高田は夜食と掃除道具を買って来て、入り口を片付けようと思っていた。
しかし、用心してないわけではない。下のコンビニにはおばさんはいないし、
帰って来たらドアノブに血がついている。もしや、会社内で狂ったおばさんが
待ち伏せしているのか? そして、中に入れば血の跡ある。それを辿れば
自分を狙うおばさんがいると思い、先手必勝とモップを構えたのだと説明する。
高田の思っていた“気のいいおばさん”はもういない。“ブタ”に変わった以上、
警察に助けを求めるべきだ。とにかく外に出ようと言う事になったが、ビルの
どこかにブタが潜んでいる可能性がある。窓から下を見てみると、明かりが
付いているのは4階だけみたいだった。3階の会社に助けを求める事はこれで
なくなった。ここはひとまずバリケードを作って、高田の携帯電話で警察や
病院に電話をする事にした。最悪の場合、窓を開けて大声で助けを呼べば良い。
机やイスでバリケードを作った後、アドレナリンでわからなかった手の怪我の
痛みが、脈拍と共に帰って来た。血は止まりつつあるが、早く病院に行って
手当をした方が良い。彼女は高田に携帯電話を借りようとした。腰のベルトに
付けてある携帯電話ケースに手を伸ばす高田の様子がおかしい。高田は茶色の
皮のケースの中を見たが、何も入っていなかった。「…ケータイがない……」
「さっきまであったんだ。どこかに置きわすれたのかな?……、あ!
ひょっとしてシャワー室の脱衣所かもしれない……ちょっと見て来るよ」
いくら明かりが付いていて、バリケードがあるっていっても、ここに1人で
いるのはさすがに恐い。私も高田さんと一緒に行く事にした。事務室の奥の
廊下の突き当たりを右に行けばシャワー室で、左に行けばトイレがある。
シャワー室に行く途中、私はふとあの「手」の事を思い出した。。ブタの
おかげですっかり忘れていたが、高田さんにエレベーターでの怪現象を訊こうと
していたんだ。私はできるだけ詳しくエレベーターや階段での出来事を話した。
「……う~ん、信じがたいなあ……。慣れない場所で疲れてたんじゃないの?」
「別に信じてもらわなくても良いです。でも、そんな話、他で聞きませんか?」
「特に聞いた事はないなあ…。僕があまり興味ないからかもしれないけど…」
「2階はほんっとうに使われてないですか?本当に人影を見たんですよ。」
「ありえないね。だいぶ前から2階は使われてないよ。このビルのオーナーが
変な人でね、なぜか2階はどこの会社にも貸さないんだよ…。ひょっとして
その影、オーナーじゃないの? あそこに入れるにはオーナーだけだもの。」
やっと3分の1が終わりました。 ボスヒコ