世界のどの民族も例外無く、この世がどの様に姿を現して来たかの、由来を語る物語を持っている。
その様な物語は「神話」と呼ばれ、人間を含めた、この世界のあらゆる存在の起源を、神々の物語として語り出している。
それらは本来、神々を祭る何らかの儀礼の場で語られ、口頭で伝えられたものと考えられるが、やがて文字に書き留められる様になった。
ギリシャ神話や、天地創造の物語などで知られる『旧約聖書』は、その著名な例であるが、日本でも『古事記』『日本書紀』という二つの古代文献が神話として知られている。
『古事記』はそれまで各地に伝えられていた、相互に矛盾する神話伝承を整理して、国家的に正しい神話を後世に伝えたいという、天武天皇の意思を受け、稗田阿礼(ひえだのあれ)が語る伝承を太安麻呂(おおのやすまろ)が書き記し、712(和銅5)年に完成した。
その為、一貫した物語性を持ち、読み物として楽しく読める内容となっている。
一方、『日本書紀』は720(養老4)年に古来の伝承を収集して編まれたものだが、『古事記』が稗田阿礼という一人の語り部の口述を記したのとは異なり、中国各王朝の正史を手本に作られた国家の歴史書であり、さまざまな伝承を一貫した物語にまとめることはせず、相互に矛盾する内容を持つ複数の伝承も、そのまま「一書(あるふみ)」(異説)として紹介するかたちをとっている。
この様に性格の異なる二書だが、そこに記されている神話の内容は、登場する神々の名前や表記に相違が見られるものの、基本的には共通しており、両者を合わせて「記紀神話」と呼んで同列に扱うのが通例となっている。