片山修のずだぶくろ Ⅰ

経済ジャーナリスト 片山修のオフィシャルブログ。2009年5月~2014年6月

自動車産業は、円安に一喜一憂せず

2013-02-15 19:08:58 | トヨタ

円安・株高傾向が続き、当面の景気を下支えしていますが、
ただちに、日本経済が本格回復するわけではありません。
アベノミクスでバブル再来か、とすらいわれますが、
とんでもない。まだまだ……。
だいいち、産業界はいたって冷静です。

「ここ数十年において、円は、4・5倍に円高傾向になっていました。
リーマンショック以降、とくにここ1、2年、70円台という超円高が
続きました。それが現在、是正されている局面であるという認識を
ぜひ、共有していただきたいと思います」
トヨタ自動車社長の豊田章男さんは、
本日の日本自動車工業会の定例記者会見で、そう発言しました。
自動車メーカーに限らず、日本の製造業は、ここ数年、
超円高に苦しめられてきました。
「この超円高の状態が続けば、日本の製造業は崩壊する」
と、豊田さんは、危機感を表明していました。
円安傾向が続き、復活のきっかけをつかんだとはいえ、
安心できるのはまだまだ先と見ているようです。
当然ですね。

「いま、70円台に比べて、90円台の円安になって、
即、海外生産がどうだとかいうことではなくて、
やはり、この20年間にどういうことが起こったか、
各社の動きをぜひとも注目いただきたい」
豊田さんは、いうんですね。
実際、日本の自動車メーカーは、超円高に対処するため、
製造拠点を海外に移転させるなどして、生き残りを図ってきました。
日産は2010年、タイ産「マーチ」を逆輸入しましたが、
2012年秋にCOOの志賀俊之さんにインタビューしたとき、
「本当はやりたくなかった」といっていたのが、印象的でした。
タイでつくった車を日本にもってくることにより、
超円高、電力供給不足、貿易自由化のおくれ、労働規制、
高い法人実効税率、CO2削減の六重苦のすべてから解放されます。
しかし、その反面、生産拠点を海外に移すことによって、
空洞化が加速し、日本の成長力が低下する恐れがある。
「タイから『マーチ』を輸入することは、苦渋の選択でした」
そう志賀さんはいいましたよ。

実際、自動車産業は、超円高を受けて大きな傷を負いました。
指摘するまでもなく、アセンブリメーカーは多数の部品メーカーを抱え、
他の産業にはない裾野の広さがあります。雇用も抱えています。
そう考えれば、円安傾向が続き、復活のきっかけをつかんだとはいえ、
自動車産業の本格復活には、まだまだ時間を要すると考えて当然でしょう。
円高が是正され、企業収益も好転すれば、株価は上昇します。
ただし、円相場や株価の水準だけを先走って語ることには、
産業界として違和感があると思いますし、
だいいち、そんなに単純なものではないでしょう。
「製造業は、金融や株とは違います」と、豊田さんはいいます。


「『失われた20年』において、日本が失った株式の総資産額は、
約300兆円にのぼるといわれています。
今回、株価が3割上昇しているという意味においては、
80兆円ほど回復してきたということだと思います。
その意味では、まだまだ3分の1にも満たない回復状況である、
というのが日本経済の現状を正しくあらわしていると思います」
と、豊田さんはいいました。
つまり、産業界は、ここからが正念場といえます。
持続的な成長戦略をもって、成長力を強化する施策をしっかりと
実行していくときです。
為替や株価に目が向きがちないまこそ、
各社の動きをしっかりと見ていかなければなりません。