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堤未果:アメリカを貧困大国にしトランプ大統領を誕生させた「米史上最悪の救出作戦」…ドラマ『ロング・ロード・ホーム』から見える戦争のリアル

2017-11-28 09:25:48 | 平和 戦争 自衛隊

戦争を知る~ 軍隊・兵器・作戦・歴史 ~

 http://natgeotv.jp/special-contents/category/military/tsutsumi.html

ロング・ロード・ホーム 

作品紹介

イラク戦争の重要な転機となった武力衝突事件「ブラックサンデー」。
日本ではあまり知られていないその実際の出来事を、ナショナル ジオグラフィックが総力を挙げて克明に描いた全8話のドラマシリーズが、この『ロング・ロード・ホーム』だ。その時、イラクの最前線で何が起きていたのか。死の恐怖と直面した兵士たちは何を思い、行動したのか。観る者の胸を揺さぶる感動と緊迫の戦争ドラマ大作だ。
ナショナル ジオグラフィック × Newsweek
イラク戦争の重要な転機となった武力衝突事件「ブラックサンデー」の全貌を、ナショナル ジオグラフィックが総力を挙げて描くドラマシリーズ「ロング・ロード・ホーム」。日本での放送開始に先駆けて、イラク戦争の知られざる裏側や同ドラマについて、有識者が語るインタビューシリーズ。
 
 
堤未果:アメリカを貧困大国にしトランプ大統領を誕生させた「米史上最悪の救出作戦」

2017年11月21日(火)
写真:岡田孝雄 文:西田嘉孝

―本作「ロング・ロード・ホーム」で描かれる真実のイラク戦争。開戦にいたる大きなきっかけとなった9.11の米国同時多発テロをニューヨークで体験された堤さんには、当時のアメリカ社会はどのような空気に覆われていているように見えていたのか。
アメリカ本土であるニューヨークを攻撃されたことによるパニックや対テロ戦争という言葉、そしてテロリストという未知なる敵。当時は、正体の見えないものに対する恐怖がアメリカ社会全体を覆っていました。政府もマスコミも強い論調で国民を煽り、そうしたテレビや新聞の報道を通じて、日本人の私ですらテロリストへの憎しみが日に日に大きくなっていく。

さらにテロの後すぐ、米国愛国者法が議会でほとんど反対もなくスピード可決されました。愛国者法は言論統制の法律ですから、恐怖や怒りがアメリカ中に広がっていくのと同時に、社会がどんどん閉塞感に覆われていった。勇ましくテロとの戦いを叫ぶブッシュ大統領の支持率も高く、「アメリカの自由と民主主義を奪おうとするテロリストと戦う」といったスローガンに疑問を持つアメリカ人もほとんどいなかったと思います。

ただ、いまになって振り返ると、そうしたスローガンのもとで自由と民主主義を失っていったのは実はアメリカの方だった。9.11で自信を失ったアメリカが、政府とマスコミを信じて正義のために始めたイラク戦争で、開戦の大義とされた大量破壊兵器はいつまでも見つからない。さらには、すぐに終わるだろうと思っていた戦争が長期化し、3兆ドルともされる戦費の裏で国内のインフラや教育、医療、福祉、社会保障の予算がどんどん削られていく。兵士の命や健康に加え、法外な社会的コストを支払わされ、アメリカがボロボロにされてしまった。それがイラク戦争だったのではないかと思います。

堤未果 インタビュー

兵士と家族たちの運命を変えたイラク戦争

堤未果 インタビュー

―本作「ロング・ロード・ホーム」では、兵士やその家族たちの物語も丁寧に描かれている。現在もアメリカ社会を取材し続ける堤さんから見た、イラクからの帰還兵たちのリアルとは?

ベトナム戦争当時のアメリカは徴兵制でしたが、イラク戦争時は志願制。志願制は戦場で戦う当事者になる人々と戦場とは無関係な層が二極化し、戦争のリアルが社会のなかで見えにくくなってしまう制度です。今回の「ロング・ロード・ホーム」の原作にもありましたが、私が取材をした兵士たちも「イラク戦争はアメリカ兵士とそれ以外の国民を断絶した戦争だった」と語っていました。

今回の作品でも若い兵士が現地の子どもを撃つシーンがでてきますが、誰が敵なのかわからない対テロ戦争では、すべての決断や責任を末端の兵士が負わなくてはなりません。イラクやアフガニスタンも人口の半分以上が18歳未満、私が取材をした帰還兵の多くも「子どもをたくさん殺してしまった」という深刻なトラウマを抱えていました。

彼らの多くは子どもを持つ父親や母親でもあります。なのに親の目の前でその子どもを殺さなくてはならない。特に女性兵士には、帰国後に自分の子どもとの距離感がとれなくなり、子育てできなくなる人がとても多いです。ある兵士は私に言いました。「一人殺すと一生戦争を生き続ける事になる」

そうしたトラウマは戦場で心身が壊された兵士からその配偶者、子どもに影響し、家族がずっと破壊され続けてゆくのです。結果として、アメリカは国家として何世代にも渡り色々なものを失っていくこうした問題はイラクに自衛隊を派遣し、現在も北朝鮮問題を始め様々な軍事的火種を抱える日本にとっては、もはや他人事ではないのです。

堤未果 インタビュー

―イラク戦争にいたる経緯をアメリカで見ていた堤さんが思う、いまの日本人がイラク戦争から学ぶべき教訓は?

イラク戦争が長期化して国がボロボロになり、厭戦ムードが充満し、去年の選挙では過半数を超える軍関係者がトランプを支持しました。とはいえ、アメリカは戦争経済をずっと維持してきた国、トランプ政権も例外ではありません。利権のための戦争が次に東アジアで起きれば、政治的挑発のしわ寄せが日本にくる可能性は大いにあります。

世論で戦うべきだと言っている人たちは、自分が当事者だとは考えていないのかもしれません。志願制のアメリカで対テロ戦争を戦っているのは全人口の1%ですが、社会が豊かでなくなるにつれ、高騰する学費に苦しむ学生や医療破産者、リストラされた中高年たちの入隊数が増えています。つまり、アメリカ社会ではある一定層を除き、誰もが生活と引きかえに戦争にいく構造が広がりつつある。規制緩和によって医療や教育や公共サービスが"自己責任"の方向に進んでいる日本でも、「経済徴兵制」は他人事ではありません。

北朝鮮の問題や安保法制の議論があり、一方では貧困が拡大して学費のために借金を負う学生も増えている。そんな日本で今この「ロング・ロード・ホーム」が放映されるのは、日本人が問題意識を明確にするうえで大きな意味があると思います。

 
 

 
 

堤未果堤未果(つつみみか)
国際ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号。国連、アムネスティインターナショナル、米国野村證券を経て現職。「ルポ貧困大国アメリカ」で新書大賞、エッセイストクラブ賞。「アメリカ弱者革命」で日本ジャーナリスト会議黒田清賞。近著に「アメリカから自由が消える増補版」「核大国ニッポン」。