僕は自転車(4)

2022-02-08 09:57:27 | 童話
そして僕は、綺麗に磨かれて、油もさしてもらって元気にしている。
新しい自転車で帰って来た男の子は必ず僕の所に来て、サドルをボンポンとたたいてくれる。何も言わないが僕は嬉しい。

少し経って、僕の仲間ができた。男の子が大人になって、自分のお金でカッコいいマウンテンバイクを買ったのだ。
そして、今迄乗っていた大きな自転車も綺麗にして、僕の隣りに置いてある。3台の自転車で時々お話しをするので僕は寂しくない。

ある日、僕は他の家に貰われて行くことになった。小さな子供が居る家で、自転車の練習をしたいというのだ。
僕は昔を思い出した。転びながら練習をしたよね。僕は今度の小さな子供も上手く乗れるようにしてあげようと思った。

僕が貰われて行く日に、男の子がやって来て、サドルをボンポンと叩いた。僕は涙をこらえるのが大変だった。僕は幸せだったし、今も幸せだ。

僕は自転車(3)

2022-02-06 11:11:44 | 童話
男の子は、夕飯の時にお母さんに
『あのね、僕、自転車に乗れるようになったよ。』と言うと、
『あらそう、頑張ったのね。良かったわね。』と喜んでくれた。
そして、しばらくお父さんや友達と一緒に僕に乗って楽しんだ。

ある日、お父さんが男の子に
『大きくなったので新しい自転車を買ってやろうか?』
と言った。
男の子は嬉しそうに『うん。』と言った。
だけれどすぐに、男の子は
『要らない、僕が自転車に乗れるようになったのは、この自転車だったからなんだ。僕はこの自転車が大好きなんだ。僕がこの自転車を乗らなくなると自転車がかわいそうだから。』
と言ったので、僕は
『ありがとう、だけど僕は違う子供に乗ってもらうから大丈夫だよ。』
と涙を抑えて言った。
すると、お父さんが
『それでは、新しい自転車を買ってやるが、この自転車も家に置いておくから、時々この自転車にも乗ってやればいい。』
と言ったので、男の子は『うん、そうする。』と応えた。
僕は嬉しくなり、
『ありがとう、ありがとう。』と何度も言った。

僕は自転車(2)

2022-02-05 12:05:44 | 童話
そこへ、男の子の友達が自転車でやって来た。
『なんだ、まだ乗れないのかよ。』と言った。
自転車の僕は男の子が乗れるように頑張ることにした。グラグラしていても、僕が倒れ
ないようにすればいいのだ。
僕は男の子に
『一緒に頑張ろうよ、僕も倒れないようにするから。』
といって励ました。
『うん、頑張る。』と言って、友達の前で僕を漕ぎ始めた。僕はグラグラしながらも倒れな
いように男の子を支えた。

友達は『なんだ、乗れるじゃないか。』
男の子は嬉しそうに
『うん、そうだね。』
と言って公園の中をぐるぐると、いつまでも僕に乗って走っていた。
そして、だんだん上手くなり、僕はグラグラしなくなった。
お父さんさんが
『おぅ、乗れるようになったじゃないか。』
と言い、男の子以上に嬉しそうにしていた。

僕は自転車(1)

2022-02-03 12:56:43 | 童話
僕は自転車、この家の男の子の自転車。
男の子のお父さんの自転車は古いが、僕は新しい。
もう一つ、お父さんのとは違うところが有る。僕には補助輪が付いている。男の子は頑張っているが、なかなか補助輪が外せない。
今日も補助輪を外して、お父さんと公園で練習をしている。

『お父さん、手を離さないでね。』
男の子が乗った僕がグラグラ、グラグラ。なかなか上手くならない。
お父さんが『下ばかり見ているからだ、もっと遠くを見ないとダメだよ。』
だけれど男の子は遠くを見ることができない。
『ほらほらっ、前を見て、遠くを見て。』
お父さんの声は聞こえるが、顔が自然に前の車輪の地面を見てしまう。
急に僕がグラグラして転んでしまった。お父さんが手を離したのだ。男の子は血のにじんだ膝を見ながら泣くのを我慢している。
『少し乗れるようになってきたから、もう少しだよ。』

お父さんが励ましているが、男の子は膝が痛くて仕方がない。
『男だろっ、頑張れ。』
男の子は『僕は男でなくてもいい。』と思った。

僕と、お父さんとボクとの約束(3)

2022-02-02 11:23:03 | 童話
僕は、その日から毎日、ヒジを曲げるようにして練習を続けていて、逆上がりができるようになった。
僕は速く走ることと、逆上がりができるようになる練習を続けていたので、ご飯を食べるのも、学校へ行くのも早くできるようになった。

僕は、ご飯を食べている時に、徒競走で3番になった事と、鉄棒の逆上がりができるようになった事を、お父さんとお母さんに話をした。
お母さんは
『すごいわね。』
と言ってくれて、お父さんは
『どうしてできるようになったんだい?』
と聞いたので、僕は
『新しい友達が教えてくれたんだよ。』
と答えた。
だけれど、ボクの事は話をしなかった。

そしてある日、僕は友達とボクの3人で自転車で近くの公園に行った。公園までの道は上り坂だが、ボクが1番で僕が2番で、友達が3番目だった。今迄は僕は友達にかなわなかったので、友達が
『どうしてそんなに速く走れるようになったの。』
と言って驚いていた。
 
僕を頑張れるようにしてくれたボクはすごいと思う。ボクは本当に僕のお父さんの子供の頃なのだろうか?
『ねぇお父さん、お父さんは小さな子供の頃は、走るのが速く、鉄棒の逆上がりもできていたの?』
『走るのが遅く、鉄棒の逆上がりも全然できなかったよ。』
『でも、今はできるでしょ?』
『そうだね、逆上がりはできるけれど、今は走るのは遅くなっただろうね。全然運動をしていないからね。』
『でも速かったんでしょ?』
『そうだね、速かったよ。』
『お父さんはだれから教えてもらったの?』
『お父さんのお父さんから教えてもらったのだよ。』
『ふぅ~ん。僕はね、お父さんに教えてもらったんだよ。』
『お父さんは教えていないよ。』

『ううん、お父さんの子供の頃の男の子から教えてもらったんだよ。』
『そうか、お父さんも、お父さんのお父さんの子供の頃の男の子から教えてもらったんだよ。』
『僕と同じだね。』
『これは、お父さんとお前との秘密だよ。』
『うん、僕とお父さんとの秘密だよね。それから、僕はボクとずっと仲良くするね。』

  おわり