旅つづり日々つづり2

旅のような日常と、日常のような旅の記録と記憶。

若い時の貧乏は買ってでも・・・

2017年11月06日 16時46分23秒 | 日々のこと
ビックイシューという雑誌を購読している。ご存知の方も多いと思うがホームレスもしくは
ホームレスだった方が路上で販売して、その収益の一部が収入になるというシステムの雑誌だ。
社会問題をはじめ、海外時事、映画評などシリアスな話題からゆるゆるな記事まで幅広い一冊。
薄い雑誌だが、中身は非常に濃い。パッとひろげたページだけ読めるのもいいところ。

若者の貧困について何度もとりあげられているが、そのたびに自分の経験を思い出して
複雑な気持ちになる。セイフティネットがあるようでない日本の社会では、一度でもちょっと
足を踏み外すともうあとは転げ落ちるばかり。どこが底かもわからない暗闇が自分の暮らしの
すぐそばにあったとは、私もその時まで知らなかった。
もう時効だと判断して書いてしまうが、友だちの結婚式よりも時給800円のアルバイトの方が大事で
結婚式を欠席したこと。飲み会に誘われてもお金がないから「歯が痛くて」と嘘をついて行けなかったこと。
本当は会いたくてたまらなかったのに、今のしんどさを聞いてほしかったのに、お金がないことは
その機会すら容赦なく奪っていった。友人の大事な発表会に招待してもらったのに会場までいくお金がなくて
行けなかったこと。職場までの交通費はでなかったから歩いて通っていたこと。でもそれがバレるのは
恥ずかしいからいつもあいまいに言葉を濁して笑っていたこと。

結局お金がないことで失うのは「人との関係」だった。
今でも後悔していることがたくさんある。やり直したいことがたくさんある。
若い時の貧乏は買ってでもしとけ、と言うがそれは真実ではあるけれどあまりにもきつすぎる。
お金がなかったら「助けて」とも言えなくなる。人に会えなくなる。社会に対して扉を閉ざしてしまう。
遠い世界の出来事も、身近な暮らしの出来事も、どれも灰色の輪郭をもたない景色になる。
何にも考えられない。どこにもいけない。うずくまってしまう。

そんな中で強烈に覚えていることもある。
激安スーパーに売っていた46円のチョコパンのおいしさだ。
それを時々買って、昼休みに食べるのが至福の時だった。今食べてもあんなに美味しいとは思わないはず。
本当に美味しくて美味しくて、ほっぺたが落ちそうだった。
あの何年かに戻りたいとは絶対に思わないが、この先あんな時がまた訪れるかもしれない。
だからあのチョコパンの美味しさはずっと覚えておこうと思う。

どっちが豊かなんだろう。46円のチョコパンで幸せになれる人生と、何を食べても満足できずに
不満ばかりの人生と。「夢」があるかないか、なのかな。夢ではお腹いっぱいにならないけれど
やりたいことがあるのなら、なんとかそのトンネルくぐり抜けることができるのかも。

トンネルを抜けたあとしばらくたって、ふっと後ろを振り向いたらポッカリと真っ暗なトンネルが
口をあけてた。そんな感じだった。トンネルの中にいる時はそこがトンネルだとも分からなかった。