輿石東・民主党幹事長は2012年度の最初の定例記者会見(4月2日)で、今後の国政選挙の公認候補(予定者含む)について、「選挙の実戦部隊である県連が決める」と述べ、公募合格者を選挙区にあてはめる「小沢ハイチ方式」から脱却する姿勢を明らかにしました。これは英国労働党方式で、「4月22日に開く全国幹事長・選挙責任者の会議でも明確に徹底していきたい」と語りました。
質問は衆院愛知6区に新人(地元県議)、衆院高知1区に新人(地元県議)と参院高知選挙区に現職参院議員をそれぞれの県連が決めたことについて、47都道府県における党の姿勢を問われたもの。民主党の金城湯池であるとされる愛知県連でも、衆院議員が一人もいない高知県連でも県連が選び、新人とはいえ地盤がある県議ということで、民主党は結党15年目にして新しい段階に入りました。
次の写真のように、民主党高知県支部連合会(代表・広田一参院議員=元防衛政務官)は先月の大会で、第46回衆院選高知1区の公認候補(予定者)に大石宗・県議、第23回参院選(任期は2019年平成31年7・8月まで)の公認候補(予定者)に武内則男・参院議員を選び決定しました。0増5減の定数是正があると衆院高知は全2区になりますが、区割りの大幅変更に伴う2区の候補擁立や選挙戦略については県連が柔軟に対応する姿勢を発表したようです。
[写真]左から大石宗・民主党高知1区第46回衆院選公認候補(予定者)と、現職で第23回参院選高知選挙区公認候補(予定者)に決まった武内則男参院議員。右端は広田一県連代表=民主党高知県連ホームページから。
私はここ1年くらい、候補者の発掘・育成に以前より関心を持つようになりました。
〈民主党も自民党も「労働党方式」に〉
党本部中央が一括して公募し落下傘で選挙区に落とす「英国保守党方式」と党地方組織が公募・面接し決定する「英国労働党方式」があります。
保守党方式では優秀な公募合格者ほど、当選が楽な選挙区に振り向けるという、英国らしいエリート候補生の養成術があります。労働党方式は小選挙区の地区委員会が「勝てる候補者」をディベートや面接で選びます。ジェフリー・アーチャー議員が書いた「めざせダウニング街10番地」では、ロンドンから来た応募者の夫婦に対して、「当選したら、奥さんは選挙区に住まずにロンドンに帰るのか?」「医者であるあなたがこの町で暮らし続けられるのか?」「子どもが生まれたらどの町の学校に入れるつもりか?」と「勝てる候補者」かどうか容赦なく質問を浴びせる場面があります。日本なら「奥様がお医者様なんて立派な経歴ですね」で終わりでしょう。トニー・ブレアさんも、出身地とはまったく違う地区委員会に乗り込み、3人の応募者の中から選ばれました。地区委員会幹部によると、30歳のブレア青年をみて、「大学生がひやかしに来たのか」と勘違いしたそうですが、オックスフォード卒の弁護士で、ディベートは圧勝だったそうです。他の2人がどういう人か知りませんが、そりゃ抜きん出ていたことでしょう。その選挙区(Sedgefield)は労働党公認で出れば必ず当選するといわれる選挙区になのに、引退するベテランの後継者が不在でした。
[画像]1983年総選挙で初当選したブレア労働党庶民院議員(30歳)=国会議員要覧(The Times Guide to the House of Commons ,1983 General Election 199pp.)から
ご覧のように、ブレアさんは2万1401票で当選しています。これは当選者では多い部類で、1・5万票前後での当選が主流です。だから若い人が出やすいんですね。ちなみに、このとき次点だった候補者が「トビー」と似た名前だからなのでしょうか、ブレアさんは「アンソニー・ブレア」の名前で出ています。
〈小沢ハイチ方式は失敗に〉
衆院が小選挙区になった1996年の第41回総選挙では、自民党が地盤が重なる議員を選挙区と比例単独で交代に公認候補とする「コスタリカ方式」がとられましたが、新進党は「ハイチ方式」がとられました。コスタリカはその国で実際に採用されていたルールですが、ハイチ方式は国とは関係なく、小沢一郎党首が一人で選挙区に候補者をあてはめる「配置方式」という意味です。おそらく福岡政行先生の命名だと記憶しています。1995年の第17回参院選で新進党は1250万票(30・8%)、自民党が1100万票(27・3%)をとりましたが、「小沢ハイチ方式」による第41回衆院選は自民党が議席占有率47・8%、新進党が31・2%、民主党が10・4%になり、「小沢ハイチ方式」は「消費税引き上げ反対、10年間で240兆円の赤字国債を発行し、名目5%成長になったら増税して赤字国債を返す」という奇妙な政策とともに、完全な失敗に終わりました。
輿石さんは「これまでも県連で決めてもらうのが基本で、それを破ったことは一度もない。県連で決まらなかったり、重複した場合は前回のように党が決めることになる」として第45回衆院選や第21回・第22回参院選の「小沢方式」は例外中の例外で、望ましい姿ではないとの考えを示しました。
日本の小選挙区は広く、当選ラインは10万票を超える選挙区もあり、英国流どぶ板は限界があります。私は日本の小選挙区を英国の人口をあてはめた1200は無理でも、今の半分の広さの600選挙区ぐらいにした方がテッパン選挙区が増えて、外交防衛の専門家も逆に増えてくると考えます。比例代表がないと第三政党が二大政党にとって変わるというダイナミズムが失われるので、比例代表連用制とあわせて一院制にしたらいいというアイディアを持っています。
自民党公認候補も、現職も含めて手続き上は各県連の総務会が決めて、党本部に上申しています。与党にいるときは解散後に速やかにやります。たいていの県連の総務会長は県議です。ただ県議の存在について衆院議員や参院議員が影響力を持っているので、県連総務会で衆院議員候補が差し替えられることは稀です。ただ、とくに1人区の参院選挙区では、「勝てない候補」ならば現職でも出馬断念に追い込まれる例が以前からありましたが、第22回参院選では激増しました。有権者による投票では勝利しています。
これから国政をめざす若人には、経歴と知見、新しい土地に永住する勇気だけでなく、地図と統計をみて、自分が勝ち続けられる空白区を探すという「地政学」も求められることになります。小沢グループ政務三役によると、東京9区を含む練馬区の出身・ゆかりのある人は、吉田公一さん、長妻昭さん、津村啓介さん、田村謙治さん、小川敏夫法相、浜四津敏子さんらがいると聞いてびっくり。さすがはドラえもんの舞台になる「日本の原風景」の土地ですね。ただ、できれば吉田公一先生に捲土重来を期していただきたいのが私の希望です。私たちも二大政党の候補者選びに関しては、地元の都議、市議に働きかければ、ある程度の影響力を発揮することができます。正直、前回衆院選では「自民党前職と民主党新人の究極の選択」を迫られた選挙区も、今思えば多かったです。これからは候補者選びの段階から、関わっていくようにしたいものです。
なお、このエントリーのように、次期衆院選の後も、民主党の総支部長(現職議員かどうかにかかわらず)に有益な、選挙、支援に関する情報をこのブログで発信していこうと考えています。私はやや気楽とはいえ、先のことまで分かりません。例えば大きい著作の執筆などに没頭するかもしれません。確約できませんが、これからも総支部長応援ブログという位置づけをしっかり持ちます。その辺で機密性の高い情報は、会員制ブログも活用して継続的、安定的に発信していきたいと考えています。
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