北欧神話は、主に北ヨーロッパに住んでいた古代ゲルマン民族の神話である。
ただし、彼らの住んでいた範囲は広大であり、北欧神話はゲルマン民族の全てをカバーするものではない。
現在、北欧とは一般にアイスランド、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの5ヶ国を指す。
このうち、フィンランドは民族・言語ともに異なるため、除外するとして、残り4ヶ国がいわば北欧神話のおおまかな文化圏となる。
そして、それらが『古エッダ』および『新エッダ』と呼ばれる文章の形でまとめられ、完成したのは12世紀後半から13世紀にかけての事になる。
『古エッダ』は9~12世紀にかけてまとめられた叙事詩で、特定の作者はいない。
17世紀にアイスランドで最古の写本が発見されている。
『新エッダ』は別名『散文エッダ』とも呼ばれるもので、13世紀アイスランドの詩人・政治家のスノリ・ストルソンによって著された。
これは詩人たちの為に書かれた神話の解説書であった。
両者には一致しない点も多々あるが、共通点も少なくない為、現在この二つの『エッダ』が北欧神話の根本資料となっている。
北欧神話の特徴は、北欧の自然とゲルマン民族の特質を反映したものか、重々しく暗く、そして悲壮な点にある。
その世界観も複雑で錯綜している。
氷と炎がぶつかって誕生した宇宙の中心にあって、宇宙を支える巨大なトネリコである世界樹「ユグドラシル」。
そして、神々の住む世界「アスガルド」も、その敵である巨人族の住む世界「ヨツンハイム」も、死者の国「ヘル」も、すべてユグドラシルにある。
ユグドラシルには人間の住む「ミッドガルド」など、計9つの世界が散らばっているのだ。
なお、北欧神話の世界では神々には二つの種族があり、ひとつは農耕系のヴァン神族、もうひとつはオーディンに代表される、巨人族の子孫であるアース神族だ。
両者は当初、対立していたが、アース神族が勝利し、人質を交換する形で和議を結んでいる。
ところで、北欧神話の特異さは神々が不死でない点にある。
不死どころか滅んでしまうのだ。
それはある巫子が世界の創造から終末、そして再生までを、オーディンに語るという形で紹介される。
その終末こそが、事あるごとに対立を繰り返してきた神々と巨人族の最後の戦い「ラグナロク」であり、最終的に神々が敗北し、世界とともに滅びた後に、新たな世界が生まれるというものだった…。
同じヨーロッパの神話でありながら、南のギリシアとは異質の味わいをもつのが、北欧神話なのである。