「嘘をつくと閻魔(えんま)さまに舌を抜かれる」「泣く子も黙る閻魔さま」。
閻魔さまといえば、地獄の大王として、誰もが恐れる神さまだろう。
閻魔とは梵語のヤマの漢音訳で、もとはインド最古の宗教文献『リグ・ヴェーダ』に登場する神である。
はじめ天上の楽土に住んでいたが、人類最初の死者となって下界に行き、死後の世界の支配者となった。
のちに、死者の生前の行為に従って善悪の審判を行う神、地獄の王として仏教に取り入れられ、インドから中国、さらに日本へと伝わる道程で、次第に変容していく。
密教では、十二天の一つの「閻魔天」(南方の方位を守る護法神)として信仰される。
その為、閻魔天の図像は、穏和な顔ををした菩薩形で、片方の手に人頭幢(じんとうどう)を持って座す姿で表される。
密教が流入された平安時代以降、日本の寺院ではこの閻魔天を本尊として「閻魔天供」という供養法が行われ、除病・息災・延命・安産などを祈願した。
閻魔は古来、地蔵菩薩と表裏一体とされていた。
平安初期の仏教説話集「日本霊異記」に、「我は閻魔王、汝が国に地蔵菩薩といふ是れなり」とある。
地蔵が地獄で救いの手を差しのべることから、閻魔も死者を救済する王として信仰された。
さらに中国では、道教の冥界信仰とも融合し、冥府の十王(死者の罪を裁く十人の王)の一つ、「閻魔王」とされた。
その為、閻魔王の図像は「王」の冠をつけ、道服を着て片手に笏を持ち、恐ろしい形相で座している。
閻魔さまの像といえば、このほうが広く知られている。
日本では鎌倉時代以降、浄土信仰がさかんになるにつれ、地獄の大王としての閻魔に対する信仰が、民間にまで普及していった。
また、かつては正月とお盆(旧暦一月十六日・七月十六日)に「薮入り(やぶいり)」といって、奉公人たちが休みを貰える風習があった。
これは閻魔さまの縁日にあたり、地獄の釜が開く日といわれる。