照る日曇る日 第1027回
「呼びかける空」、「けやき少年」、「褒めあう位牌」の全3部からなる407首が収められている、作者のどちらかといえば初期に属する歌集です。
「呼びかける空」で、作者は空になりすまします。
口づけしつつはるかなるところ旅しておりわたしといっしょに死ぬ大空と
空とわれ結婚をして久しきなりせっくすゆせっくすまでの青空
はるかなるところより吾はおもわれて遥かなるところへ銀鈴を振る
「けやき少年」では、作者のそれまでの人生が振り返られますが、恋人との夢中の性愛がまぶしいくらい。青春真っ只中での歌唱です。
さいしょに好きと言ったのはぼくの方だから何をしたいかわかっている手
指先にきんちょうしきった耳がありさぐるなり若草のくらやみ
たやすい痛みですよと落ちてくる木の葉きょうみたびめのくながいのあと
しかし「褒めあう位牌」では作者は死のすぐそばに佇んでいるようです。
木の陰の上臈の墓にやわからく夕日さしおりは蚊が墓のくびすじ
ただの直方体ならず父の墓てんそんたかくておちつかぬなり
ぼくは墓のなかに入りて羽たたきて墓だ墓だと軽くなりたり
2010年から難病のALSと戦っているという作者の健在と健闘を心から願っています。
フマ君に「黙れブス!」と怒鳴られし革マル女が唇を噛む 蝶人