弁護士パパの子育てノート

3人の子供の子育てにかかわる日常の中で、「これってどうなんだろう?」と考えたことをいろいろと記してみたいと思います。

マンションベランダでの喫煙

2015-11-23 06:53:46 | ご近所
最近、社会的にタバコの受動喫煙による人の健康への悪影響が問題視され、とくに子どもは、呼吸器や中枢神経などが未発達なので身体への影響を受けやすい(新生児や乳幼児はなおさら)ことが指摘されています。

そのため、子どもが生まれたのを機に煙草をやめた方も多いでしょうし、室内での喫煙を禁じられベランダ等でこっそりと喫煙するようになった方も少なくないのではないかと思います。


ところが、このベランダでの喫煙、最近、マンションなどで近隣住民との間でのトラブルの原因となっているとの話をよく耳にします。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、マンションベランダでの喫煙に関する裁判例もありました(名古屋地裁平成24年12月13日判決)。

この裁判例は、マンションの下階に住む男性が、上階に住む女性から、ベランダでの喫煙をやめるよう何度も申し入れられていたにもかかわらず、ベランダでの喫煙を止めなかったとして、精神的損害等の賠償を求められていたものです。

判決では、
「自己の所有建物内であっても、いかなる行為も許されるというものではなく、当該行為が、第三者に著しい不利益を及ぼす場合には、制限が加えられることがあるのはやむを得ない。」
「喫煙は個人の趣味であって本来個人の自由に委ねられる行為であるものの、タバコの煙が喫煙者のみならず、その周辺で煙を吸い込む者の健康に悪影響を及ぼす恐れのあること、一般にタバコの煙を嫌う者が多くいることは、いずれも公知の事実である。」
「マンションの専有部分及びこれに接続する専用使用部分における喫煙であっても、マンションの他の居住者に与える不利益の限度によっては、制限すべき場合があり得るのであって、他の居住者に著しい不利益を与えていることを知りながら、喫煙を継続し、何らこれを防止する措置をとらない場合には、喫煙が不法行為を構成することがあり得る。」
との判断が示され、

原告の女性が、喘息をもっているのでタバコの煙によって強いストレスを感じていることを示しつつ、重ねて中止を要請したにもかかわらず、被告の男性がベランダでの喫煙を止めなかったこと、被告男性がベランダで一日に吸うたばこの数量が少なくなかったこと等から、被告男性のベランダでの喫煙継続が不法行為にあたると認定され、被告男性が原告女性に対し5万円の慰謝料を支払うことを命じました。

この裁判例は、原告女性に喘息の持病があったことや原告男性のベランダでの喫煙本数が少なくなかったこと等、具体的事情が考慮されており、ベランダでの喫煙がただちに不法行為となると判断しているものではありません。

認容された損害の額も5万円と必ずしも大きいものではないかもしれません。

しかしながら、ベランダでの喫煙が、態様次第では不法行為に該当することが明確に示されていることから、今後も、近隣住人の方からのクレームが増えることは予想されますし、同種の訴訟等が起こされる可能性も大きいのではないかと思います。

騒音問題やゴミの問題などもそうですが、ご近所との間でトラブルを生じた際の精神的なストレスの大きさを考えると、マンションベランダでの喫煙は割に合わないことであって、やめたほうがいいように思います。


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騒音問題(子どもの足音)3-苦情は言いたい放題なのか?

2015-06-01 05:16:49 | ご近所
「騒音問題(子どもの足音)1」、「騒音問題(子どもの足音)2」でも書きましたが、下階住民との間での騒音に関するトラブルについては、音の発生が下階住民の受忍限度を超えているといえるかという点がポイントとなります。

そして、裁判例をみますと、受忍限度を超えているかどうかの判断においては、上に居住している側が下階住民との間で誠実な話し合いを行っているか、また、騒音発生防止の措置をとっているかといった点も重要なポイントとされています。

ここで悩ましいのが、上階住民が下階住民から「うるさい。」と苦情を受け、誠実な話し合いや対処はしているものの苦情が一向にやまない場合、苦情に対して際限なく対応しなければならないのか、いいかえると、下階住民は苦情をいくらでも自由に言うことが出来るのかという点です。


この点、小さな子どもが絡んだものではありませんが、ネット上において興味深い裁判例(「騒音問題と名誉棄損」に関する東京地方裁判所平成23年10月13日判決)が紹介されていることに気づきました。

この裁判例は、マンションの下階住民が、上の居室から騒音が発生しているとして、管理人を通じて何度も上階住民に苦情を申し立て、また、管理組合の総会でも議題として問題としたことにつき、上階住民が、名誉感情を損なわれたとして下階住民に対し不法行為に基づく損害賠償請求等の訴えを行い(本訴)、逆に、下階住民も上階住民に対して、受忍限度を超える騒音を発生させたとして不法行為に基づく損害賠償請求の訴えを行った(反訴)というものです。

判決は、受忍限度を超える騒音が発生していた事実はないとして下階住民の請求を棄却する一方、下階住民が管理組合の総会で発言した内容はマンションの住民らに対して上階住民が下階住民に損害を与えているとの印象を与えるものであって上階住民の社会的評価を低下させたとして名誉棄損が成立する、また、管理人を通じた苦情申立ての中には上階住民に対する誹謗中傷とも受け取れる表現が多く含まれており、苦情が非常に多数回にわたって申し立てられていることからも、下階住民の苦情は社会通念上許される限度を超えており上階住民の名誉感情を侵害するものであるとして、上階住民の下階住民に対する損害賠償請求を一部(慰謝料30万円)認めています。

下階住民からの苦情申立てにも「社会通念許される限度」というものがあって確たる証拠もなく苦情をいくらでも自由に言ってよいものではないこと、限度を超えた苦情申立ては違法となる可能性があることが示唆されており、目を引くところです。


マンション等における騒音問題の難しいところは、自宅の生活音が下の居室等にどのように響いているのかよく分からないこと、また、受忍限度の判断基準が一義的に明確ではない一方で、音に対する感受性は人によって千差万別であることからも、発生する音が受忍限度を超えているかどうかの判断がきわめて難しいという点にあるように思います。

マンション等の共同住宅において小さな子どもを育てているような場合には、子どもが跳んだり走り回ったりすることで下階に生じる音がめいわくなものであることはまず間違いなく、出来る限りの騒音発生防止の措置を取るべきであること、また、苦情に対しては誠実な態度で話し合い等を行うべきであることは、「騒音問題(子どもの足音)2」の中で述べたとおりです。

上記裁判例(東京地方裁判所平成23年10月13日判決)でも、小さな子どもがいる事案ではありませんが、上階住民側は下階住民からの苦情を受けて、フローリングの上にカーペットを敷き、音に注意して生活している旨を手紙で説明している等の経緯が認められています。

ただ、小さな子どもがいるからといって、子どもが生活するに際して生じる音が下階住民の受忍限度を超えるものであるとは限らないことも「騒音問題(子どもの足音)2」の中で述べたとおりであり、きちんと誠実な対応をしているにもかかわらず下階住民からの苦情が一向に止まず、苦情が執拗であったり、内容が悪質であったりするような場合に対処すべき方法がないのか、そのことを考えるにあたって上記裁判例は示唆に富んでいるように感じています。

前の記事;騒音問題(子どもの足音)2 -受忍限度とは?



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騒音問題(子どもの足音)2 -受忍限度とは?

2015-04-13 00:07:18 | ご近所
前回も書きましたが、下階住民との間での騒音に関するトラブルについては、下階住民の受忍限度を超えているかという点がポイントとなります。

この点、裁判などでは一般的に、受忍限度について「加害行為の有用性、妨害予防の簡便性、被害の程度および存続期間、その他諸般の事情を考慮し、平均的な人間の感覚や感受性を基準として判断する」とされています。

なんだか分かりにくいですが、騒音が下階住民の受忍限度を超えているとされた裁判例(東京地裁H24年3月15日判決、東京地裁H19年10月3日判決など)、超えていないとされた裁判例(東京地裁H15年7月30日判決、東京地裁H6年5月9日判決、東京地裁H3年11月12日判決など)をみると、以下の二点が重要なポイントと考えらえます。

1 下階に生じる騒音の音量と態様
東京都の条例では、住宅地(第一種区域)における騒音の規制基準は時間帯に応じて40デシベル~45デシベルと規定されています。
ところが、裁判例をみると、子どもが走り回ったり飛び跳ねたりすることで下階に及ぶ音量は、床の遮音性能が劣る場合には最大で65デシベルにも達し、床の遮音性能が相当程度に優れている場合でも50デシベルを超えることがあり、あらためて子どもの足音は下階に響くものであることが伺えます。
ただ、裁判例をみても、子どもが生活する以上、その足音が下階に及ぶことはある程度は仕方がないと考えられており、受忍限度との関係では、単に規制基準を超える音量が発生しているかどうかというだけではなく、

・騒音が長時間にわたって継続して生じているか、それとも、短時間ないし瞬間的に発生しているか。
・人の就寝が想定される夜間に騒音が生じているか。

といった点が、重要な判断要素とされています。

2 苦情に対する対応
裁判例の中には、下階住民からの苦情に対して「これ以上静かにすることはできない。」等と取り合おうとしなかったり、話し合いの際に乱暴な口調で応じていたことが不誠実な態度であるとされ、この点、受忍限度を超えると判断された要因となっている事案(東京地裁 H19年10月3日判決)がある一方、話し合った上でマンション管理組合理事長の立会いのもと発生音の確認が行われ、その後、床にカーペットや絨毯を敷いたり、子どもが室内で走りまわらないよう注意するよう心がけたことが評価され、受忍限度を超えないと判断された事案(東京地裁H15年7月30日判決)もあります。
こういった裁判例から、小さな子どもを持つ親が、下階住民との間で誠実な話し合いを行ったか、また、騒音発生防止の措置をとったといえるかという点が重要なポイントとされていることが分かります。


こういったことを踏まえると、マンション等の共同住宅において子育てをする親としては、小さな子どもの足音対策として、次のようなことが大切ではないかと考えるのです。

まず、下階の方から苦情を受けた場合はもちろん、そうでなかったとしても、フローリングには防音マットやコルクマットを敷くべきです。
業者のHP等をみますと、防音マットやコルクマットなどでは、重量衝撃音である子どもの足音が下階に伝わることを完全に防止することはできないとされていますが、相当程度に低減させる効果はあるようですので、出来うるかぎりの対処として必要と思います。(なお、裁判例をみても、子どもがいるからといって高額の費用がかかる床の防音工事などを行う必要は通常ありません。)

我が家でも、フローリングのリビングや廊下には50センチメートル四方に切り売りされた防音マットをびっしりと敷き詰めています。
なかなか優れ物で、子どもが飲み物をこぼしたりした場合、その箇所を取り外して水洗いができるので衛生的にも良です。
また、マットを敷き詰めた後も、床暖房は思った以上に効いていると思います。

次に、裁判例からは、マンション等の共同住宅で小さな子供を育てる親は、家の中で子どもを走ったり飛び跳ねたりして遊ばせない、走ったり跳んだりした時にはきちんと子どもに注意を与え、持続的もしくは頻繁に騒音を発生させることがないように努力することが必要です。

これって、幼児のお友達が集まるような日には、とくに要注意です。

厳しい要求のようにもみえますが、一軒家ではなく共同住宅に住む以上、他の住民に配慮しなければならないことは当然ということになるのでしょう。

そして、夜間の時間帯には一層の注意が求められますが、この点については、早寝早起きの規則正しい生活を心掛けるということに尽きるのではないでしょうか。

下階の方から苦情が出た時は、感情的にならず冷静に話し合いをし、対処出来るところはきちんと対処をする、そして対処した内容を丁寧に下階の方に伝えることが大切だと思います。

話し合いが感情的になってもつれそうな場合には、分譲の場合には管理組合、賃貸の場合には大家さんに間に入ってもらうことを考えてもいいでしょう、

対処をきちんとしていれば、通常、下階の方からの苦情は止むと思いますが、いくら対処をしても下階の方からの苦情が一向に止まない、嫌がらせ行為が続くといったような場合には、専門家に対応を相談する(相手次第では、「三十六計逃げるに如かず」で、他所に引っ越す)等の検討をしたほうがいいかもしれません。

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騒音問題(子どもの足音)1 -みんな昔は子供だった?

2015-04-03 04:25:53 | ご近所
 子育て中の方からよく受ける相談(悩みごと相談を含め・・)の一つとして、マンション等の共同住宅における子どもの足音をめぐる下階の方とのトラブルがあります。

 近隣とのトラブルは、感情的な軋轢を生じて大きなストレスを感じさせるものであり、疲れ切ってしまって引っ越したなどという話もよく聞くところです。

 子どもの足音の問題も本当に難しい問題だと思います。

 子育てに一生懸命励んでいる親からすると、下階の人から「子どもの足音がうるさい。」と注意されてまず感じるのは、「子どもだから仕方ないじゃないか。」「子どもにだって生活する権利があるでしょう。」といったところではないでしょうか。

 こういった親の言い分にも一理あり、実際に、下階の人が「な~に、誰だって皆、昔は子供だったんだよ~」と笑顔で言ってくれることだってあるかもしれません。

 しかし、人というものは千差万別であり、みんなが子どもに寛容という訳ではありません。
 
 「子どもだから仕方ないでしょ。」と開き直った態度をとることで、下階の人が感情的に刺激され、関係が泥沼化してしまう危険もあります。
  

 最近の裁判例をみても、子育て中の親に対して厳しい判断を下しているものが見受けられるようになってきています。

 平成19年には、マンションの上階に住む幼児(3~4才)が走り回ったり、跳んだり跳ねたりすることで生じた騒音について下階住民からの慰謝料請求が一部(36万円)認められた裁判が世間の注目を集めました(東京地裁平成19年10月3日判決)。

 その後も、子ども(幼稚園児)が飛び跳ね、走り回ることで生じた騒音につき下階住民に対する合計約120万円に及ぶ慰謝料・治療費・測定費用の支払いが命じられ、さらに騒音発生の差止めまで認められた事案も出てきています(東京地裁平成24年3月15日判決)。

 これらの裁判例は、いずれも、幼児が飛び跳ねたり走り回ったりすることで生じた騒音が下階住民の受忍限度(※)を超えているとされたものですが、少なくとも、「子どもが騒音を生じさせても、子どものことだから仕方がない。」といった考えは明らかに否定されており、この点、我々子育て中の親も留意しなければならないと思います。
 
 とはいえ、性質上、子どもが走ったり、飛び跳ねたりすることはある程度やむをえない面もあり、裁判等でも、上階の子どもが生じさせる騒音が下階住民の受忍限度を超えていないとして下階住民の請求を認めなかった事例もあります。
  
 ポイントはいかなる場合に下階住民の受忍限度を超えるかという点になりますが、この点微妙なところもあり、次回、もう少し考えてみたいなと思っています。


※受忍限度とは、社会生活において一般的にみて我慢するのが相当であると考えられる限度のことをいいます。

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