弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

子どものケンカ1 -親の責任とは

2015-09-07 05:25:54 | 子どものケンカ
どこの家庭でもそうだとは思いますが、うちでも兄弟ケンカはしょっちゅうです。

兄弟ケンカをしても3分後にはケロッとして一緒に遊んでいますし、兄弟ケンカをすることで社会性が身に付くといった面もあるでしょうから、親も普通は「やめなさい!」と注意するだけです。

ところが、どちらかが相手の顔に向かって手を突き出したり、手に何か物を持ったままケンカをしていたりすると、反射的に、激しく怒鳴り飛ばしてしまいます。

怪我をするのではないかとの恐怖心が湧くからでしょう。

家の中でも家の外でも、自分の子どもがケンカで怪我をしたり他の子どもに怪我させたりすることがないようにというのは、すべての親の願いではないでしょうか。


では、家の外で、子どもが他の子どもとケンカをして怪我を負わせてしまったような場合(もしくは、怪我を負わされた場合)、誰が損害賠償の責任を負うことになるのでしょうか?

この点、未成年者が他人に損害を加えた場合、その未成年者が自分の行為の責任を弁識(理解)するに足りる知能を備えていなければ責任能力がなく、未成年者自身はその行為につき賠償責任を負わないとされています(民法712条)。

自己の行為の責任を理解する能力を備えるのは何時かという点につき画一的な基準はありませんが、大体、小学校を卒業する12才程度と考えられることが多いようです。

したがって、例えば小学生が暴力行為などの不法行為によって友達等を傷つけても、その小学生自身は通常、民事上の賠償責任を負わないということになります。

しかし、これでは被害者が踏んだり蹴ったりとなってしまうことから、法は、責任能力のない子どもが行った不法行為について、子の監督義務者である親が賠償責任を負うものとしています(民法714条1項本文)。

そして、この親の賠償責任は、親が子の監督義務を怠らなかった場合、あるいは、監督義務を怠らなくても損害が生じたといえる場合に限って免れることができるとされていますが(民法714条1項但書)、親が監督義務を怠らなかったといえるかどうかについて以下のような裁判例があります。


まず、子どものケンカに関する最近の裁判例ですが、小学校の児童(小学校6年生)が授業中に鉛筆を手に持って振ったところ、隣の席の子の目に刺さったという事故につき、児童の両親に監督責任に基づく1770万の賠償責任を認めた裁判例があります(千葉地裁平成24年11月16日判決)。

裁判所は、被害者の子が自分の鉛筆を返してほしいと言っていたのに対し、児童が鉛筆の尖った芯を上に向けて手に持ち、被害者の子の顔の付近で手を振った行為につき、危険なものであって不法行為に該当すると認定していますが、児童の責任能力を否定し、児童本人の賠償責任は認めませんでした。

その上で、児童の両親の監督責任について、
『本件事故は、鉛筆という小学生が常日頃使用する物の取扱いに関し、相手に負傷させることが当然予想されるような危険な行為を行ったがゆえに生じたのであり、しかも、(隣の子から鉛筆を)何度も返してほしいと言われたにもかかわらず、これを返さなかったことに起因して生じたものであることからすれば、本件事故が全くの偶発的事故であるとは評価することができず、児童の個人的な注意能力の不備と性格上の問題があいまって派生したものであると評価できる。』
『児童の両親が、児童に対し、日頃家庭において物の取扱い方や人とのコミュニケーションについて十分に注意するよう指導監督を尽くしたとは認められない。』
とし、児童の両親が監督義務を怠っていなかったとはいえないと判断しています。


次に、ケンカの事例ではありませんが、小学5年生の児童が自転車を走行中、歩行者と衝突し、歩行者が意識不明の重体となってしまった事故で、児童の母親に合計約9500万円の賠償責任が認められた裁判例(神戸地裁平成25年7月4日判決)がありますが、この事件でも、母親が子に対する監督義務を怠っていなかったかどうかが争点となっていました。

裁判所は、児童が事故時、前方注視義務を果たしていなかったこと、相当程度の勾配のある道路を速い速度で走行していたこと、ヘルメットを着用していなかったこと等の事情を重視し、母親が児童に対して自転車の運転に関する十分な指導や注意をしていたとはいえず監督義務を果たしていなかったことは明らかであると判断しています。


これらの裁判例からは、親の子に対する監督義務とは、日常どのような指導や注意を行っていたかという一般的な監督として考えられていること、そして、問題となる子の行為(不法行為)が客観的にみて、第三者の生命・身体等に損害を与えてしまう危険性が高いような場合には、子がそのような行為を行っていること自体から、親が日常における子の監督義務を果たしていたとはいえないと判断されているように感じられます。

親の責任は重いです。

「ケンカをしたら、とにかく絶対に負けるな!」
などと、子どもが小さい頃からハッパをかけている親御さんもいるかもしれませんが、ケンカで生じる結果について自分が全責任を負う覚悟があるのでなければ、このようなことは軽々しく口には出来ないと思います。


なお、ご記憶の方も多いと思いますが、最近、児童が小学校の校庭に設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたところ、ボールが校外に転がって重大な交通事故につながってしまったという事故で、児童の親が監督義務を怠っていなかったとして、親の賠償責任が否定された最高裁の判決(最高裁平成27年4月9日判決)が話題になりました。

この判決は、親の監督義務が否定された珍しい判決として、テレビ等でも大きく取り上げられました。

この判決については、あらためて触れてみたいと思っていますが、最高裁は、
『責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが、本件ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。』
『通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。』
と判断しており、当該児童の行為(サッカーの練習)には通常、危険性が認められないといった具体的な事情が重視された裁判例であって、子どもが暴力行為のような客観的にみて危険と考えられる行為によって第三者に損害を与えた場合にも親の賠償責任を限定すべきとしたものではないように思われます。


子どものケンカに関しては、他にも、子どもが中学生以上で責任能力が認められる場合には親は賠償責任を負わないのか、学校の責任は認められないのかといった点も問題になりますが、これらの点についてはまたの機会に考えてみたいと思います。

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