SIMロック禁止で浮上した「電波拾えない」問題とは
石野純也・ケータイジャーナリスト
2022年3月22日
スマートフォンを特定の通信事業者でしか使えないようにする「SIMロック」は、2021年10月に原則禁止になり、端末を変えずに、他の事業者に乗り換えやすくなった。
だが、個々の端末は、対応する電波の周波数が微妙に異なるため、他の事業者に移ると電波がつながりにくいなどの問題が生じる。総務省は3月14日に開いた有識者会議で「対応周波数の問題」を競争促進のための新たな課題として検討に入った。
対応周波数の違いで問題発生
具体例を挙げて見てみよう。例えば、NTTドコモで購入したGalaxy(ギャラクシー)やXperia(エクスペリア)が、KDDIやソフトバンクの回線だと電波が入りづらくなることがある。逆も同様だ。通信事業者は、端末を自社の電波に合うように最適化して販売している。まったくつながらなくなるわけではないものの、一部の場所でエリアが狭くなったり、速度が出づらかったりすることがあるのだ。
ドコモが販売するGalaxy S21 5Gは、ドコモの運用する4Gや5Gの周波数にはおおむね対応しているが、KDDIの800メガヘルツ帯やソフトバンクの900メガヘルツ帯を利用できない。逆も同様で、auのGalaxy S21も、ドコモの800メガヘルツ帯やソフトバンクの900メガヘルツ帯に非対応だ。800メガヘルツ帯や900メガヘルツ帯はカバーする範囲が広い周波数のため、非対応だと通信事業者によっては通信ができるエリアが狭まる。
iPhoneは例外で、使える電波に関して通信事業者別の仕様の違いはない。アップル自身が端末を作り、それを通信事業者が購入しているからだ。これに対し、アンドロイドは一部の機種を除き、通信事業者が決めた仕様に沿った端末をメーカーが作るのが慣例になっている。そのため、対応周波数の問題が起こるのは主にアンドロイドの機種だ。
コストを抑えて作ろうとすると……
SIMロックの原則禁止は、通信事業者を変えても利用中の端末をそのまま使い続けられるようにする目的で導入された。乗り換えが容易になれば、通信事業者間の競争を促進できる。
だが、スマホ側の対応周波数が異なることで、SIMロック禁止の効果が十分出ない可能性がある。実際、総務省の消費者センターには、「乗り換えの自由がなくなる」や「対応周波数が違うのではSIMロックを解除しても意味がない」といった声が寄せられている。
通信事業者側は、メーカーに端末を発注する際に、他社の周波数への対応はメーカーの裁量に任せているそうだ。端末メーカー側も同様の見解を示す。
総務省はどう対応するか
通信事業者の販売するスマホをすべての周波数に対応させる、といった規制を設けることはできるかもしれないが、コストを誰が払うのかという問題がつきまとう。他社に移るつもりがない利用者にとって、全通信事業者の周波数に対応している必要はない。規制を設けることで端末の価格が上がれば、本来払う必要がなかったコストを払うことになりかねない。
端末の価格が上がれば売れ行きが鈍る可能性もあり、メーカー側の反発も予想される。通信事業者に対して電波の割り当てや対応周波数の認証を行うのは総務省だ。同省には、携帯電波の利用の仕組みそのものを改善する対応も求められそうだ。
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