古代日本で信仰された、海の彼方にある異世界。
永久不変の神仙境。
それが常世国(とこよのくに)だ。
この楽園にいれば永久不変、不老不死を約束されるのだ。
『古事記』や『日本書紀』『万葉集』『丹波国風土記』などの記述にこの名前が見られる。
スクナビコナ神が国造りの途中で去ったのもこの常世国である。
この時スクナビコナは粟の茎に登り、この茎に弾かれて海の彼方へ消えたという。
また『万葉集』には、浦島太郎の原形となった浦嶋子という人物の体験を詠んだ歌がある。
その体験とは、次のようなものだ。
漁に出た浦嶋子は常世国に流れ着き、海底宮殿でワタツミ神の娘とともに、楽しい日々を過ごした。
だが、常世国にいれば不老不死でいられたのに、ある時浦嶋子は望郷の念に駆られる。
止めるワタツミの娘を振り切って浦嶋子が帰郷してみると、そこには自分の家はすでになかった。
衝撃を受けた彼は、ついに開けてはならぬ玉手箱を開けてしまうのだ。
外界とは時間の流れの異なる世界である常世国だ。
当時の人々に永遠のあこがれをもたらした常世国には、ただ単に海の彼方にある異世界、というだけでなく、スクナビコナが穀物の神でもあったため、穀霊の故郷と呼ばれたという。