競馬マニアの1人ケイバ談義

がんばれ、ドレッドノータス!

よっ、横綱!7

2017年02月27日 | よっ、横綱!
 横綱富士ケ峰関の土俵入りが始まりました。昨日まではある程度声援があったのですが、今日はほとんどありません。逆にヤジぽい声が飛んでました。なんとも寂しい横綱土俵入りです。
 支度部屋です。富士泉関がモニターでそれを見てました。昨日までそこに露払いとして立っていた富士泉関は、なんかちょっと不思議な気分です。ちなみに、今日の支度部屋は富士ケ峰関とは東西別となりました。昨日の今日です。今日は直接顔を合わす必要がなくって、富士泉関はちょっとほっとしてます。
 続いて朝桜関の横綱土俵入りです。今度は打って変わって物凄い声援。やはり横綱土俵入りはこうでなくっちゃいけませんね。
 さてさて、富士泉関はここまで7勝1敗。今日はいよいよ勝ち越しがかかる1番です。そのせいか今日の相手は、西前頭筆頭の鈴の原関。一気に相手強化となりました。ただし、鈴の原関にとって平幕筆頭はこれまでの最高位。しかも今場所ここまで2勝6敗。組し易い相手だと思います。今日勝ち越しできるんじゃないかな?
 ちなみに、明日の対戦相手は小結西都関。初めて3役との取組になりますが、こっちも今の地位が最上位で、おまけにこの力士もここまで2勝6敗。今の富士泉関だったら、この力士も簡単だと思ます。
 と、富士泉関の後ろに1つの人影が立ちました。
「よっ、いずみ」
 富士泉関が振り返ると、そこには横綱朝桜関がいました。
「よ、横綱・・・」
 突然の横綱の来訪に、富士泉関はちょっと慌てました。横綱はあぐらをかきながら、
「いろいろとあったみたいだな」
「ええ」
「土俵の中のことなら相談に乗ってやってもいいが、土俵の外じゃなあ・・・」
 それに対して富士泉関は何かを言い返そうとしましたが、口が開きませんでした。
「でもなあ、あいつ、そんなに悪いやつだったのか? わしはちょっと信じられないのだが・・・」
「オ、オレもそう思います!」
 今度は富士泉関の口が開きました。それも、間髪入れずに、思いっきり。
「悪いのは馬券です。馬券さえやめてくれりゃ、元の強い横綱に戻ってくれるはずです!」
 すると、なぜか朝桜関は吹き出してしまいました。
「あはは、そうか。悪いが、馬券ならわしだって買ってぞ。競馬を教えてくれたのは、うちの親方だ」
「ええ?」
 思わぬセリフに富士泉関は絶句してしまいました。
「わしは真面目すぎるから、ちっとは遊べってさ。一度覚えたら病みつきだよ。ただ、場所中はさすがに買わないけどな」
 場所中は馬券を買わない。朝桜関のセリフは至極当然のことだと思います。朝桜関はさすが大横綱ですね。
「あ、あの~・・・」
 富士泉関は今場所富士ケ峰関が優勝か準優勝しないと引退になると、朝桜関に教えたくなったようです。
「い、いや、なんでもないっす」
 でも、富士泉関は何も言えませんでした。それを教えたら朝桜関が変に手心を加えるんじゃ・・・、と思ったみたい。朝桜関は土俵上では勝負の鬼。決してそんな人じゃないけどね。
「お前もいろいろと大変だな」
 と言うと、朝桜関は立ち上がりました。
「頑張れよ。じゃな」
 横綱は立ち上がると、ぼくを見ました。その目はまるで「あとは任せた」と言ったみたい。そして自分のスペースに行ってしまいました。一方富士泉関は、さらに朝桜関が好きになったようです。
 いよいよ富士泉関に出番となりました。富士泉関は「よし!」と言うと、土俵に向かって歩き始めました。

 富士泉関が土俵に上がりました。すると、なんと係りの人が懸賞金の旗を持って歩き始めたのです。しかも3本。すべて富士泉関に付いた懸賞金でした。
 富士泉関の取組に懸賞金が付くのは初めてです。しかも全部自分に付いた懸賞金です。ほんとうなら感激してもいいところなんだけど、今は勝ち越しがかかる一番の方が重要ですよね。
 ちなみに、今日懸賞がかかることは事前に知らされてたんですが、勝ち越しのことと横綱富士ケ峰関のことで頭がいっぱいで、富士泉関はロクに話を聞いてませんでした。
 富士泉関はいつものとおり、塩を撒いて、四股を踏んで、蹲踞の姿勢。腰を割って、手を付いて、相手を睨みます。が、今日の相手鈴の原関は、富士泉関をまったく見ることなく塩を取りに行ってしまいました。完全に覇気がありません。これは富士泉関チャンスです!
 いよいよ取組の時間となりました。見合って、手を付いて、発気揚々! 残った!
 鈴の原関は頭から富士泉関の胸にぶつかってきました。と同時に、右手を差します。それに対して富士泉関は、右手ではず押し。同時に左手で上手を掴みます。が、右肘を握られてしまい、右手が動きません。押っ付けです。鈴が原関の頭が徐々に低くなり、いつしか富士泉関のアゴの下に入ってました。これは苦しそう。
 と、鈴が原関の左手が富士泉関の廻しを下手で掴みました。これで富士泉関の身体は完全に伸び上がってしまいました。富士泉関、ピンチ!
 と、富士泉関の左足の踵が外側から鈴が原関の右アキレス腱に絡みつきました。外掛け。2人の身体が重ね餅になって土俵上に倒れました。富士泉関逆転の勝利です。
 うおーっ! うねりのような歓声が湧きあがりました。これで8勝1敗。富士泉関は帰り入幕なのに、たった9日で勝ち越してしまいました。凄い、とっても凄いです。
 ぼくは力水の柄杓を持って待ってる富士泉関に声をかけました。
「やったね!」
「ああ、まさかこんなに早く勝ち越すとは、自分でも信じられないよ」
「外掛けは珍しいね」
「ああ、とっさに出たって感じだったよ。オレの相撲は思ってもみないほど成長してるんだなあ」
 あ、いけねぇ。第3者から見たら、また富士泉関が1人で勝手にしゃべってるように見えるじゃん。
「じゃあね」
 と言うと、ぼくはその場を離れました。

 今日も両大関快勝。9連勝だって。そして横綱富士ケ峰関の出番となりました。今日の相手は平幕中頃の弥生関。平幕と言っても、ここまで6勝2敗と調子がいい力士です。
 2人が土俵に立ちました。場内は何か異様な雰囲気です。横綱土俵入りのときとおんなじ、いや、あのとき以上に罵声が飛んでいます。横綱は昨日の一件で完全に悪役になってしまったようです。
 これを支度部屋でモニターで見ていた富士泉関は、ふとあることに気づいてしまいました。懸賞旗が廻ってないのです。ふつー横綱が土俵に上がれば、それだけで懸賞旗がたくさん廻ります。富士ケ峰関も昨日までは5つくらいは廻ってました。それが今日はないのです。
 富士泉関はふと記憶を辿りました。さっき自分の取組のときに廻っていた3本の懸賞旗。あれはたしか、昨日まで富士ケ峰関の取組で廻っていた懸賞旗です。てことは、本来富士ケ峰関に付くはずだった懸賞旗のいくつかは、富士泉関に移ってしまったということ? 人気の世界とは言え、これは悲しい現実です。
 いよいよ取組の時間となりました。両力士とも土俵に手を付きました。発気揚々! 残った!
 横綱、立会と同時に強烈なはず押し。そのまま土俵際まで弥生関を攻め込みました。このまま寄り切ると思った瞬間、横綱は突然身体を引きました。引き落としです。弥生関の身体はあっけなく土俵に転がってしまいました。
 横綱勝利。でも、場内はブーイングと罵声だらけになってしまいました。今の引き技は卑怯とでも言いたいのかなあ? どう考えても正当な技なんだけど・・・
 続く横綱朝桜関もたった1秒で寄り切り、9連勝となりました。これで通算46連勝です。こりゃ50連勝を超えるんじゃないかな? 本場所5日前に急性アルコール中毒で入院したなんて、うそみたい。

 翌日水戸泉関の支度部屋は、富士ケ峰関と同じ部屋になりました。
「いずみ、勝ち越しおめでとう」
 富士ケ峰関が富士泉関に祝福の声をかけました。たぶんかなりの覚悟があったんだと思います。でも、富士泉関は後ろを向いたまま、何ら反応しません。ただ自分の指にテープを巻いてました。仕方なく富士ケ峰関はその場を離れました。なんか、思ったより早くその場を離れてしまったのです。もしかしたら横綱は、とりあえず儀礼的に祝福したのかもしれませんね。
 富士泉関の方も「ありがとう」の一言くらいあってもよかったんじゃないかなあ。横綱の方から仲直りしてきたのに・・・ でも、富士泉関は関わり合いを避けてしまいました。


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