照る日曇る日 第2060回
「子どものための」というので童話か絵本かと思って読みだしたら、本当に障害のあるこどものことを思って、噛んで含めるように粛々と書き進められた全国民必読の啓蒙書だった。
精神医学の本なんて冷徹な精神を持った偉い学者先生方が、階段の上の2階から超専門的な教えを垂れる難解で退屈な哲学書ばかりかと思っていたら、驚いたことにこれが障害の現場で敢闘する関係者に暖かく寄り添う、花も実もある発達障害百科全書だったのです。
詳しくは紹介できないが、ここには、「こころとは何か?」「精神医学とは何ぞや」のそもそも論から始まって、「精神発達の道筋」、自閉症スペクトラムを始めとする様々な「発達障害の実態と本質」、さらにはそれらへの具体的なケアのノウハウに至るまでが、著者の揺るぎない知性と個性の血と汗と涙のかけがえのない所産として生き生きと書き刻まれている。
あとがきには、「素手で読める本にしたかった」、「原理と実践をつなげたかった」と書かれているが、それらの難題を、ものの見事に達成している奇跡のバイブルだと思うのである。
17年真暗闇にいた蝉たちがヨーイドンで地上に出てくる 蝶人