弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

「すぐやる脳」ってどうすれば?

2015-09-28 10:59:59 | 本・映画
我が家では、長男が小学生になってから、私が朝の勉強当番、妻が夕方の宿題当番をしています。

朝、タイトな時間の中に勉強時間が入ってくるため、長男にはきちんと時間どおり起きてきてもらわなければならないのですが、時にはいつまでも布団の中でグズグズしていて、布団から引きはがすためのバトルになってしまいます。

そんな日は、長男も気分が乗らずダラダラと勉強したりすることから、私も朝からイライラし、疲れ切ってしまいます。


そんな中、脳科学者の茂木健一郎先生の「『すぐやる脳』のつくり方」という本のタイトルに惹かれ、購読してみました。

「抑制のない軽やかな脳」の状態でいることで日頃の集中力や行動力を高め、新しいことにもチャレンジしていける人間になることを勧める内容の本で、読んでいると自分がスティーブ・ジョブスやマーク・ザッカ―バーグといった人たちにもなれるような気になる前向きで楽しい本でした。

この本は大人のための啓発本であって、子どもにやる気を出させるための本ではありません。

それでも、読んでいてふと思ったのが、長男にとって毎朝の私は、勉強することを命令する、そして、何をするべきかを一方的に決めてしまう存在であって、まさに、彼のやる気を削ぐ「脳の抑制」そのものではないかということでした。

子どもの頃、自分がそこから自由になりたいと思っていたものに、今、自分がなってしまっている、そんな気がしてしまいます。

たしかに、理想は、いつの日か、子ども達が、何のために勉強するかという目標意識を自らがもち、勉強の方法も自ら考えていく、そんな自律的な人間になってくれることではないかと思います。

そのためにも、塾などには頼りたくないですし、親がお役御免とされる日も早くきてほしいと考えています。

しかし、まだまだ小学校の低学年。自分で考える力は未熟です。

今は、とにかく毎日決まった時間に勉強する習慣を身に付けさせる、テストなどで結果が良かった時は家族みんなで喜ぶ、こんなことを地道に継続していくことが大切かな、そして、子ども達が自律的な「すぐやる脳」を作っていく過程において、親がある程度「抑制」的な存在になって脳を鍛える負荷となることも必要ではないのかな、と思いました。

勉強内容をいきなり複雑にしない、勉強にゲーム感覚を持ち込む、等といった工夫はしていきたいところですけれど。


このようなことを考えつつ、「私自身は仕事で、いつもすぐやる脳になれているだろうか?」と、わが身を反省しながら読み進めました。

もっと工夫できるところが、たくさんあるように思います。

「すぐやる脳」になるためには、どうすればいいのか?

最終的には、日々の仕事等に対する自分の姿勢を見つめ、自分なりに工夫していくことが大切ということになるのかもしれませんね。


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子どものケンカ2―親の責任(子に責任能力が認められる場合)

2015-09-14 04:59:49 | 子どものケンカ
前回『子どものケンカ1―親の責任とは』で書きましたように、自己の行為の責任を理解する能力が備わっていない小学生等が、暴力行為などの不法行為を行なっても、その小学生自身は民事上の賠償責任を負いません(民法712条)。

その代わりに、子どもの親が、子に対する監督義務を怠っていなかったと認められない限り、監督義務者の責任に基づいて子どもの行為に対する賠償責任を負います(民法714条1項)。


では、子どもが中学生や高校生などで責任能力が認められる場合、親は子どもの行った暴力行為などの不法行為の結果について賠償責任を負うのでしょうか?

子どもが中学生以上であれば、自己の行為の責任を理解する能力があるとして責任能力が認められる場合が多く、その場合、子ども自身が、自己の不法行為の結果について民事上の賠償責任を負わなければなりません。

そして、子ども自身が民事上の賠償責任を負う場合、親は民法714条1項(責任無能力者の監督義務者等の責任)に基づく賠償責任を負いません。

ところが、中学生や高校生などの未成年者には通常、収入や資産がないことから、子どものみが賠償責任を負うとすると、被害者の救済に欠けてしまう可能性があることから、子とともに親も賠償責任を負うべき場合があるのではないかということが従来から議論されていました。

そして、この点、最高裁(昭和49年3月22日判決)は、未成年者である子が責任能力を有する場合であっても、親に監督義務違反が認められ、親の監督義務違反と子の不法行為によって生じた結果との間に「相当因果関係」が認めうるときは、親も民法709条(一般的な不法行為)に基づく不法行為が成立し賠償責任を負うとの判断を示し、現在もこれが裁判実務における確立した考え方となっています。


中学生や高校生の暴力事故に関する比較的最近の裁判例をみますと、親に監督義務違反が認められるか、また、監督義務違反と結果との間に相当因果関係が認められるかという点については、当該暴力行為を行った子どもの過去における問題行動の有無・程度、子どもの問題行動を親が知っていたかどうか、知っていた場合に親が当該暴力行為の結果を予見することが出来たといえるか、親が子に対しどのような指導監督を行っていたか等の事情が考慮され、個別具体的な判断がされています。

一方で、子どもが、過去に喫煙・飲酒、不良交友、暴力行為、いじめ行為などの問題行動を引き起こしていて、その問題行動を親が学校からの指摘等によって十分に知っていたことから、親は子どもの暴力行為の結果を予見できたとして、親の監督義務違反を肯定した裁判例も見受けられます(親の監督義務違反を認めた裁判例として、さいたま地裁平成15年5月27日判決、東京地裁平成16年5月18日判決、前橋地裁平成22年8月4日判決など)

死亡等の重大な結果を引き起こしている場合、親が子どもに日頃、口頭で注意を与えていたとしても、その場限りの指導であって不十分であるとの厳しい判断が示されているケースもあります。

他方、子どもが日頃大きな問題行動を起こしていない場合や、喧嘩などをしたことがあったとしても、学校からの指摘や相手方の親からの苦情等を受けたことがなく、親が事実をよく把握していなかったような場合には、子どもが偶発的な喧嘩をして相手に怪我をさせてしまっても、親はそのことを予見することが出来なかったとして、親の監督義務違反が否定され賠償責任が認めなかった裁判例も見受けられます。(親の監督義務違反が否定された裁判例として、神戸地裁平成25年4月18日判決、東京地裁平成16年11月24日判決、水戸地裁平成22年8月5日判決など)


中学生や高校生などは、小学生と違って、通常はある程度しっかとした判断能力が備わっていることから、中学生にもなれば自分のやったことは自分で責任をとるべきことが基本となります。

このような考えから、子どもが中学生や高校生などの場合には、子どもが小学生の場合と比較して、喧嘩などの結果に対する親の責任は限定的に考えられています。

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子どものケンカ1 -親の責任とは

2015-09-07 05:25:54 | 子どものケンカ
どこの家庭でもそうだとは思いますが、うちでも兄弟ケンカはしょっちゅうです。

兄弟ケンカをしても3分後にはケロッとして一緒に遊んでいますし、兄弟ケンカをすることで社会性が身に付くといった面もあるでしょうから、親も普通は「やめなさい!」と注意するだけです。

ところが、どちらかが相手の顔に向かって手を突き出したり、手に何か物を持ったままケンカをしていたりすると、反射的に、激しく怒鳴り飛ばしてしまいます。

怪我をするのではないかとの恐怖心が湧くからでしょう。

家の中でも家の外でも、自分の子どもがケンカで怪我をしたり他の子どもに怪我させたりすることがないようにというのは、すべての親の願いではないでしょうか。


では、家の外で、子どもが他の子どもとケンカをして怪我を負わせてしまったような場合(もしくは、怪我を負わされた場合)、誰が損害賠償の責任を負うことになるのでしょうか?

この点、未成年者が他人に損害を加えた場合、その未成年者が自分の行為の責任を弁識(理解)するに足りる知能を備えていなければ責任能力がなく、未成年者自身はその行為につき賠償責任を負わないとされています(民法712条)。

自己の行為の責任を理解する能力を備えるのは何時かという点につき画一的な基準はありませんが、大体、小学校を卒業する12才程度と考えられることが多いようです。

したがって、例えば小学生が暴力行為などの不法行為によって友達等を傷つけても、その小学生自身は通常、民事上の賠償責任を負わないということになります。

しかし、これでは被害者が踏んだり蹴ったりとなってしまうことから、法は、責任能力のない子どもが行った不法行為について、子の監督義務者である親が賠償責任を負うものとしています(民法714条1項本文)。

そして、この親の賠償責任は、親が子の監督義務を怠らなかった場合、あるいは、監督義務を怠らなくても損害が生じたといえる場合に限って免れることができるとされていますが(民法714条1項但書)、親が監督義務を怠らなかったといえるかどうかについて以下のような裁判例があります。


まず、子どものケンカに関する最近の裁判例ですが、小学校の児童(小学校6年生)が授業中に鉛筆を手に持って振ったところ、隣の席の子の目に刺さったという事故につき、児童の両親に監督責任に基づく1770万の賠償責任を認めた裁判例があります(千葉地裁平成24年11月16日判決)。

裁判所は、被害者の子が自分の鉛筆を返してほしいと言っていたのに対し、児童が鉛筆の尖った芯を上に向けて手に持ち、被害者の子の顔の付近で手を振った行為につき、危険なものであって不法行為に該当すると認定していますが、児童の責任能力を否定し、児童本人の賠償責任は認めませんでした。

その上で、児童の両親の監督責任について、
『本件事故は、鉛筆という小学生が常日頃使用する物の取扱いに関し、相手に負傷させることが当然予想されるような危険な行為を行ったがゆえに生じたのであり、しかも、(隣の子から鉛筆を)何度も返してほしいと言われたにもかかわらず、これを返さなかったことに起因して生じたものであることからすれば、本件事故が全くの偶発的事故であるとは評価することができず、児童の個人的な注意能力の不備と性格上の問題があいまって派生したものであると評価できる。』
『児童の両親が、児童に対し、日頃家庭において物の取扱い方や人とのコミュニケーションについて十分に注意するよう指導監督を尽くしたとは認められない。』
とし、児童の両親が監督義務を怠っていなかったとはいえないと判断しています。


次に、ケンカの事例ではありませんが、小学5年生の児童が自転車を走行中、歩行者と衝突し、歩行者が意識不明の重体となってしまった事故で、児童の母親に合計約9500万円の賠償責任が認められた裁判例(神戸地裁平成25年7月4日判決)がありますが、この事件でも、母親が子に対する監督義務を怠っていなかったかどうかが争点となっていました。

裁判所は、児童が事故時、前方注視義務を果たしていなかったこと、相当程度の勾配のある道路を速い速度で走行していたこと、ヘルメットを着用していなかったこと等の事情を重視し、母親が児童に対して自転車の運転に関する十分な指導や注意をしていたとはいえず監督義務を果たしていなかったことは明らかであると判断しています。


これらの裁判例からは、親の子に対する監督義務とは、日常どのような指導や注意を行っていたかという一般的な監督として考えられていること、そして、問題となる子の行為(不法行為)が客観的にみて、第三者の生命・身体等に損害を与えてしまう危険性が高いような場合には、子がそのような行為を行っていること自体から、親が日常における子の監督義務を果たしていたとはいえないと判断されているように感じられます。

親の責任は重いです。

「ケンカをしたら、とにかく絶対に負けるな!」
などと、子どもが小さい頃からハッパをかけている親御さんもいるかもしれませんが、ケンカで生じる結果について自分が全責任を負う覚悟があるのでなければ、このようなことは軽々しく口には出来ないと思います。


なお、ご記憶の方も多いと思いますが、最近、児童が小学校の校庭に設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたところ、ボールが校外に転がって重大な交通事故につながってしまったという事故で、児童の親が監督義務を怠っていなかったとして、親の賠償責任が否定された最高裁の判決(最高裁平成27年4月9日判決)が話題になりました。

この判決は、親の監督義務が否定された珍しい判決として、テレビ等でも大きく取り上げられました。

この判決については、あらためて触れてみたいと思っていますが、最高裁は、
『責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが、本件ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。』
『通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。』
と判断しており、当該児童の行為(サッカーの練習)には通常、危険性が認められないといった具体的な事情が重視された裁判例であって、子どもが暴力行為のような客観的にみて危険と考えられる行為によって第三者に損害を与えた場合にも親の賠償責任を限定すべきとしたものではないように思われます。


子どものケンカに関しては、他にも、子どもが中学生以上で責任能力が認められる場合には親は賠償責任を負わないのか、学校の責任は認められないのかといった点も問題になりますが、これらの点についてはまたの機会に考えてみたいと思います。

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