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シャンテ サラのたわ言・戯れ言・ウンチクつれづれ記

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司馬遼の幻術師ものの出来が良い2作は?

2022年09月11日 | アート/書籍/食事
6作品を含む新潮文庫『果心居士の幻術』。 右は YouTube『小泉八雲の怪談より「果心居士」(田部隆次 訳)』(2015/08/05 https://www.youtube.com/watch?v=MpYllR4ulYo)。
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多くの歴史時代小説を書いた司馬遼太郎は、幻術を扱った2作の『果心居士 (かしんこじ) の幻術』『飛び加藤』を残しています。 もちろん 古書のタネ本があって、そこからヒントを得て自由に想像を膨らませて加筆・翻案したものでしょう。

文庫本『果心居士の幻術』には6作の中編 __ 上記2作の他『壬生 (みぶ) 狂言の夜』『八咫烏 (やたがらす)』『朱盗 (しゅとう)』『牛黄加持 (ごおうかじ)』が収録されています。 何十年か前にも この文庫を読んだのですが、後半3作は記憶から抜け落ちていました。

上記2作と『壬生狂言の夜』は面白いですが、他は出来が良いとはいえないようです。 面白いのはスッと頭に入り記憶に残りますが、そうでないのは記憶に残らないものです。
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文庫裏表解説から __ 超人的な力の持ち主であるがゆえに、戦国時代の武将たちの運命を左右しながらも、やがては恐れられ殺されていった忍者たちの不可思議な生き様を描いた『果心居士の幻術』『飛び加藤』。 そのほか、日本建国の神話に題材を取った『八咫烏』から、幕末・新撰組の裏面史を扱った『壬生狂言の夜』まで、歴史の中に埋もれた興味深い人物・事件の数々を掘り起こした作品集。
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また YouTube には20分弱の小泉八雲作品の、同じ題材作品の朗読 (冒頭右) がありますが、あまり興味を引かれませんでした。
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ネットで「果心居士」「飛び加藤」を調べると、色々な翻案ものが出てきます。 私が1960年台に少年漫画誌で読んだニンジャ漫画『伊賀の影丸』にも幻術を使う忍者を描いたものがあります (下記右)。 その後 司馬遼『飛び加藤』を読んだら、同じ内容でしたので、漫画家の横山光輝がこれを参考にして漫画に取り入れたのだろうと推理しました。

司馬遼『飛び加藤』は1961 (昭和36) 年6月「サンデー毎日」が初出、『伊賀の影丸』は1961~66年の連載ですから時期的には合っています。 ちなみに 司馬遼『果心居士の幻術』は1961 (昭和36) 年3月「オール讀物」が初出です。

果心居士は、戦国時代の武将たちに幻術を使ったエピソードが色々と残されています __ 松永久秀 (1508~77)、筒井順慶 (1549~84)、織田信長 (1534~82)、明智光秀 (1516~82)、豊臣秀吉 (1547~98)、徳川家康 (1543~1616) など。

司馬遼『果心居士の幻術』では、松永久秀 (弾正)・筒井順慶・織田信長・豊臣秀吉が登場しますが、殆どは松永・筒井との関わり合いです。 筒井が信長に語りかける場面で __
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__ 紀州熊野に唐船が漂着し、乗っていた婆羅門 (ばらもん) 僧が上陸して興福寺へきた。 名を吠檀多 (ベーダンタ) という。 その天竺 (てんじく 印度) 人は仏法僧となり、女犯 (にょほん) の罪を犯し隠し子を残した。 この子、長じて天竺楽 (がく) に興味を持ち、それを学ぶうち、ある日 にわかに変心した。 古代楽を聴くうち、自分の中の天竺人の血が怪しく蘇ってきたらしく、印度の古代宗教の世界に果心は引き入れられたのであろう …
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何やら怪しい物語を感じさせる司馬遼の書き振りが見事です。 松永との関わりは、果心の方から近づいてきたと設定しています。
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__ ある夜半、弾正が京の屋敷で茶道の老人に茶をたてさせ、黙考していると、茶杓子 (ちゃびしゃく) を持つ老人が不意に声高に笑った。 見上げると 老人の顔が真っ黒な皮膚の男に変わっていた。
「おのれは何者か」
「果心と申す居士である。 世に悪名の高い弾正少弼 (だんじょうしょうひつ) どのとはどのような骨柄 (こつがら) の男か」…
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という事から松永と関わるのですが、次のエピソードは含まれていません。
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ウィキペディアから __・松永久秀とは特に親交があり、久秀が「幾度も戦場の修羅場をかいくぐってきた自分に恐ろしい思いをさせることができるか」と挑んだところ、数年前に死んだ久秀の妻の幻影を出現させ、震え上がらせた (⁂1)。

・果心居士は地獄を描いた一幅のみごとな絵を持っていて、それを前に群衆に説法し、喜捨を募って生活していた (⁂2)。 織田信長がその絵を所望したが断られたので、信長の家臣が淋しい場所で居士を斬り殺し、絵を奪った。 信長がその絵を広げると、絵はただの白紙になっていた。

・明智光秀は果心居士の評判を聞き、屋敷に呼んで酒を振舞った。 酔った彼はお礼に術を見せましょうといい、座敷の湖水を描いた屏風の中の、遠景の小舟を手招きした。 すると屏風から水があふれ出し、座敷は水浸しになった。 果心居士が屏風から座敷に漕ぎ出てきた舟に乗り込むと、舟はふたたび絵の中に戻り、小さくなって姿を消した (⁂3)。
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後世の作家たちが伝説の果心居士に興味を持ち、武将たちとの幻術エピソードを作り出したものと推理します。 その方が話しが面白いですからね。

筒井順慶は、一度は明智側に従って洞ヶ峠まで兵を進めながらも、最終的には光秀・秀吉どちらに付くか日和見をしたとの伝説があったため、日和見することを洞ヶ峠あるいは “洞ヶ峠を決め込む” と表現することがありますが、史実ではないようです。
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左は89年の「マヤ」誌に掲載された漫画『果心居士』、⁂1~3が含まれている。 右は漫画『伊賀の影丸』から。
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司馬遼『飛び加藤』では 上杉謙信、武田信玄が登場しますが、殆どの部分は謙信との関わりで、信玄とはほんの少しのエピソードしか書いていません

最初 謙信の家来に「牛を呑む」幻術を見せ、謙信の家来の屋敷から薙刀 (なぎなた) を盗ませるなどの試験を試みられ、それを見た謙信が逆にその異能を恐れ、殺す事にした __
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__ 謙信が「酒を飲ませてやれ」というと、小姓が酒器を飛び加藤の前に置いた。 毒酒である。 小姓がが注ごうとすると、「待った」と制し、「ご趣向は相わかり申した。 ひとつ、飛び加藤の最後の芸をお目にかけよう」

小姓から錫子 (しゃくし) を取り上げ、杯に注ぎ始めた。 同座している者が総立ちになった。 錫子の口からこぼれ出たものは酒ではなく、20個ばかりの小さな人形だったのだ。 人形は杯の上に落ちては板敷の上に飛び降り、やがて一列になって踊り始めた。 あまりの奇異に一同が見とれているうち、「あっ」(と気づくと) 飛び加藤の姿はどこにもなかったのである。 板敷の上には酒がこぼれているに過ぎなかった。
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この人形エピソードも『伊賀の影丸』に、そのまんま出てきます。 横山光輝が司馬本を参考に描いたのは明白です。 ネットでは絵を探せませんでした。
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ウィキペディアから __ 江戸時代の軍記物や仮名草子、浮世草子などに「とび加藤」「鳶加藤」「飛加藤」などの名前で登場する、超人的な能力を持つ戦国時代の幻術使い あるいは忍者の、読本における名称である。 読本『絵本甲越軍記』で「加藤段蔵」という名前が使われた。
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このような語り口で 時代物を面白く綴るのは、司馬遼太郎がうまいですね。 上記2作品は特に良く出来ていて、何度読み返しても面白いです。

もっと荒唐無稽な『真田十勇士』なども語って欲しかったところですが、既に立川文庫 (たつかわぶんこ) で流布していたため、手を出さなかったのかも知れません。

今日はここまでです。

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