山の上のロックの永~い旅(3)

2019-02-23 10:10:51 | 童話
何年か経った後の大雨で僕は少し動き出したのを感じた。
ズズッ、ズズッと松の木のおじさんの根元が少しずつ遠くなってきだした。
『松の木のおじさん、僕は海に向って進み始めたみたいだ。おじさん、また今度ね。』
『あいょ、元気でなぁ。』
『兎さんや友達のみんなも元気でね。』
『バイバ~イ。』
『みんな、みんな、楽しく遊んでくれてありがとう。バイバ~イ。』
『みんな見えなくなってしまった。』

僕はズズッ、ズズッと森の中を滑って行った。
今度は転がらないので楽だったが、ゆっくりと時間をかけて移動して行った。
ズズッ、ズズッとゆっくりと滑っているので、蛇やネズミやリスたちにも追い越されたが、ず~と動いて行った。

暫くすると水の流れる音が聞こえ始めた。
『あっ、冷たい。』
僕のお尻と背中が水の中入った。
『ここは小川だ。』
僕はきれいな水が流れている小川の中で止った。
山の上からの雪溶け水が流れ込んでいる場所なので水が少なく、魚は居なかった。
『あっ、トンボの子供のヤゴが居る。僕の名前はロック、ヤゴ君は冷たくないの?』
『ずっと水の中に居るから冷たくないよ。』
『ここは水も空気も綺麗で気持ちがいいね?』
『そうだね、山の上のように寒くもないしね。』
『僕は山の頂上から転がって来たんだけれど、ヤゴ君はどうして山の頂上の事を知っているの?』
『僕は行った事は無いけれど、僕のお父さんとお母さんが言っていたよ。』
『お父さんとお母さんは一緒じゃないの。』
『僕たちトンボは、お母さんが水の中に卵を産んだら飛んで行くから、ヤゴの兄弟だけで暮らすんだよ。』
『寂しくないの?』
『兄弟がいっぱい居るから寂しくないよ。』
『ヤゴ君はいつトンボになるの?』
『来年かな。』
『それまで僕とここに居られるね。』
『トンボになって飛んで行ったみんなも、呼べば遊びに来てくれるよ。』
『では、ヤゴ君、トンボのみんなを呼んで、一緒に遊ぼうよ。』
『じゃ、これからみんなを呼ぶね。』

ヤゴは水の中で短い羽根を震わせた。
そうして水面が震えるのを見たトンボが集まって来た。

山の上のロックの永~い旅(2)

2019-02-22 05:40:35 | 童話
目が回ったのが直ったので、僕は何にぶつかって止ったのか確かめた。
松だ、やっと大きな松の木の根元に居るのが分かった。
『僕はロックという名前です。松の木のおじさん、大丈夫ですか?』
『ああっ、大丈夫だよ。お前のスビードが遅くなっていたので、わしでも止められたよ。もっと速いとダメだったけれどね。』
『ありがとう、助かった。目がグルグル回って大変だった。』

『わしは三百年ここに居るけれど、お前のように転がって来る石を何度か見たよ。』
『そうなの、みんな転がるのが上手だった?』
『ああっ、みんな上手いもんだ。ところで、お前はどこへ行くのだい?』
『僕はね、これから海へ行くんだ。』
『海は遠いよ。』
『海は遠いと聞いていたけれど、そんなに遠いの?』
『ああっ、遠いよ。何年かかるかなぁ。いやいや、何百年かなぁ。』
『そうか、頑張らないといけないなぁ。』
『松の木のおじさん、少しここで休憩させてね。』
『ああっいいよ、好きなだけ居なさい。』

『あっ、何か居る。やぁ、さっきのウサギさんだ。僕の名前はロック、さっきは驚かせてゴメンね。』
ウサギは
『お腹の上に乗っていい?』
『ああっ、いいよ。僕は暫くここに居るからお話しをしようよ。』
『転がって来たばかりだからお腹にも苔がまだ付いていないね。』
『うん、転がっている時に苔が全部取れてしまったんだ。』
『そんなに転がって来たの?』
『うん、あの高い山の頂上から転がって来たんだ。』
『目が回ったでしょ。』
『うん、ぐるんぐるん回って、上か下か、右か左か分かんなかった。』
『大丈夫?』
『もう直ったから大丈夫だよ。』

『ウサギさんは近くに住んでるの?』
『ここから少し上に行った所の穴に住んでいるの。』
『僕が転がって、君の住んでる穴は大丈夫だった?』
『ええ、大丈夫だったわ。これから何処へ行くの?』
『海へ行くんだよ。』
『海って遠いの?』
『僕も知らないけれど、お父さんが遠いって言っていたよ。』
『私も行ってみたいけれど、そんなに遠いのなら一緒に行けないわね。』
『そうだね。僕だけで行ってくるよ。』

僕は松の木のおじさんの根元で暫く過ごした。その間、ウサギがキツネやムササビ達の友達を沢山連れて来て、毎日楽しく過ごしていた。

山の上のロックの永~い旅(1)

2019-02-21 05:31:05 | 童話
僕の名前はロック、今お姉ちゃんや弟とお父さんとお母さんにくっついて、山の上に居る。
ここは見晴らしが良くて気に入っている。
雪が溶け、チョウチョやミツバチがお花の蜜を探して飛び、小さな植物が実を付け、そして、次の年また雪が降る。
この自然の繰り返しが心地よいのだ。雪の時はブルブルッと震え、春風にホンワカ、ホンワカ。雷にはビックリするけれど、夕立のシャワーは気持ちいい。秋になると小さな木の実が一杯で、動物たちは満腹満腹。

僕達兄弟は、お父さんお母さんにくっ付いて暮らしていたが、永い年月が経って、雨と雪で少しずつ隙間が広がってきた。
お父さんが、僕たち兄弟に
『いつでも自分で行動できるようにしていなさい。』
と言った。
しばらくして、兄弟の中で僕が一番に離れる事になった。
雨が強くなってきたが、僕はみんなと離れるのがイヤで、しっかりとくっ付いていた。

そして雨が止んで虹が出た。
『お兄ちゃん、虹が綺麗だね。』
『そうだね。』
その時、僕はふあっと身体が浮かんだ。そして、今度はドスンと何かにぶつかった。
その後は目が回る位ゴロゴロと転がり始めた。うわっ、う~わっ、止らないよ。

大きな杉の木が
『お~いっ、どこまで行くんだい。』
『分かんないよ。』

大きな熊が
『駆けっこなら負けないよ。』
『今はダメだよ、今度ね。』

小さなウサギが飛び跳ねて
『危ないなぁ。』
『ゴメン、ゴメン、大丈夫かい?』

僕は回転するスビードが遅くなってきたのが分かった。その時、何にぶつかって止った。』『ここはどこなんだろう?』
僕は周りを見渡した。
『森だ、森の中だ。』

僕達の小さくて大きな森(9)

2019-02-20 08:43:59 | 童話
ある日、おじいちゃんに頼まれて庭の掃除をしていて、梅の木の根元の雑草を取っている時に、根元に何か動く物を見つけた。
『やぁ、人間君、元気?』
忘れていたあの小さくて大きな森の動物だった。ゾウもキリンもチンパンジーもいるし、小さく点のように見えるのはカブトムシとクワガタだった。

『やぁ、みんな元気だったんだね。』
『うん、みんな元気だよ。君が引越しをしなくても良くなるようにしてくれたからね。』
『だけれど、みんなどうしてここにいるの?』
『僕達は、小さくて大きな森の中でしか生きていられないけれど、人間の君達に会いに来たんだよ。もう帰らないといけないけれどね。』
『僕と友達は、どうして君達に会いに行けなくなったの?』
『僕達の小さくて大きな森はね、小さな子供だけが行ける所なんだよ。君達は大きくなって高校生になったから、小さくて大きな森には行けなくなってしまったんだよ。』
『そうなんだ。今、友達を呼んでくるから、ちょっと待っていて。』

僕は急いで友達の家へ行った。
『今ね、小さくて大きな森の動物達がやって来ているので早くおいでよ。』
『えっ、あの動物達が来ているの?』
『そうなんだよ。』

僕は急いで庭の梅の木の所に来て根元にいる動物達に会ったが、小さくて大きな森に帰る準備をしていた。
『君達も帰る時はエンピツなの?』
『そうだよ、エンピツが無いと帰れないんだ。』
『僕達と同じだね。』
『うん、そうだね。』
『今度はいつ来てくれるの?』
『もう来られないよ。』
『残念だけれど仕方ないね。』
『じゃぁ帰るからね、バイバイ。』

キリンが『うわっ。』
ゾウが『うわっ。』
チンパンジーが『うわっ。』
カピバラが『うわっ。』
カブトムシが『うわっ。』
クワガタが『うわっ。』

そうして、動物達はみんな小さくて大きな森に帰って行った。
僕は今も梅の木を大事にしている、小さくて大きな森の動物達のために。

  おしまい

僕達の小さくて大きな森(8)

2019-02-19 05:39:12 | 童話
それから、お母さん達は梅の花が咲いているのを楽しんでいるが、僕達は花が咲き終わるのを楽しみにしている。

『温かくなって来て、梅のお花も散ってしまったわね。』
『お母さん、梅の枝を挿し木するから僕に頂戴。』
『約束していたから良いわよ。』
『大事にするね。』
僕は梅の枝を庭に植えて、元気になるんだよと声をかけた。
そして、僕は友達の家に行って梅の枝を庭に植えたことを言った。
『良かったね、これで動物達が引越しをしなくてよくなるね。』
『そうだね。その事を動物達に教えてあげようよ。』
『そうしようか。』

僕達はエンピツを持って庭の梅の枝の所に来た。
『うわっ。』
『うわっ。』
僕達はお花畑を抜けて動物達がいる所にやって来た。
『お~い、動物君達、もう引越しをしなくてよくなったよ。梅の枝を庭に植えてきたからね。』
動物達が拍手をして僕達を喜んでくれた。
『うわっ。』
『うわっ。』
僕達は動物に伝えたので家に戻ってきた。

庭の梅の木が大きくなり、今はエンピツを近付けてもブルブルとなることも無くなった。  しかし、動物達はみんな元気だと思う。
できれば、もう一度ブルブルとなり、『うわっ。』となって動物達に会いに行きたい。

僕達は高校生になり、友達も僕と同じ高等学校に行っている。
そして、挿し木した梅の木も大きく育ち、たくさんの実を付けるようになっていた。
僕達は勉強とクラブ活動で、あの小さくて大きな森の事は忘れてしまっていた。