20センチの巨人(4)

2022-02-17 09:50:53 | 童話
『ありがとう。これから返すね、ほれっ。』
だけれど、巨人さんは黄色いぼうしのヒモをランドセルに結ばないで、ランドセルの上に置いて投げたので、ランドセルは届いたのですが、軽いぼうしは僕の所へ飛んで来ませんでした。そして、巨人さんがぼうしを何度投げても、僕の所には飛んで来ませんでした。
『困ったね。』
『うん、困ったね。』
『僕がお母さんに頼んでみるよ。』
『ああ、そうしておくれ。それまで黄色いぼうしは大切持っているからね。』
『うん。』

『お母さん、僕の黄色いぼうしが絵本の中に入ってしまって取れないんだ。お母さん取ってみて。』
『あらっ、本当に絵本の中に入って、巨人が持っているわね。』
『巨人が投げても外まで届かないんだ。』
『それでは、物干しさおを巨人に渡しましょ。そして、物干しさおの先に黄色いぼうしを載せて高く上げてもらうのよ。』
『物干しさおを僕が巨人さんに渡してあげるよ。』
と言って、お母さんに長いさおの後を持ってもらって、トンと本の上に置きました。すると長いさおは本の中に入って行き、巨人さんに届きました。
『ありがとう、届いたよ。これから黄色いぼうしをさおの上に載せて持ち上げるよ。』
そして、巨人さんがさおを持ち上げましたが、高い所は風が吹いていて、黄色いぼうしが飛ばされました。

『だめだね、うまくいかないね。』
『そうだね、うまくいかないね。よしっ、わしが持って上がって行くよ。』
そう言って、巨人さんが黄色いぼうしをかぶって、両手で物干しさおを掴んで僕の所まで持って来てくれました。
『ほいっ、黄色いぼうしだよ。わしはもう帰るからね。』
『巨人さん、ありがとう。』
『ああ、良かったね。』

20センチの巨人(3)

2022-02-15 10:40:18 | 童話
そして、次の日
『おはようございます。』
『ああ、おはよう。』
僕はまた絵本の中の巨人とお話しをしました。
『巨人さん、僕はね、四月から小学校へ行くんだよ。』
『ランドセルと黄色いぼうしはもう買ってもらったの?』
『うん、おじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれたよ。』
『見せてほしいなあ。』
『うん、いいよ。だけれど返してね。』
『ああ、いいよ。』
僕はランドセルに黄色いぼうしのヒモを結んで、いつものように絵本の上にポンと置きました。
するとランドセルと黄色いぼうしは、本の中の巨人と同じくらいの大きさになりました。

『ステキなランドセルだね。黄色いぼうしもカワイイね。』
『うん、良いでしょ。』
『ランドセルを背負って、黄色いぼうしをかぶってもいいかい?』
『うん、一度だけならいいよ。』
『ありがとう、やってみるね。』
『できた?』
『ああ、できたよ。』
『巨人さんもランドセルと黄色いぼうしが良く似合うよ。』

20センチの巨人(2)

2022-02-13 09:56:36 | 童話
『そうだね、本の中は引力が小さいので、わしの所まで落ちてこないんだよ。』
『ふ~ん。引力ってな~に?』
『みんなが居る地球が引っ張っている力だよ。』
『その力は僕よりも強いの?』
『そうだよ。君よりもずっとずっと強いんだよ。』
『ふ~ん、巨人さんよりも強いの。』
『ああ、わしよりもずっと強いよ。』

『お月様にも引力は有るの?』
『ああ、お月様にも引力は有るよ。だけれど、お月様の引力は地球よりも小さいんだよ。』
『じぁ、地球とお月様が力比べをすると地球のほうが勝つよね。』
『そうだね、地球のほうが勝つね。』
『巨人さんとお月様では、どちらが勝つの?』
『お月様のほうが勝つよね。』
『巨人さんは弱いんだね。』
『そんな事ないよ、わしは生き物の中では一番強いんだよ。』
『ふぅ~ん。』
『巨人さんが僕の所に来ることができた時に、僕と力比べをしようよ。』
『ああ、いいよ。』

20センチの巨人(1)

2022-02-12 10:48:02 | 童話
『おはようございます。』
『ああ、おはよう。』
僕は毎日絵本の中の巨人とお話しをします。だけれど、巨人は絵本の中から出ることができませんし、僕も絵本の中に入ることもできません。
だから、巨人とジャンケンをすると巨人の手がグーチョキパーと動きますが巨人と手をつなぐことはできません。

ある日、友達とゲームをしている時に、ひろげていた巨人の本の上にサイコロが転がって行きました。僕がサイコロを取ろうとした時にサイコロが本の中に入ってしまいました。
その時、本の中の巨人が
『お~い、サイコロが入ってきたよ。ほれっ。』
と言ってサイコロを本の中から投げ返してくれました。
『ありがとうございます。』
僕は巨人にお礼を言いましたが、なぜサイコロが本の中に入ることができたのか、なぜ巨人がサイコロを投げ返してくれることができたのか分かりません。

サイコロの代わりに消しゴムを本の上に置きましたが、消しゴムは本の中には入って行きませんでした。
『本の中の巨人さん、消しゴムを取ってみてよ。』
『そんな高い所にある消しゴムには手が届かないよ。』
『さっきはサイコロを投げ返してくれたでしょ。』
『サイコロはわしの手に落ちてきたから投げ返せたんだよ。』
『ふ~ん、そうなんだ。それでは、今度はど~お?』
僕は消しゴムを本の上にポトンと落としてみました。
『ああ、消しゴムが届いたよ。ほれっ。』
と言って消しゴムを投げ返してくれました。
『置くのではなく、ポンと落とすといいんだね。』

僕は自転車(5)

2022-02-10 16:19:43 | 童話
僕が他の家に貰われて行く日、今度の家のおじさんが自動車でやって来た。

おじさんが僕を自動車に積む時に、僕を大事にしてくれた男の子が、サドルをボンポンと叩いて『今迄ありがとう。』と言ったので、僕はみんなに見つからないようにして涙を流した。

『バイバイ。』男の子と男の子のお父さんに見送られて、走り出した自動車の中から手を振った。いや、手ではなくハンドルを振った。

ほどなく、自動車は今度僕に乗ってくれる子供の家に着いた。
『わ~い自転車だ、ピカピカの自転車だ。』
『大事に乗るんだよ。』と言っておじさんが僕を自動車から降ろした。
『うん、大事にするよ。』
『明日の日曜日に、公園で乗る練習をさせてやるよ。』
『うん。』と言って僕をずっと眺めていた。

次の日から、自転車の練習が始まった。
『ほらほらっ、下を見ないで前を見て。』僕は、練習する時に大人はみんな同じ事を言うのだなぁと思った。
『お父さん、手を離さないでね、離したらダメだよ。』
前の男の子の時と同じようにグラグラ、グラグラとしている。僕は必死になってこらえて転ばないようにしていた。しかし、おじさんが手を離した時に僕は転んでしまった。そして、この子も膝を擦りむいてしまった。
『うわ~ん、痛いよ~。』おじさんは『少し怪我するくらいでないと自転車に乗れないよ。』

また僕は前の男の子のお父さんと同じ事を言っていると思った。
毎週、練習をして、グラグラするが、やっと転ばないようになった。
この子も僕を大事にしてくれる。転んだ時は家に帰ってから、僕を綺麗に洗ってくれる。

この子も大きくなって、大きな自転車を買っても、僕を大事にしてくれると思う。
そして、外から帰って来た時に、何も言わないでサドルをボンポンと叩いてくれると嬉しいなぁ。
そう思いながら、この子と練習を続けている。

    おしまい