弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

子どものケンカ3 -学校の責任

2015-11-03 06:36:47 | 子どものケンカ

先日書きました「子どものケンカ1」「子どものケンカ2」では、子どもが暴力行為によって第三者に傷害を与えてしまった場合の親の責任を考えてみました。

では、子どもが学校内のケンカで他の子どもに怪我をさせてしまったような場合、学校の責任はどのように考えられているのでしょうか。

民法714条は、1項で、責任無能力者(小学生など)を監督する法定責任者(親権者など)は、監督義務を怠らなかったことを立証できなければ、責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する義務を負うと規定していますが、2項で、監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者(親権者代理監督責任者)も同様の責任を負うと規定しています。

保育士や教師は、この親権者代理監督者責任(民法714条2項)を負っています。

ただし、親権者は子どもの生活全般について監督責任を負いますが、教師の監督義務は、学校における教育活動およびこれと密接に関連する生活関係に限定されると考えられています。

有名な裁判例で、小学校6年生の児童が同級生と学校内で決闘をし、左目付近を殴ってほとんど失明に近い状態としてしまったという事案がありますが、裁判所は、放課後に教職員の目を盗んで行われたけんかであって教育活動およびこれと密接に関連する生活関係から生じたものではなかったこと等を理由として教職員の監督義務違反を認めませんでした(大阪地裁昭和50年3月3日判決)。

また、教師も親と同様、監督義務を怠っていなかったことが立証されれば賠償責任を負わないとされています(民法714条1項但書)。

この点、教師の監督義務については、一般的に、
(1)児童・生徒の年齢が低いほど教師の監督義務の範囲は広がる。
(2)日頃から問題を起こしている生徒らについては格別の注意を払う必要がある。
(3)加害行為に使用される恐れのある危険物については、保管に格別の注意を払う必要がある。
と考えられています(※)。

「子どものケンカ1」で紹介した、小学校6年生の児童が授業中に手に持って振った鉛筆が他の児童の目に刺さった事案に関する裁判例(千葉地裁平成24年11月16日)でも、加害および被害児童が日頃から問題があり注意して監督しなければならないような児童であったか、学校で鉛筆の持ち歩き方や彫刻刀・カッター等の取り扱い方等の指導が行われていたかといった点が考慮されるとともに、加害行為前の状況や加害行為に要した時間からみて担任教師が児童の加害行為に気付くことが出来たといえるかどうかが検討されています。

上記、教師の監督義務について一般的に考えられている事項のうち(2)、(3)のあたりなどは、授業参観などで、親も気になってどうしても着目してしまう事柄のような気がします。


※坂東司郎氏ほか「学校生活の法律相談(全訂版)」、289頁参照

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子どものケンカ2―親の責任(子に責任能力が認められる場合)

2015-09-14 04:59:49 | 子どものケンカ
前回『子どものケンカ1―親の責任とは』で書きましたように、自己の行為の責任を理解する能力が備わっていない小学生等が、暴力行為などの不法行為を行なっても、その小学生自身は民事上の賠償責任を負いません(民法712条)。

その代わりに、子どもの親が、子に対する監督義務を怠っていなかったと認められない限り、監督義務者の責任に基づいて子どもの行為に対する賠償責任を負います(民法714条1項)。


では、子どもが中学生や高校生などで責任能力が認められる場合、親は子どもの行った暴力行為などの不法行為の結果について賠償責任を負うのでしょうか?

子どもが中学生以上であれば、自己の行為の責任を理解する能力があるとして責任能力が認められる場合が多く、その場合、子ども自身が、自己の不法行為の結果について民事上の賠償責任を負わなければなりません。

そして、子ども自身が民事上の賠償責任を負う場合、親は民法714条1項(責任無能力者の監督義務者等の責任)に基づく賠償責任を負いません。

ところが、中学生や高校生などの未成年者には通常、収入や資産がないことから、子どものみが賠償責任を負うとすると、被害者の救済に欠けてしまう可能性があることから、子とともに親も賠償責任を負うべき場合があるのではないかということが従来から議論されていました。

そして、この点、最高裁(昭和49年3月22日判決)は、未成年者である子が責任能力を有する場合であっても、親に監督義務違反が認められ、親の監督義務違反と子の不法行為によって生じた結果との間に「相当因果関係」が認めうるときは、親も民法709条(一般的な不法行為)に基づく不法行為が成立し賠償責任を負うとの判断を示し、現在もこれが裁判実務における確立した考え方となっています。


中学生や高校生の暴力事故に関する比較的最近の裁判例をみますと、親に監督義務違反が認められるか、また、監督義務違反と結果との間に相当因果関係が認められるかという点については、当該暴力行為を行った子どもの過去における問題行動の有無・程度、子どもの問題行動を親が知っていたかどうか、知っていた場合に親が当該暴力行為の結果を予見することが出来たといえるか、親が子に対しどのような指導監督を行っていたか等の事情が考慮され、個別具体的な判断がされています。

一方で、子どもが、過去に喫煙・飲酒、不良交友、暴力行為、いじめ行為などの問題行動を引き起こしていて、その問題行動を親が学校からの指摘等によって十分に知っていたことから、親は子どもの暴力行為の結果を予見できたとして、親の監督義務違反を肯定した裁判例も見受けられます(親の監督義務違反を認めた裁判例として、さいたま地裁平成15年5月27日判決、東京地裁平成16年5月18日判決、前橋地裁平成22年8月4日判決など)

死亡等の重大な結果を引き起こしている場合、親が子どもに日頃、口頭で注意を与えていたとしても、その場限りの指導であって不十分であるとの厳しい判断が示されているケースもあります。

他方、子どもが日頃大きな問題行動を起こしていない場合や、喧嘩などをしたことがあったとしても、学校からの指摘や相手方の親からの苦情等を受けたことがなく、親が事実をよく把握していなかったような場合には、子どもが偶発的な喧嘩をして相手に怪我をさせてしまっても、親はそのことを予見することが出来なかったとして、親の監督義務違反が否定され賠償責任が認めなかった裁判例も見受けられます。(親の監督義務違反が否定された裁判例として、神戸地裁平成25年4月18日判決、東京地裁平成16年11月24日判決、水戸地裁平成22年8月5日判決など)


中学生や高校生などは、小学生と違って、通常はある程度しっかとした判断能力が備わっていることから、中学生にもなれば自分のやったことは自分で責任をとるべきことが基本となります。

このような考えから、子どもが中学生や高校生などの場合には、子どもが小学生の場合と比較して、喧嘩などの結果に対する親の責任は限定的に考えられています。

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子どものケンカ1 -親の責任とは

2015-09-07 05:25:54 | 子どものケンカ
どこの家庭でもそうだとは思いますが、うちでも兄弟ケンカはしょっちゅうです。

兄弟ケンカをしても3分後にはケロッとして一緒に遊んでいますし、兄弟ケンカをすることで社会性が身に付くといった面もあるでしょうから、親も普通は「やめなさい!」と注意するだけです。

ところが、どちらかが相手の顔に向かって手を突き出したり、手に何か物を持ったままケンカをしていたりすると、反射的に、激しく怒鳴り飛ばしてしまいます。

怪我をするのではないかとの恐怖心が湧くからでしょう。

家の中でも家の外でも、自分の子どもがケンカで怪我をしたり他の子どもに怪我させたりすることがないようにというのは、すべての親の願いではないでしょうか。


では、家の外で、子どもが他の子どもとケンカをして怪我を負わせてしまったような場合(もしくは、怪我を負わされた場合)、誰が損害賠償の責任を負うことになるのでしょうか?

この点、未成年者が他人に損害を加えた場合、その未成年者が自分の行為の責任を弁識(理解)するに足りる知能を備えていなければ責任能力がなく、未成年者自身はその行為につき賠償責任を負わないとされています(民法712条)。

自己の行為の責任を理解する能力を備えるのは何時かという点につき画一的な基準はありませんが、大体、小学校を卒業する12才程度と考えられることが多いようです。

したがって、例えば小学生が暴力行為などの不法行為によって友達等を傷つけても、その小学生自身は通常、民事上の賠償責任を負わないということになります。

しかし、これでは被害者が踏んだり蹴ったりとなってしまうことから、法は、責任能力のない子どもが行った不法行為について、子の監督義務者である親が賠償責任を負うものとしています(民法714条1項本文)。

そして、この親の賠償責任は、親が子の監督義務を怠らなかった場合、あるいは、監督義務を怠らなくても損害が生じたといえる場合に限って免れることができるとされていますが(民法714条1項但書)、親が監督義務を怠らなかったといえるかどうかについて以下のような裁判例があります。


まず、子どものケンカに関する最近の裁判例ですが、小学校の児童(小学校6年生)が授業中に鉛筆を手に持って振ったところ、隣の席の子の目に刺さったという事故につき、児童の両親に監督責任に基づく1770万の賠償責任を認めた裁判例があります(千葉地裁平成24年11月16日判決)。

裁判所は、被害者の子が自分の鉛筆を返してほしいと言っていたのに対し、児童が鉛筆の尖った芯を上に向けて手に持ち、被害者の子の顔の付近で手を振った行為につき、危険なものであって不法行為に該当すると認定していますが、児童の責任能力を否定し、児童本人の賠償責任は認めませんでした。

その上で、児童の両親の監督責任について、
『本件事故は、鉛筆という小学生が常日頃使用する物の取扱いに関し、相手に負傷させることが当然予想されるような危険な行為を行ったがゆえに生じたのであり、しかも、(隣の子から鉛筆を)何度も返してほしいと言われたにもかかわらず、これを返さなかったことに起因して生じたものであることからすれば、本件事故が全くの偶発的事故であるとは評価することができず、児童の個人的な注意能力の不備と性格上の問題があいまって派生したものであると評価できる。』
『児童の両親が、児童に対し、日頃家庭において物の取扱い方や人とのコミュニケーションについて十分に注意するよう指導監督を尽くしたとは認められない。』
とし、児童の両親が監督義務を怠っていなかったとはいえないと判断しています。


次に、ケンカの事例ではありませんが、小学5年生の児童が自転車を走行中、歩行者と衝突し、歩行者が意識不明の重体となってしまった事故で、児童の母親に合計約9500万円の賠償責任が認められた裁判例(神戸地裁平成25年7月4日判決)がありますが、この事件でも、母親が子に対する監督義務を怠っていなかったかどうかが争点となっていました。

裁判所は、児童が事故時、前方注視義務を果たしていなかったこと、相当程度の勾配のある道路を速い速度で走行していたこと、ヘルメットを着用していなかったこと等の事情を重視し、母親が児童に対して自転車の運転に関する十分な指導や注意をしていたとはいえず監督義務を果たしていなかったことは明らかであると判断しています。


これらの裁判例からは、親の子に対する監督義務とは、日常どのような指導や注意を行っていたかという一般的な監督として考えられていること、そして、問題となる子の行為(不法行為)が客観的にみて、第三者の生命・身体等に損害を与えてしまう危険性が高いような場合には、子がそのような行為を行っていること自体から、親が日常における子の監督義務を果たしていたとはいえないと判断されているように感じられます。

親の責任は重いです。

「ケンカをしたら、とにかく絶対に負けるな!」
などと、子どもが小さい頃からハッパをかけている親御さんもいるかもしれませんが、ケンカで生じる結果について自分が全責任を負う覚悟があるのでなければ、このようなことは軽々しく口には出来ないと思います。


なお、ご記憶の方も多いと思いますが、最近、児童が小学校の校庭に設置されていたサッカーゴールに向けてフリーキックの練習をしていたところ、ボールが校外に転がって重大な交通事故につながってしまったという事故で、児童の親が監督義務を怠っていなかったとして、親の賠償責任が否定された最高裁の判決(最高裁平成27年4月9日判決)が話題になりました。

この判決は、親の監督義務が否定された珍しい判決として、テレビ等でも大きく取り上げられました。

この判決については、あらためて触れてみたいと思っていますが、最高裁は、
『責任能力のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について、人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが、本件ゴールに向けたフリーキックの練習は、通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。』
『通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は、当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り、子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。』
と判断しており、当該児童の行為(サッカーの練習)には通常、危険性が認められないといった具体的な事情が重視された裁判例であって、子どもが暴力行為のような客観的にみて危険と考えられる行為によって第三者に損害を与えた場合にも親の賠償責任を限定すべきとしたものではないように思われます。


子どものケンカに関しては、他にも、子どもが中学生以上で責任能力が認められる場合には親は賠償責任を負わないのか、学校の責任は認められないのかといった点も問題になりますが、これらの点についてはまたの機会に考えてみたいと思います。

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