なぜ!?よりによってこんな非常時に!?
廊下のライトがまるで雷のように点滅しだした。真正面のトイレの方角は点滅が
届かないのか、暗闇が広がっている。そこから冷たい霊気が漂い出している。
パキッ!
どこからか乾いた音が鳴り出す。霊の存在を表すラップ現象だろうか。再び鳴る。
ピシッ!
彼女の足を掴んでいる赤い手は、波の中にいるように揺らいだり消えたりしている。
なんとかこの金縛りをとかないと!心霊現象としても危険だし、高田さんの命にも
関係してくる!それに動けない私なんて簡単に殺せるじゃないか!早く動かないと!
ドン!!!
突如、トイレの方からもの凄い音が聞こえた。その音に驚いた拍子で金縛りが
解けた。彼女は全身に力を入れていたので、身体に自由が戻った瞬間に
よろめいてひざまずいた。シャワー室の方からブタの狂った咆哮が聞こえる。
「おおおおおおお!!ざまあああみろやああああああ!!あははははははは!!
死ね!死ね!死ね!おまえなんか死ね!あははははは!!あはははははは!!」
ブタが勝ったのか!?次は私の番だ。そう思った瞬間に彼女は走り出そうとした。
しかし、目の前の暗闇に人が立っている。驚いた彼女は目を凝らしてもう一度
見る。それは人の形をした白い靄だった。何か言いたげに私を見ている気がした。
ドン!!ドーン!!!!ドーーン!!!!ドーーーン!!!!!!
ラップ音が近づいて来る。その音と反応してコマ送りのように白い靄がこちらに
向かって来た。私は動けずに絶叫した。絶叫とラップ音に反応したブタが叫んだ。
「じゃかましいい!!いまから殺したるからそこで待っとれやあああ!!!」
ブタはバスタブから身体を抜こうとするが、高田の身体が邪魔なのと、双方が
流した血で滑ってなかなか外に出れない。奇声を発しながらようやく抜けたが、
血が付いた床のタイルに滑って転んでしまう。今、ブタの頭の中は怒りしかない。
怒りの対象は何でも良かった。欠壊した自我の流れを止めれるのは不可能だ。
(こんなに尽くしたのに!こんなに思っているのに!あいつは無視しやがった!)
……しね……
ブタの耳元で誰かが囁いた。転んだまま四つん這いになっているブタは静止する。
興奮して呼吸が速くなる。ブシュッ!ブシュッ!と、血だらけの潰れた鼻からは
血の塊が噴出する。再び聞こえた。しかし、大量のアドレナリンと怒りの感情が
聞こえる原因を追求させなかった。混乱したブタは白目になりながら暴れ出した。