秘伝

ぐつぐつとは煮えない。
じわじわと蒸気をだしはじめ
もわもわと変貌をとげる。
渦を巻き、泡をだし、まったく新しい物質。
鉛から金をかえるような
目が覚めるような驚きではなく
たしかに当たり前に出来上がる
秘伝の甘口しょうゆタレ。

～柿餅の醤油をつくる～

生地の眠り

カラカラと音が鳴る。
けたたましい行進曲が密室で鳴り響く。
暗がりに緑色の蛍光灯。
明日へゆけ。ここにゆけ。
吸いこまれるように流されて
日の出を見ることない冷暗室へいく。
おのおのが不安をかかえ耳を塞ぎ
現実から遠のくように眠っていく。
体から新しい芽吹きを
生命の神秘を否定するために。
目覚めたときには暖かい
希望の世界で歌えるように。

～乾燥した生地の保存より～

おもち

もわもわと白い蒸気につつまれた。
真白だ。何も見えない。
時の歯車が動きだし
あぁとうとう御迎えでごんす。
素敵な国にいけるのかしらん？
裁きをうけなきゃならんのがや？
まぁるい道、回転する羅針盤。
くるくるくるるメリーゴーランド。
夢心地で炊きあがり練りあがる、
極上のおもち。