照る日曇る日 第1171回&&闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1898
○ジュール・ベルヌ著・中村三郎訳「緑の光線」を読んで
スコットランドを舞台にしたベルヌお得意の海洋ロマン小説。
ある自然条件が整うと夕方西の水平線に海没する太陽がその刹那に緑色の光芒を放つという「モーニング・ポスト紙」の記事を読んだヒロイン、ミスキャンベルは、2人のおじと共にグラスゴーを発ち、船をチャーターして、それが見えそうな海辺を訪れるが、ある日大渦巻に飲み込まれそうな小舟の若者を救う。
やがてこの若者も加わって、スタファ島を訪れた一行は。大嵐に襲われ、メンデルスゾーンの序曲でも有名な「フィンガルの洞窟」でヒロインは若者に救われ、恩返しをされるのであるが、これが彼らの運命の赤い糸となるのである。
いよいよクライマックスの時がやってきて、2人のおじは、初めて目にした緑の光線に狂喜するのだが、大事な大事なその時に、恋する2人は、お互いの瞳の中に輝く「別の色の愛の光線」を見たのである。
「ヘレーナは若者の目が投げかける黒い光線を見た。そしてオリヴァーは、若い娘の目からもれる青い光線を見た!」
○エリック・ロメール監督の「緑の光線」をみて
名匠エリック・ロメール監督の「緑の光線」では、ベルヌの原作が「それを見た者は幸福になる」という形で前提となっている。
そして2人の恋人が、シェルブールの海岸で、真赤に燃えながら海に沈みゆく太陽を息詰まる思いで見つめるのだが、映画ではベルヌの原作とはうって変って、2人とも「緑の光線」を眺め、愛の成就をお互いに確信するのである。
蛇足ながら、かつて私も、夕闇迫るLAのベニスの海岸で、この緑の光線を見たことがある。ような気がする。
LAのベニスの海に輝ける緑の光線幻なりしか 蝶人