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京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

醍醐味

2021年04月24日 | こんな本も読んでみた
  「比叡のお山が西日を受けて赤く輝いている」

薬草園で暮らす元岡真葛を主人公にした連作短編小説が詰まったシリーズもの2作『ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園目録』と『師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園目録』を読んだあと、いっぺんこの薬草園がどのあたりだったのかを歩いて確かめてみたいと思っていた。

北山通を西へ。紫野泉堂町を過ぎ、佛教大学前でバスを降りた。千本通を北へ入り、坂道を10分ほど上がったところにあるコンビニの駐車場に、「鷹ヶ峰薬園跡のいまむかし」とした説明版と「徳川時代 公儀 鷹ヶ峰御薬園跡」「山城国愛宕郡鷹ヶ峰村」と刻まれた碑が建っていた。




すぐ近くの筋から東に、比叡山が目に入る。


冒頭に記した一文で、シリーズの幕が開く。
京都の北西、市中を見下ろす高台に千坪あまりの広さを有する鷹ヶ峰御薬園は幕府直轄の薬草園の一つで、御薬園を預る藤林家の当主・藤林匡は御典医を兼ねている。当時の京は江戸をも凌駕する医学の興隆地で、多くの医師や本草学者たちが出入りしていた。
3歳のときからここで実子同様に育てられた真葛は21歳になった。幼い時から着物や人形には見向きもせず薬園を駆け回ってきて、薬草栽培、調薬に関しては卓越した腕を持っている。日に焼けて化粧っ気もないが、芯の強さをうかがわせる「凛然とした風情の娘だ」と描かれる。

ときには冬の早朝。寒さ防ぎの被布をまとって鷹ヶ峰街道を南に下り、千本通を北風に押されながら市中へ向かう。豊かな薬草の知識を生かして、かかわった人のしがらみをほぐしていく真葛。「ちょっと出かけさせていただきます」「所用を思い出しました。これより洛中に参ります」。突然の言葉、真葛の行動は早い。青蓮院へ、真如堂へ、壬生村へ、薬種問屋に、患者の家へ…と。


この道の突き当りは源光庵の白壁で、「鷹峯」の標識が見えてくる。鷹峯と言えば工芸村を経営し始めた本阿弥光悦。左に進むと名刹・光悦寺がある。

薬草園のことを聞いたことがある、というような方と出逢わないものかと歩いていたのだが、光悦寺入り口わきで、缶ジュースでひと休みする女性がいた。近くに住んでいるとのことで聞いてみた。と、あの道を下がっていったところが玄琢。そこから…で、…、・・・、「くすしやま」と呼ぶ山がありましてね、と話は展開した。クスシ! 薬師か。薬草とかかわりがあるのか? 思いがけず新たな刺激を得て、何やらほくほく気分で丁重にお礼を言って別れた。
作品に絡む話が聞ける現地の人との出会いを楽しむのも、作品の舞台を訪れる醍醐味だ、と納得納得。

歩いてみようか? 下調べしてから。「今はなあんにもありませんよ」と言われたけれど。
コメント (8)
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