No. 45 ツケコシ切るべからず≫は、前回の「ケイマ関連の格言」にて紹介したが、再掲しておく。≪No. 59 イタチの腹ヅケ≫≪No. 60 天狗の鼻ヅケ≫は、「動物名のみえる囲碁格言」において解説する。

≪No.39 ツケにはハネよ≫


≪棋譜≫(120頁~121頁のテーマ図、1図)

棋譜再生

白1のツケに黒2とハネたのは、「ツケにはハネよ」の格言どおり、ベストの一手である。
格言はどんな時でも正しいというものではないが、先ず「ツケにはハネよ」という基本原則を身につけてほしいと、レドモンド先生はいう。
うわ手は十中八九、白3となってくるか、白a(17二)のハネのどちらか。
(「切り違い」については、No.40の格言で説明)
黒が「ツケにはハネよ」の格言に反して、引いて後退したらまんまとうわ手の思惑にハマることになる。
(つまり、白は実利と安定をたいした努力もなく得てしまう)
「ツケにはハネよ」という格言を肝に銘じよとする。
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、120~121頁)

≪No. 43 ケイマにツケコシあり≫


≪No.43 ケイマにツケコシあり≫
・ケイマは一間トビと並んで、よく打たれる手
・長所は、「攻めはケイマ」のときに発揮されるが、一間トビと違って、弱点もはらんでいる。
・「ケイマにツケコシあり」は、ケイマに攻めるにはツケコシで切るのが本筋、急所であると説いている。
※ツケた石は捨て石になることもありうる(134頁5図参照のこと)

≪棋譜≫(134頁5図)

棋譜再生


(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、130~131頁)

≪No. 45 ツケコシ切るべからず≫


≪No.45 ツケコシ切るべからず≫
・「ケイマにツケコシ」は本筋の厳しい攻めであり、たいていは真正面から戦うしかないが、対処法もないことはないようだ。
・「ツケコシ切るべからず」の格言で対応できれば、ツケコシの威力をかわすことができる。
⇒白2、4がまさに「ツケコシ切るべからず」の一手である。黒は何か肩透かしを食った気分になる。

≪棋譜≫(136頁)

棋譜再生


【注意】「ツケコシ」は万能ではなく、「切るべからず」の対応を考えておく必要がある。
⇒ツケコシで直接攻めるのではなく、外から包むように打つべき場合もある。
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、136~137頁)

≪No. 46 サバキはツケよ≫


≪No. 46 サバキはツケよ≫
左上隅、力関係は黒が弱い地域である。
だから、ぜいたくは言えない。強い攻めを受けないようにすることがサバキの基本精神である。

【サバキはツケよ】
≪棋譜≫(143頁の8図)

棋譜再生


黒1が「サバキはツケよ」である。そして、黒3が常用のテクニックである。

【サバキ定石】
≪棋譜≫(143頁の9図)

棋譜再生


手順が少々長いが、白4から黒11まではワンセット。
サバキの代表的な定石である。
黒は着々と所帯作りを進め、白は左上隅を固めてから、上辺の白の補強に回った。
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、140~143頁)

≪No.52 弱い石にツケるな≫


≪No.52 弱い石にツケるな≫
☆弱い石にツケると、サバキのお手伝いをすることに
・黒模様に深く突入してきた白1に、黒2はツケて襲いかかった。しかし、こうした場合、「弱い石にツケるな」という格言が黒を戒めている。
(あるいは「攻め石にツケるな」という言い方もある)
⇒白は孤立した「弱い石」で、黒にとっては「攻めたい石」である。この白にツケると、白のサバキのお手伝いをしてしまう恐れがあることを、この格言は教えている。
≪棋譜≫(166頁のテーマ図)

棋譜再生

(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、166~167頁)


「弱い石にツケるな」の例~高尾紳路 『布石から中盤入門』より


高尾紳路『囲碁 布石入門』(成美堂出版、2013年)の「第5章 どの手が悪いか」において、「問題2 敵を強くする俗筋」として、次のような悪手さがしの問いを出している。

【問題2:敵を強くする俗筋】
≪棋譜≫

棋譜再生

☆右辺の黒陣に、白(16八)がなぐり込んできた。
ここで、黒1、3とツケ引いて5とコスんだ。
黒1から5までの手順のうち、どの手が敵を強くする俗筋だろうか?

【失敗:黒1は白石を強くする俗筋】
≪棋譜≫

棋譜再生

☆黒1のツケがなぜ悪いか?
⇒白2の押さえから4とツガれて、白石を強くしているからである。
右辺一帯は黒石が5個あり、かなり強い場所。
・そこに入ってきた白石(16八)は弱い石にもかかわらず、黒1とツケると白2、4とツイで、強い石になる。
※黒1、3は白石を強化する典型的な俗筋である。囲碁格言にも「弱い石にツケるな」とある。
・続いて、右辺の白三子が強くなったため、白6、8のハネツギが隅を確保しながら、黒三子の根拠をなくして、攻める好手となる。
・黒9に白10などと飛ばれて、黒不満の展開である。
⇒これでは弱かった白石が威張っている。

【正解:黒1、3が最善の攻め】
≪棋譜≫

棋譜再生

・なぐり込んだ白石(16八)は弱い石。
となれば、ここは黒1と飛んで黒三子を強化しながら追撃するのが良い。
・白2に黒3と攻めることができれば満点。
・白4の逃げに黒5とボウシして、黒石を強化しながら、白6に黒7とボウシ攻めして、好調の戦い。
・続いて、白8の逃げに黒9の三々などが打てればプロ級だという。
・白10には黒11、13と隅に食い込み、黒15と白陣を荒らす。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、223頁~225頁)

【高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版はこちらから】

囲碁 高尾紳路の布石入門 初級から初段まで

高尾紳路氏の他の著作
【高尾紳路『布石から中盤入門』はこちらから】

囲碁 高尾紳路の布石から中盤入門 初級から初段まで


戦いのテクニックとしての「攻める石にツケるな」


【ツケノビ定石~お互い丈夫に】
≪棋譜≫

棋譜再生


・「ツケにはハネよ」というわけで、黒1のツケに白2と応じれば白6まで。
⇒ご存じのツケノビ定石になる。お互いに丈夫な形になっている。

【お互いに固まっていない互角の応接】
≪棋譜≫

棋譜再生


・前図のツケノビ定石とくらべてみると、お互いあまり固まっていないことが見てとれる。

※ツケとは、お互いに強くなることを求めた手段であるといえる。
⇒「ツケは相手も強くするけれど、自分が強くなりたいときに打つ手である」

【ツケにはハネよの場合】
≪棋譜≫

棋譜再生


・白がハネても心配がないことを確かめておく。
・白10までちゃんと切ってきた石を取れる。

【ハネられない場合】
≪棋譜≫

棋譜再生


・たとえば、ツケた黒1のケイマの位置に、もう一子黒(12三)がすでにあるとき、一転して黒1のツケは威力のある手に変わる。
・その理由は、「ツケにはハネよ」と行けないから。

(清成哲也『清成哲也の実戦に役立つ格言上達法』日本放送出版協会、1993年[1995年版]、160頁~161頁)

【清成哲也『清成哲也の実戦に役立つ格言上達法』はこちらから】

清成哲也の実戦に役立つ格言上達法 (NHK囲碁シリーズ)

昭和囲碁史上の妙手とされたツケ


坂田栄男氏は、昭和囲碁史上の妙手とされたツケを、その問題集で紹介している。
【第30問 白番】
≪棋譜≫

棋譜再生

☆黒(10十五)と封鎖され、右下方面の白は極めて危険な状況。
意外と思われる妙手はどこに?

【正解】
≪棋譜≫

棋譜再生

・白1のツケは、大方の人には意外な手であろう。
・黒2以下は、かっての名人戦での実戦譜であるが、白1の一手は、昭和囲碁史上の妙手とうたわれたものであったそうだ。

(坂田栄男『筋と形をきたえる 囲碁問題集』成美堂出版、1988年、121頁~122頁)

【坂田栄男『筋と形をきたえる 囲碁問題集』成美堂出版はこちらから】

筋と形をきたえる―囲碁問題集


攻める石にツケるなの問題


『初段合格の手筋 150題』(日本棋院、2001年[2008年版])には、「第2章 石取りと攻め合いの手筋」で、格言「攻める石にツケるな」に関連した、次のような問題を出している。

【問題100】(黒番)
≪棋譜≫(215頁)

棋譜再生


☆左右同型の真ん中は急所になりやすいと格言は教えていますが、白(16一)は筋違い。白は左右どちらかに一路ずらせば、ツナがっていました。
一路外れた筋違いの白(16一)をとがめるにはどう打てばよいか、という問題です。

【正解】
≪棋譜≫(216頁)

棋譜再生

・「攻めたい石にツケるな」の格言は「取りたい石にツケるな」と同じ。
・黒1へツケれば、隅の白二子を取れている。
(工藤紀夫『初段合格の手筋 150題』日本棋院、2001年[2008年版]、215頁~216頁)


【『初段合格の手筋 150題』日本棋院はこちらから】

初段合格の手筋150題 (囲碁文庫)


動物名のみえる囲碁格言


≪No. 59 イタチの腹ヅケ≫


【イタチの腹ヅケ】
≪棋譜≫(186頁)

棋譜再生


右下隅で、黒四子と白二子が取るか取られるかという場面である。
一見すると、逃げ場のない黒四子がピンチ
しかし、ここで黒1のツケが「イタチの腹ヅケ」と呼ばれる起死回生の手筋である。

でもなぜ、「イタチ」なのでしょうか?と、レドモンド先生も問いを投げかけている。
そこで、ある一説を紹介しておられる。
つまり、「にたち」(石が二つ並んだ形)が訛ったという説があるとのこと。
おもしろいネーミングがつけば、妙手筋がさらに輝いて、覚えやすくなると付言しておられる。
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、186頁)

この「イタチ=にたち」説は、他の本にも言及されている。
例えば、工藤紀夫『初段合格の手筋 150題』日本棋院、2001年[2008年版]
問題91の出題において、次のようにある。
「隅における独特の攻め合いが本問。囲碁用語には「鶴の巣ごもり」「イタチの腹ヅケ」「タヌキの腹鼓」など、動物名が付けられているのがいくつかあります。イタチは二立ちをもじったらしく、昔も洒落っ気が多かったようです。」
(工藤紀夫『初段合格の手筋 150題』日本棋院、2001年[2008年版]、197頁)

このように、イタチ=二立ちは、もじり、ないしは訛りに由来するそうだ。

【『初段合格の手筋 150題』日本棋院はこちらから】

初段合格の手筋150題 (囲碁文庫)

≪No. 60 天狗の鼻ヅケ≫


≪No. 60 天狗の鼻ヅケ≫
・「天狗の鼻ヅケ」とはよく言ったもので、江戸時代のころに命名されたのであろうかとされる。
「天狗の鼻ヅケ」は奇手のように見えるが、実戦でもよく打たれる手筋であるそうだ。
「天狗の鼻ヅケ」を打ったら、両サイドの押しとハイを一緒に必ず考えてみるとよいと、アドバイスしておられる。
≪棋譜≫(190頁のテーマ図)

棋譜再生

・白1のツケが「天狗の鼻ヅケ」である
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、190~191頁)

≪No. 61 馬の顔、犬の顔、キリンの首≫

 
「馬の顔」「犬の顔」「キリンの首」は、さすがに現代になって作られたようだ。
おそらく小さい子供に教えやすいようにと考えられたものとされる。
(大人にとっても分かりやすさはありがたいものであると、レドモンド先生も評しておられる)

言葉で説明しておく。
「馬の顔」は、一間トビを底辺として、大ゲイマを頂点とする二等辺三角形を思い浮かべればよい。
「犬の顔」は、ケイマを頂点とする場合である。
「キリンの首」は、「馬の顔」より一歩進めて、大々ゲイマを頂点とする場合である。
レドモンド先生は、一間トビを底辺として、コスミを頂点とする場合は、「猫の額?」となるだろうかとする。
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、192~195頁)

≪No. 62 鶴の巣ごもり≫

  
動物名の入った格言で、ベストネーミングだと考えられているのが、「鶴の巣ごもり」である。
三子が鶴の巣の中にこもっているように見える形である。この「鶴の巣ごもり」は誰しも必ず覚えるという有名な手筋で、実戦でもひんぱんにできる形である。
例えば、黒三子にトビ出した黒1」のトビ出しには、白2のワリ込みが切断の手筋で、黒に一子取らせて、追い落としへと導く。「鶴の巣ごもり」で、黒は脱出不可能である。
≪棋譜≫(197頁の2図)

棋譜再生

(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、196~197頁)

【補足】「大模様にはキリンの首」


☆「キリンの首」については、『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』(日本棋院、1994年[2007年版])でも言及されている。

【キリンの首の例】
≪棋譜≫

棋譜再生


※右下の黒一間の構えから、黒が大ゲイマに打つのを「馬の顔」という。
もう一路遠く、黒1と大々ゲイマに打つのが、「キリンの首」である。
(どちらも比較的新しいもので、ともにその形状からきたものだろうとされる)

※「馬の顔」「キリンの首」どちらも、模様拡大を意図して打たれることが多い。
当然ながら、「キリン」は「馬」にくらべ、足をのばした分、うすい。
(レドモンド先生も、「馬の顔」より一歩進めた「キリンの首」は、少々飛躍した手なので、有段者仕様であると断っておられる。レドモンド、2008年、195頁)

(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、51頁)

【『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院はこちらから】

新 早わかり格言小事典―役に立つ囲碁の法則

【補足】「狸の腹つづみ」


【狸の腹つづみの例】
≪棋譜≫

棋譜再生

☆狸(タヌキ)が腹鼓を打ちたくなるほどの好手という意味か、はたまた形状からきたか、命名は定かでない。
・ともかく事の次第はこうだ。白(6十八)が第二線にハネたところ。

【正解】
≪棋譜≫

棋譜再生

・黒1、3が好手で、黒が勝つにはこれに限る。腹つづみである。
(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、138頁)

「三々」に関連して


No.9 星の弱点は三々にあり
No.47 三々の弱点は肩ツキ

敵陣の勢力圏に入っていくときに、肩ツキは有力な戦法である。
深入りせずに、ほどよく相手の勢力拡大を制限するのが目的である。
左下隅の白の三々に対し、黒の肩ツキが絶好のタイミング。

「No.9 星の弱点は三々にあり」と「No.47 三々の弱点は肩ツキ」は、星と三々の関係をそれぞれの立場で言い表している。
(相撲にたとえれば、上手投げと下手投げのようなものとレドモンド先生はいう)

【オーソドックスな定石】
≪棋譜≫(151頁の1図)

棋譜再生


左下隅の黒の肩ツキに対して白はどう対応するか?
白1、3、5が最も常識的な対応であるようだ。その動きに合わせながら、黒2、4、6と堅固な形を作る。これが一番オーソドックスな定石である。
(レドモンド先生はこの定石をぜひ覚えておいてほしいとする)
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、150~151頁)

≪No.40 切り違い一方ノビよ≫


≪No.40 切り違い一方ノビよ≫
切り違いの形は、隅の攻防にひんぱんにできる形である。
「ツケにはハネよ」と「切り違い一方ノビよ」は、セットで覚えてほしい格言であるとする。

「切り違い」の撹乱戦術で来られたら、黒はノビるのが冷静沈着である。
(この手さえ打っておけば、もう心配することはないという)
した手にしっかり対応されたので、うまく処理しなければいけないのは白の方である。
これ以上の撹乱は無理。右上の隅は定石となっている。

≪棋譜≫(123頁の1図)

棋譜再生


(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、122~123頁)

格言「切り違い一方をノビよ」とは限らない例


格言「切り違い一方をノビよ」(ママ)はよく知られた格言であるが、いつもあてはまるとは限らない。その例を苑田勇一九段は挙げている。

【テーマ図:切り違い】
≪棋譜≫

棋譜再生

☆黒1は、白a(7五)のワリコミを軽くしようという手である。
・白2のハネには、黒3と切る。切り違いになった。
☆白の最強手段はどれか?
⇒よく言われる格言「切り違い一方をノビよ」とは限らないと断っている。

【最強手段:白のアテ】
≪棋譜≫

棋譜再生

・白1のアテは最強。
・白5まで決めてから、7のツギは必要。
・黒から8が厳しい切り。

(苑田勇一『苑田流格言のすべて~楽に身につくプロの常識~』マイナビ出版、2016年、184頁~185頁)

【『苑田流格言のすべて』マイナビ出版はこちらから】

苑田流格言のすべて ~楽に身につくプロの常識~ (囲碁人文庫シリーズ)

No.67 六死八生について


・六死八生は、初心者のための格言である。
石がいくつ並んでいれば生きているのかを簡潔に教えてくれる。辺の二線に並んだ黒石が、3パターンある。上辺には八子、右辺には七子、左辺には六子。
黒番、白番の両方で考えてみる。

【六死八生のテーマ図】
≪棋譜≫(214頁のテーマ図)

棋譜再生


【辺の原則について】
≪棋譜≫(215頁の1図)

棋譜再生

・上辺は、すでにそのまま生きている。「八生」
・右辺は早い者勝ち。白番なら三目ナカ手の死。黒番なら生き。
・左辺は黒から打っても死んでいる。「六死」

【隅の原則について】~隅の場合は、「四死六生」
≪棋譜≫(215頁の2図)

棋譜再生


・右上の隅の場合、すでにこのまま生き。「六生」
・右下の隅の場合、早い者勝ち。黒から打てば生き。白から打てば死。
・左下の隅の場合、黒8と打っても死。「四死」
(マイケル・レドモンド『レドモンドの基本は格言にあり』NHK出版、2008年、214~215頁)

No.69 ナカ手九九は三3、四5、五8、六12について


【ナカ手九九のテーマ図】
≪棋譜≫(218頁のテーマ図)

棋譜再生

・「さんさん、しご、ごは、ろくじゅうに」とは、ナカ手の石を抜き上げるまでの手数を言ったものである。
ナカ手の“九九”とも呼ばれている。
・上辺の三目ナカ手は3手、左辺の四目ナカ手は5手、右辺の五目ナカ手は8手、下辺の六目ナカ手は12手ということである。
(レドモンド、2008年、218頁)

☆工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』(日本棋院、1994年[2007年版]、90頁~92頁)から、具体的な問題をみてみよう。

【攻め合いのときのナカデ九九の利用】
≪棋譜≫

棋譜再生

☆黒番。黒八子、白八子の攻め合いである。
この攻め合いに勝てるかどうか?
“九九”を利用して勘定してみよう。
「三3、四5……」であるから、白の手数は四目ナカデで、黒から5手ある。
一方、黒の手数も5手ある。5手と5手なら、手番の黒が勝つはずである。

【正解】
≪棋譜≫

棋譜再生

・実際にやってみると、黒1、3、白2、4。黒5に白は6と取らねばならない。
・つづいて、黒7(黒1)、9(黒3)。計算どおり黒の一手勝ちになった。
⇒ナカデの“九九”は正しかった。なかなか便利な“九九”といえる。
(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、90頁~92頁)

【補足】「二目にして捨てよ」という格言の典型例


レドモンド先生が省略された格言として、「二目にして捨てよ」という格言がある。
『初段合格の手筋 150題』(日本棋院、2001年[2008年版])には、格言「二目にして捨てよ」の典型例の問題として、次のようなものがある。

【問題48】(黒番)
≪棋譜≫(109頁)

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・白1とアテられたら黒はどうしますか?正しい道筋の定石を完結させてください。
※「定石は手筋の集大成」といわれる。
 定石を学ぶのは、先達たちが長い年月をかけてまとめあげた手筋を学ぶことに外ならないという。つまり石を最も効率よく働かせた結果が定石といってよい。

【正解】
≪棋譜≫(110頁)

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・この形が、「二目にして捨てよ」という格言の典型例であるという。
・白2に黒3をまず利かすことができ、続いては黒5。
⇒この黒3、5を先手にするのが、黒1と捨て石を増やした効果である。
(黒11までが定石)
(工藤紀夫『初段合格の手筋 150題』日本棋院、2001年[2008年版]、109頁~110頁)

【『初段合格の手筋 150題』日本棋院はこちらから】

初段合格の手筋150題 (囲碁文庫)

【補足】「2の一」に手あり


レドモンド先生が省略された格言として、「2の一」に手ありというのがある。

「絶隅」とも呼ばれる「1の一」が盤上いちばんの特殊な地点なので、そのとなりの「2の一」がたいへんな急所にあたる。
とくに隅の死活に関し、「2の一」はしばしば隅の急所、もしくは眼の急所ともいわれる。
また、「2の一」が絶隅をめぐる急所なら、「2の二」もまたかなりの急所である。「一合桝」に立ち向かうときも、初手は「2の二」である。

隅にさまざまな格言が生まれるのは、「隅の特殊性」による。「1の一」(絶隅)という地点が歪んだ点であるから、「2の一」や「2の二」が急所になる。
かつて前田陳爾九段は、この特殊性を「隅の魔性」と表現した。何が出るか、何が起こるかわからない隅は、この前田九段の言い回しの方が、「特殊性」などという散文的な言い回しより、グッと来るともいわれる。

『玄玄碁経』には、「2の一」に手ありの格言に関連した、次のような問いがある。
【『玄玄碁経』にある問題】
≪棋譜≫

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☆白番である。黒を殺す、いや正確にいえば、コウにする手段がある。

【正解】
≪棋譜≫

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・白1のオキが「2の一」の急所にあたる。
・黒2で3は白2で死だから、黒は2と受けるよりない。
・そこで、白3とワタって5まで、コウに持ち込むことに成功した。
※白1で2はあまりといえばあまりな俗手。黒1とハネられ、黒4と5の眼持ちが見合い。
(工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院、1994年[2007年版]、118頁、184頁~185頁)


【『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院はこちらから】

新 早わかり格言小事典―役に立つ囲碁の法則