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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

細馬宏通著「浅草十二階」を読んで

2011-12-02 09:13:45 | Weblog


照る日曇る日第469回

最近東京の下町に東京タワーよりもぐんと高いジャックの空の樹というけったいな塔が出来るというので世間ではらあらあ騒いでいるようですが、明治23年11月に浅草に凌雲閣別名浅草十二階が完成したときはそんななまやさしいものではなく、明治一の高塔、東都のエッフェル塔にして至高のランドマークということで、江湖の話題を独占したそうです。

当時は世界でも珍しかった本邦初の電動式エスカレーターを装備し、鳴り物入りでオープンした十二階でしたが、ひとの噂も七五日。明治百美人写真の展示や演芸場のにぎやかしで集客を図りますが、やがて閑古鳥が鳴き、大正十二年九月の関東大震災で倒壊してしまいます。

本書はその浅草十二階がどのような経緯で建てられ、当時の文学者たとえば田山花袋、石川啄木、島崎藤村、北原白秋、木下杢太郎、江戸川乱歩などがこの地上一二階、高さ一七二尺(約五二米)の高塔についてどのような感想を抱いたかを論じるとともに、その社会思想的な意義について興味深い考察を行っていますが、著者が紹介している乱歩の言葉のように「どこの魔法使いが建てたのか実に途方もないへんてこりんな代物」であったこの高塔の謎は、追及すればするほど深まっていくかに思えてなりません。


卑小なる己を神に擬しいと高きところめざす者に呪いあれ 蝶人


井上ひさし著「一分ノ一」上巻を読んで

2011-12-01 09:25:09 | Weblog

照る日曇る日第468回


アジア太平洋戦争に敗れた日本は、米英ソ中の四カ国に分断占領されてしまいます。

すなわち、北海道・東北はソ連、東日本主体の中央ニッポンは米国、西日本・九州は英国、四国は中国のようにバラバラにされたために、かつての国家と民族のアイデンティが日毎に崩れ去っていくのでしたが、かのとき早くこの時遅く立ち上がったのが主人公、サブロー・ニザエモーノ・ヴィッチ・エンドー、略称サブーシャでした。

サーシャは、なんと赤の広場の一分の一、すなわち原寸大の地図を作成して北ニッポン政府をあっといわせた伊能忠敬を思わせる地理学者ですが、国境のない統一ニッポンの版図つまり日本独立をめざして孤立無援に似たゲリラ戦を開始します。

主人公のまわりにつどうのは、天才少年や高校野球監督やヤクザや熟女歌手や主将犬などなど、さながら八犬伝に出てくるような一騎当千の少数の同志たち。粉雪舞う山形を脱走した彼らは、四つの占領国に必ず散在しているであろう革命的な愛国者たちを糾合するために、さまざまな困難と身内の犠牲、さらにはCIA、FBI、KGB、MI5等々四大国の諜報機関や暴力装置の妨害と弾圧を乗りこえて、占領国が覇権を競いつつひしめく東京は六本木交差点にまで進出してまいります。

さあ、いよいよ血湧き肉踊る前代未聞の一大英雄冒険譚のはじまり、はじまりィ……


西陽差すしやうぐあい施設の六畳間息子を託し黙して帰りぬ 蝶人