弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

自転車―TSマーク付帯保険

2015-08-17 06:06:50 | 自転車
先日、長男の自転車が小学生には小さくなったことから、新しい自転車に買い替えました。


小さくなった自転車は引き続き次男の愛車に。(次男君、いつもお下がりでごめんなさい。)



長男が新しい自転車を買った際に、自転車屋さんに勧められて「TSマーク」というシールを貼ってもらいました。

「TS」とは「Traffic(交通)Safety(安全)」の頭文字で、「TSマーク」は自転車安全整備店に勤務する自転車安全整備士が点検・整備した安全な普通自転車に貼ることができるシールであって、傷害保険と賠償責任保険が付帯しているものです。

付帯する保険の内容にしたがって青色シールと赤色シールの二種類がありますが、今回貼付してもらったのは赤色シールの方です。



保険料(点検・整備料として支払う)は一年間有効で2000円と低廉なのに対し賠償責任保険(※)の上限額は5000万円と聞き、近時、子どもが加害者となった自転車事故で、その親に多額の賠償責任が認められた裁判例もあったことからも、安心のため加入しておいた方がよいと思いました。

※自転車の搭乗者が第三者に死亡又は重度後遺障害を負わせたことにより法律上の損害賠償責任を負った場合に支払われるもの。


ところが、その後、いろいろと考えてみますと、このTSマーク付帯保険の補償内容、ちょっと不十分ではないかと思えてきました。


まず、賠償責任保険の上限額が5000万円(赤色マークの場合。青色マークの上限額は1000万円。)とされている点についてです。

近時、話題となった裁判例(神戸地裁 平成25年7月4日判決)は、小学校5年生の児童が自転車に乗って帰宅途上、歩行者の女性に衝突し、女性が脳挫傷等の傷害を負って意識が戻らない状態となってしまったという事案でした。
裁判所は児童の母親に監督義務者として合計約9500万円もの賠償責任を認めています。

他にも自転車事故で5000万円を超える賠償責任を認めた裁判例があります。

○交差点の横断歩道を歩行中の被害者に自転車が衝突し被害者が死亡した事故で合計6779万円の賠償責任が認められた事案(東京地裁 平成15年9月30日判決)
○自転車が信号を無視して交差点に進入し、横断歩道を渡っていた被害者に衝突、転倒させ、被害者は頭蓋内損傷の傷害を負って死亡したという事故で5438万円の賠償責任が認められた事案(東京地裁 平成19年4月11日判決)
○自転車同士の衝突により、被害者が言語機能の喪失等の後遺障害を負った事故で加害者に9266万円の賠償責任が認められた事案(東京地裁 平成20年6月5日判決)。

こういった裁判例をみますと、赤色TSマーク付帯保険の賠償責任保険の上限額5000万円という金額は、必ずしも十分なものではないように思われます。
(追記:その後、平成29年10月1日以降に普通自転車の点検整備を行って赤色TSマークを貼付したものは賠償責任保険の上限額が1億円へと補償内容が変更されています。
公益社団法人日本交通管理技術協会のHPより)

次に、赤色TSマーク付帯保険では、被害者が死亡もしくは、重度の後遺障害(等級1級~7級)を生じた場合に限って,賠償責任補償金が支払われるとされている点についてです。
説明のパンフレット等をよく読んでみないと分かりにくい箇所です。

この点、自転車事故の場合、被害者に後遺症が生じないか後遺症が生じたとしてむち打ち程度にとどまるといったケースがほとんどであって、重度の後遺症が生じるようなケースは稀と考えられます。

にもかかわらず、TSマーク付帯保険では、被害者に重度の後遺症が生じないような比較的軽度の事故の場合、賠償責任補償の対象外となります。

交通事故の被害者が打撲傷や骨折等で入通院した場合、仮に後遺障害が残らなかったとしてもそれなりの慰謝料や治療費を支払う義務があります。
(日弁連交通事故相談センターの赤本基準によると、1カ月間の通院の場合でも入通院慰謝料の金額は28万円です)。

また、神経障害等の比較的軽い後遺障害が残ってしまったような場合、仮に、等級が最も低い14級と認定されたとしても、後遺症が残ったことに対する慰謝料として110万円、他に、入通院慰謝料や治療費、逸失利益なども支払う必要があり、相当な金額の賠償責任を負うことになります。

このような自転車事故として普通に想定されるケースで、被害者の方への賠償補償がないというのは、やはり心もとないと感じざるをえません。

TSマーク付帯保険はあくまで自転車保険の入口的な存在なのかなという気がしています。


このたびネットで自転車保険について調べてみましたが、自転車保険はコンビニ会社、携帯電話会社など色々な業種の会社が参入してきている状況にあります。

そして、各社の保険の内容を分かりやすく整理したサイトなども存在します。

それらを見ると、保険料は年額5000円程度で、賠償責任補償の上限額が1億円(被害者の後遺障害の程度による制限はなし)、家族の誰かが加入すれば家族全員の賠償を補償、さらに示談交渉サービス付きなんていう商品も見受けられます。

うーん、せっかく自転車保険に加入するのなら、やっぱりこの位の補償内容は欲しいと思ってしまいます。

ちなみに、自転車の事故に関しては、生命保険や火災保険等、他種類の保険における特約で補償の対象とすることが出来る場合もありますので、一度、約款等を確認されてみてもよいかもしれません。


どんなに素晴らしい保険に加入していたとしても、大きな交通事故を引き起こしてしまえば、被害者の方の人生、そして自らの人生を狂わせてしまうことに違いはありません。

上記で触れた裁判例をみても、甚大な被害を生じるような自転車事故は、運転者が下り坂を高速で走行していたり、交差点の信号を無視したりと、とても危険な運転をしていたことが原因となっています。

自転車も無謀な運転をすると自動車と変わらない凶器になってしまう。

保険への加入は二の次、先ずは安全運転を心掛けることが第一、それを忘れてはならないと思います。

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