白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

やい、この、甲斐性なし

2010-07-31 | 日常、思うこと
俗に、甲斐性なしという言葉がある。
辞書を引くと、この言葉の意味するところは、

① 働きや才覚に乏しく、頼りにならないこと。
② 経済力が無く、養う力のないこと。
③ ①、②に該当する人のこと。

これら、3つであるようだ。
つまりは、「デキないやつ」といったところなのだろうが、
辞書を読む限りは、自分自身にも甲斐性があるか否か、
特に②の面で、疑わしくもなってくる。





ただし、この言葉が生まれた頃とは状況が変わり、
甲斐性という言葉には新しい意味が備わりつつあるらしい。
すなわち、精神的なやすらぎを与えてくれることや、
価値観を共有してくれること、
相手の意志や立場を尊重し、理解してくれることなど、
協調性や包容力、安心感の存在に重きを置くものである。
例えば、家事を手伝ってくれることや、仕事に就くことを
理解してくれること、一緒にいて安心できることなどが、
甲斐性がある、ということになるようだ。





ただし、これは東京に住む、共稼ぎが当たり前の状況に
適合するだけのことであって、
田舎になればなるほど、依然として、甲斐性という言葉は
古くからの意味でのみ通用しているように思われる。
僕が生まれ育った地域でもあるが、名古屋を中心とする
中京圏には、その傾向が今も根強いように思われる。
これは、風土がもともと閉鎖的なこともさることながら、
封建的・階級的な思考が強いこともあるように思われる。
もっとも、これは相補的な関係にある。





とかく狭い世界には、階級的な思考が特に生まれやすい。
官僚機構では、東大出身であることが当然であるが故に、
出身高校毎の学閥があることがよく知られている。
実にくだらない話だが、排他性の論理が、日本の根幹に
深く根ざしていることを踏まえたうえで、
権益を集中させるための社会システムを観るべきなのが
当然のことなのだ。





この排他性は、例えば、自分の中に結論があることを
相手に明確に示唆しつつも、決して明確な言明をせずに
相手を先に動かそうとする姿勢に、よく表れている。
「相手の意志で事が起こった」方向に事実を作ることが
実にうまい人間が、実際に、よく出世する。
カバン持ちや風見鶏では、自ずと出世に限界があるのだ。
リスクを回避するために、話題を避けることは当然のこと、
自分の恥部を知る人間との間では、忘れたふりをしたり、
縁を切ったり、相手を消したりする。
無論、上層に逆らいはしない。





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さて、古くから、「男の甲斐性」と呼ばれるものには、
上に挙げた意味以外にも、

④ 飲む
⑤ 打つ
⑥ 買う
⑦ 浮気

大まかにいって、これらの4つの意味がある。
男性の悪癖として、よく知られたものだ。





僕自身、パチンコ、麻雀、花札、競馬、競輪、競艇、
オートレースの類には一切手を出したことがない。
キャバクラやゲイバーに顔を出したことはあるが、
それは「買う」とは言わないのではないかと思う。
また、浮気というのは、交際相手がいてこそ初めて
機会が生まれる類のもので、することはない。





その代わり、随分と、飲んできた。





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本格的に酒を飲み始めたのは、大学1~2年の頃、
はっきり言ってしまえば、あらゆる事がうまくいかずに
暴れ散らしていた頃の、やけ酒である。
初め、ビール1本程度であったものが、2本、3本、
そのうちに、ワイン1本になり、ウィスキーのボトルを
1本空ける、という状態になった。
ライブをすっぽかしそうになったこともあれば、
試験を受け損ねたこともある。
下宿で飲み、友人宅や後輩宅で飲み、店で飲み、更には
部室で飲み、という生活が続いていたために、
社会人1年目の検診で、肝機能数値に異常が出た。





その後、現在に至るまでの宿痾を患ったのだが、
前職在籍中、欠勤扱いの休職中も、職場に席を失った
復帰後の日々や、自席を取り戻した後の退職時まで、
毎日飲み続けていた。
空き缶で一時は部屋が埋まりそうになったこともある。
失意の内に大阪を離れた後、半年ほどは飲まなかったが、
再就職してしばらくしてから、元に戻った。





飲む酒も、発泡酒からビールに変わった。
いろいろと飲み比べて、自分の身体に合う酒を探した。
安酒は飲まないほうがよく、値は張っても、良質の酒を
飲むべきであることを身体で覚えた。
日本酒は広島の醉心が最も身体に合った。
トカイワイン5プット、エッセンシア、マデイラワイン、
こうした甘口の酒に加えて、
マッカランやハーパーをよく飲んだ。
これに、シャルトリューズや、アブサンが加わった。
東京に来て、これらに、通常のワインや、限定ものの
シングルモルトが加わった。





ただし、酒量自体は、少しずつ落ちては来ていた。
加齢によるもののせいだと思う。
ここ最近は、日本酒にして3合を超えて飲むことが
殆ど無くなっていた。
いわゆる「休肝日」というものも作るようになった。
少しは、自分の身体にも気を使っていたのである。





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そうして、洋行の時差ぼけに起因すると思われる
睡眠障害がようやく落ち着いてきた頃、
定期健康診断を受けたのだった。
結果の数値に、思わず眼を疑った。
今年の3月、宿痾に伴う服薬の副作用を調べるために
血液検査を受けた時の数値と比べて、
肝機能の数値が倍加していたのである。





今年の3月に出た数値は、ここ8年間、殆ど変動なく
推移していた「要検査」レベルのものだったが、
今回出た数値は、明らかな異常数値を示していた。
「即受診」レベルである。
確かに、ここ数カ月、倦怠感がひどい。
先月の精神状態が墜落寸前の飛行状態だったのも、
これに因るところも少なからずあるのかもしれない。





しばらくは、レバーと亜鉛を多く取るようにして、
酒を飲むのをやめるとともに、
ビタミンとミネラルの摂取量を増やすことにした。
誰のためか、自分でもよくわかっていないが、
とりあえずは、食生活を直してみて、
医者にかかろうと思う。





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そういうわけで、男の甲斐性、というものから、
一切無縁になったわけである。
はっきり言えば、ストレス回避のために延々と
酒を飲み続けてきたようなところもあるのだから、
自分を見直す機会になるかもしれない。





やい、この、甲斐性なし。







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