弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

胎児と相続1―おなかの中の赤ちゃんは相続人?

2015-04-27 05:05:42 | 相続
1 妊娠中の赤ちゃん(胎児)も相続人の一人

妊娠中の赤ちゃん(胎児)は相続人になりうるのか?

この問題は、基本的に妻が妊娠中に夫が亡くなる場合の問題であって、パパたちにとっては想像すらしたくないことでしょうし、ママたちも(普通は)考えたくないことだと思いますが、子どもに関係した相続を考えるにあたっては最初に知っておくべき事柄ともいえます。


この点、法律は「私権の享有は、出生に始まる。」と規定しており(民法第3条第1項)、原則として、人は生まれて初めて権利義務の主体となります。

しかしながら、相続に関しては、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。」との規定が設けられており(民法第886条第1項)、妊娠中の赤ちゃん(胎児)も相続人となることが明確に定められています。

したがって、例えば、妻が初めての子を妊娠中に夫が亡くなった場合、妻と生まれてきた子どもの二人が相続人となります(相続割合は、妻1/2:子ども1/2)。

このケースで、もしも妊娠中の赤ちゃん(胎児)には相続権がないとすると、妻と夫の親(もしくは祖父母)が相続人となり(相続割合は、妻2/3:夫の親〈もしくは祖父母〉1/3)、夫の両親、祖父母がいない場合には妻と夫の兄弟姉妹が相続人となる(相続割合は、妻3/4:夫の兄弟姉妹1/4)ことになることを考えると、法律が妊娠中の赤ちゃん(胎児)の権利を大切に保護していることが分かります。

2 遺産分割の方法

相続が生じると、相続財産は法定相続人の共有財産となりますが(民法898条)、各相続人の権利関係を明確にするためには相続人全員で遺産分割を行う必要があります。

ところが、相続に関して胎児が既に生まれているとみなす先程の規定は、死産であった場合には適用されないとされており(民法第886条第2項)、死産の場合、胎児は相続人でなかったことになります。

このように胎児が相続人となるかどうかは生まれてくるまで確定的でないことから、相続人に胎児がいる場合、遺産分割は胎児が生まれてきた後に行うべきであると一般的に考えられています。

そして、胎児が生まれてきた後の遺産分割の方法についてですが、普通、未成年者の子どもの法律行為は親が法定代理人となって行うことが出来ますが、親と子が同一の相続に関して共に相続人となる場合には、親と子とは利益が相反するものとされ、親は子の法定代理人となり得ないと考えられています。

したがって、母親が生まれてきた子どもと遺産分割をする場合、家庭裁判所に申立を行って、相続に利害関係のない人を子どもの特別代理人に選任してもらうことが必要となります。

母親が生まれてきた赤ちゃんのことを差し置いて自分の利益を図るなんて考えられないことのようにも思うのですが、こういったあたり、法律の世界は実にドライです。。





高所恐怖症

2015-04-18 06:09:48 | 子育て


うちの長男は高いところがあまり得意ではないみたいです。

小学生になってようやく公園のジャングルジムの上の方にも登れるようになり、小さな子どもたちに交じってとても嬉しそう。

そんな姿を見て、妻はジーッと私の顔を見るのです。

はいはい。
どうせ私は高いところが苦手で、隙間のある階段がダメ、横浜マリンタワーのガラス張りの床の上も歩けませんよ。

一方、うちの次男は高いところが平気みたいで、見ているこちらがハラハラするくらい、公園の遊具などもスルスルと登っていきます。

そんな姿を見て、妻は「私の小さい頃みたい。」と得意げな顔。

なんだかちょっと腹が立ってきます。

そんな時、私は、ラッシュ・ドージアJrという人の書いた『恐怖―心の闇に棲む幽霊』という本の中で、「人間は樹上生活者である霊長類の子孫であるが、霊長類は高いところをまったく恐れない。しかし、人間の祖先が二足歩行をはじめたときに事情はがらりと変わり、断崖のある大地溝帯などでは、高さに敏感であることが生存のため価値をもつようになった。」といったことが書かれていたのを思い出すようにしています。

この人の見解にしたがうならば、高いところを恐れる人は、生物学的にみて能力が進化しているということになるではないですか!

と、これだけでは葡萄を取り損ねたキツネになったような気がするだけです。

ところが、最近、テレビなど見ていても、高層マンションのベランダから子どもが転落してしまう痛ましいニュースを目にすることが多い・・と思っていたのですが、子どもの転落事故が多くなっている要因として、子どもが小さい頃からマンション等の高いところに住むことで高いところが怖くなくなってしまう、いわゆる『高所平気症』というものがあるのではないかといった意見を耳にしました。

ちょっと恐い話です。

それを聞いて、あらためて、高いところを怖がることは、それほど恥ずかしいこととすべきではないのではと思いました。(程度にもよりますが・・)

子どもの勇敢な行為を褒めてあげることも大切だけど、高いところが危険であることをしっかりと教えることも大切だと思いながら、子どもたちと向き合っています。




騒音問題(子どもの足音)2 -受忍限度とは?

2015-04-13 00:07:18 | ご近所
前回も書きましたが、下階住民との間での騒音に関するトラブルについては、下階住民の受忍限度を超えているかという点がポイントとなります。

この点、裁判などでは一般的に、受忍限度について「加害行為の有用性、妨害予防の簡便性、被害の程度および存続期間、その他諸般の事情を考慮し、平均的な人間の感覚や感受性を基準として判断する」とされています。

なんだか分かりにくいですが、騒音が下階住民の受忍限度を超えているとされた裁判例(東京地裁H24年3月15日判決、東京地裁H19年10月3日判決など)、超えていないとされた裁判例(東京地裁H15年7月30日判決、東京地裁H6年5月9日判決、東京地裁H3年11月12日判決など)をみると、以下の二点が重要なポイントと考えらえます。

1 下階に生じる騒音の音量と態様
東京都の条例では、住宅地(第一種区域)における騒音の規制基準は時間帯に応じて40デシベル~45デシベルと規定されています。
ところが、裁判例をみると、子どもが走り回ったり飛び跳ねたりすることで下階に及ぶ音量は、床の遮音性能が劣る場合には最大で65デシベルにも達し、床の遮音性能が相当程度に優れている場合でも50デシベルを超えることがあり、あらためて子どもの足音は下階に響くものであることが伺えます。
ただ、裁判例をみても、子どもが生活する以上、その足音が下階に及ぶことはある程度は仕方がないと考えられており、受忍限度との関係では、単に規制基準を超える音量が発生しているかどうかというだけではなく、

・騒音が長時間にわたって継続して生じているか、それとも、短時間ないし瞬間的に発生しているか。
・人の就寝が想定される夜間に騒音が生じているか。

といった点が、重要な判断要素とされています。

2 苦情に対する対応
裁判例の中には、下階住民からの苦情に対して「これ以上静かにすることはできない。」等と取り合おうとしなかったり、話し合いの際に乱暴な口調で応じていたことが不誠実な態度であるとされ、この点、受忍限度を超えると判断された要因となっている事案(東京地裁 H19年10月3日判決)がある一方、話し合った上でマンション管理組合理事長の立会いのもと発生音の確認が行われ、その後、床にカーペットや絨毯を敷いたり、子どもが室内で走りまわらないよう注意するよう心がけたことが評価され、受忍限度を超えないと判断された事案(東京地裁H15年7月30日判決)もあります。
こういった裁判例から、小さな子どもを持つ親が、下階住民との間で誠実な話し合いを行ったか、また、騒音発生防止の措置をとったといえるかという点が重要なポイントとされていることが分かります。


こういったことを踏まえると、マンション等の共同住宅において子育てをする親としては、小さな子どもの足音対策として、次のようなことが大切ではないかと考えるのです。

まず、下階の方から苦情を受けた場合はもちろん、そうでなかったとしても、フローリングには防音マットやコルクマットを敷くべきです。
業者のHP等をみますと、防音マットやコルクマットなどでは、重量衝撃音である子どもの足音が下階に伝わることを完全に防止することはできないとされていますが、相当程度に低減させる効果はあるようですので、出来うるかぎりの対処として必要と思います。(なお、裁判例をみても、子どもがいるからといって高額の費用がかかる床の防音工事などを行う必要は通常ありません。)

我が家でも、フローリングのリビングや廊下には50センチメートル四方に切り売りされた防音マットをびっしりと敷き詰めています。
なかなか優れ物で、子どもが飲み物をこぼしたりした場合、その箇所を取り外して水洗いができるので衛生的にも良です。
また、マットを敷き詰めた後も、床暖房は思った以上に効いていると思います。

次に、裁判例からは、マンション等の共同住宅で小さな子供を育てる親は、家の中で子どもを走ったり飛び跳ねたりして遊ばせない、走ったり跳んだりした時にはきちんと子どもに注意を与え、持続的もしくは頻繁に騒音を発生させることがないように努力することが必要です。

これって、幼児のお友達が集まるような日には、とくに要注意です。

厳しい要求のようにもみえますが、一軒家ではなく共同住宅に住む以上、他の住民に配慮しなければならないことは当然ということになるのでしょう。

そして、夜間の時間帯には一層の注意が求められますが、この点については、早寝早起きの規則正しい生活を心掛けるということに尽きるのではないでしょうか。

下階の方から苦情が出た時は、感情的にならず冷静に話し合いをし、対処出来るところはきちんと対処をする、そして対処した内容を丁寧に下階の方に伝えることが大切だと思います。

話し合いが感情的になってもつれそうな場合には、分譲の場合には管理組合、賃貸の場合には大家さんに間に入ってもらうことを考えてもいいでしょう、

対処をきちんとしていれば、通常、下階の方からの苦情は止むと思いますが、いくら対処をしても下階の方からの苦情が一向に止まない、嫌がらせ行為が続くといったような場合には、専門家に対応を相談する(相手次第では、「三十六計逃げるに如かず」で、他所に引っ越す)等の検討をしたほうがいいかもしれません。

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騒音問題(子どもの足音)1 -みんな昔は子供だった?

2015-04-03 04:25:53 | ご近所
 子育て中の方からよく受ける相談(悩みごと相談を含め・・)の一つとして、マンション等の共同住宅における子どもの足音をめぐる下階の方とのトラブルがあります。

 近隣とのトラブルは、感情的な軋轢を生じて大きなストレスを感じさせるものであり、疲れ切ってしまって引っ越したなどという話もよく聞くところです。

 子どもの足音の問題も本当に難しい問題だと思います。

 子育てに一生懸命励んでいる親からすると、下階の人から「子どもの足音がうるさい。」と注意されてまず感じるのは、「子どもだから仕方ないじゃないか。」「子どもにだって生活する権利があるでしょう。」といったところではないでしょうか。

 こういった親の言い分にも一理あり、実際に、下階の人が「な~に、誰だって皆、昔は子供だったんだよ~」と笑顔で言ってくれることだってあるかもしれません。

 しかし、人というものは千差万別であり、みんなが子どもに寛容という訳ではありません。
 
 「子どもだから仕方ないでしょ。」と開き直った態度をとることで、下階の人が感情的に刺激され、関係が泥沼化してしまう危険もあります。
  

 最近の裁判例をみても、子育て中の親に対して厳しい判断を下しているものが見受けられるようになってきています。

 平成19年には、マンションの上階に住む幼児(3~4才)が走り回ったり、跳んだり跳ねたりすることで生じた騒音について下階住民からの慰謝料請求が一部(36万円)認められた裁判が世間の注目を集めました(東京地裁平成19年10月3日判決)。

 その後も、子ども(幼稚園児)が飛び跳ね、走り回ることで生じた騒音につき下階住民に対する合計約120万円に及ぶ慰謝料・治療費・測定費用の支払いが命じられ、さらに騒音発生の差止めまで認められた事案も出てきています(東京地裁平成24年3月15日判決)。

 これらの裁判例は、いずれも、幼児が飛び跳ねたり走り回ったりすることで生じた騒音が下階住民の受忍限度(※)を超えているとされたものですが、少なくとも、「子どもが騒音を生じさせても、子どものことだから仕方がない。」といった考えは明らかに否定されており、この点、我々子育て中の親も留意しなければならないと思います。
 
 とはいえ、性質上、子どもが走ったり、飛び跳ねたりすることはある程度やむをえない面もあり、裁判等でも、上階の子どもが生じさせる騒音が下階住民の受忍限度を超えていないとして下階住民の請求を認めなかった事例もあります。
  
 ポイントはいかなる場合に下階住民の受忍限度を超えるかという点になりますが、この点微妙なところもあり、次回、もう少し考えてみたいなと思っています。


※受忍限度とは、社会生活において一般的にみて我慢するのが相当であると考えられる限度のことをいいます。

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