水瓶

ファンタジーや日々のこと

連れ去られたポラン(つづき)

2014-07-06 10:19:54 | 彼方の地図(連作)
バーバリオンは櫂でひどく殴られて、海へ突き落とされてしまいました。ブレダンが気づかれないようアローたちの船に乗り込んで、ポランを隠して忍んでいたのです。大きな音をたてたのは、ブレダンの合図でゲイルが船を櫂で叩いて、アローたちの注意をひくためでした。ブレダンの目的は、ポランとアローたちの船との、両方を手に入れることだったのです。溺れそうになってもがくバーバリオンをアローが舟に助け上げようとしている間に、ゲイルはアローたちの船に乗り移ろうとしました。ところがゲイルが乗り込もうとしたとたん、すっと船が離れました。ゲイルが怒鳴るように叫びました。

「おい!まだだ!まだオレは乗ってない!!!」

船はその叫びが聞こえないかのようにどんどん遠ざかって行きます。

「___ちきしょう!ちきしょう!ブレダンの野郎、始めからオレをだますつもりだったな!!」

ようやくのことでバーバリオンを舟に引き上げたアローが言いました。

「今なら追いつくぞ、舟をこぐんだ」

「お前らがいちゃあ舟が重いんだ!!」

ゲイルはアローとバーバリオンを海に放り込んで舟を軽くしてから、ブレダンが乗っ取った船を追うつもりでした。振り上げた櫂をアローの頭に叩きつけたので、アローはふらふらと船底に倒れ込んでしまいました。びしょぬれのバーバリオンが、荒い息のままゲイルの腹を大きな固いこぶしで強く殴りつけました。長い宮殿生活で穏やかな気質になったとはいえ、ケンタウロスの力はとても強く、まともに戦ったらゲイルに勝ち目はありません。ましてバーバリオンは、一族の中でも抜きん出て力の強いケンタウロスでした。ゲイルはよろけながら、腰に下げた大きなナイフを抜くと、バーバリオンの肩から胸へと大きく切りつけました。血を勢いよく吹き出しながらも、なお自分に向かってくるバーバリオンに、ゲイルはすっかり怯えて闇雲に切りかかりました。そしてとうとう血まみれになってくずおれたバーバリオンを、ゲイルはもう一度海に突き落とそうとしました。その隙に、ようやく体を動かせるようになったアローが、這うようにしてじりじりとゲイルの足下に近づき、両足の足首をつかんで、思い切り後ろに引きました。ゲイルはバランスを崩して、真夜中の暗い海に落ちました。ゲイルは泳いで舟のへりにつかまろうとしましたが、みるみる内に手足から力が抜けていきました。いつの間にか舟のまわりは、すっかり灰色の潮に囲まれていたのです。間もなくゲイルの姿も、ゲイルのたてた泡も完全に消えて、何事もなかったように静かな海に戻りました。

ポランは薬を嗅がされて気を失い、ブレダンが操縦する船の後ろで、さっきまで人形が入れられていた麻袋をかぶせられて、袋の口を縛られていました。ティティはポランのフードの中で、小さな体をいっそう縮めて震えていました。


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