同著者の『幕末バトル・ロワイヤル』(文春新書)でも、かなり引かれていた大谷木醇堂(おおやぎ・じゅんどう、1838 - 97) の厖大な著作から、拾い出したトピックスを選んで紹介した歴史エッセイです。
さて、それでは、大谷木醇堂とは、どのような人物だったのか。
それが分らないと、なぜここまで雑多な著作を残し、毒舌を振り撒いたのかが理解できにくいと思います。
著者の「あとがき」によれば、
その意趣の深さは、著作の多さにも現れています。
『公私雑録』『醇堂叢書』『醇堂漫抄』『醇堂手抄』『醇堂記抄』『醇堂雑綴』『醇堂雑録』『醇堂一家言』『醇堂一見識』『醇堂間話』などなど。
次に、なぜ著者は、この妙な人物に興味関心を抱いたか。
それを端的に示しているのが、次のような一節です。
ここでは、その一例として、鳥居耀蔵でも取り上げてみましょうか。あまりマイナーな人物だと、知る人が少なくて困るので。
むしろ、醇堂らしいのは、話題がゴシップ、あるいはスキャンダルになってからでしょう。
こんなオドロオドロしい話だけではなく、「江戸から狸が消えた日」「阿呆の鳥好き」などのような、お伽話めいた江戸の「ちょっといい話」も紹介されています。
江戸ファンの方は、一度目を通されても宜しいのではないでしょうか。
野口武彦
『幕末の毒舌家』
中央公論新社
定価 2,100 円 (税込)
ISBN 978-4120036026
さて、それでは、大谷木醇堂とは、どのような人物だったのか。
それが分らないと、なぜここまで雑多な著作を残し、毒舌を振り撒いたのかが理解できにくいと思います。
著者の「あとがき」によれば、
「前半生を下積みの幕臣として苦労して過ごし、その幕府も瓦解して、三十そこそこで明治の世に放り出された」「要するに、一生を失意のうちに送った人物」。その経歴から、
「自分の不幸を呪い、失敗を社会の責任にし、他人を恨み続け」「書くことで意趣を晴らした」ということになります。
その意趣の深さは、著作の多さにも現れています。
『公私雑録』『醇堂叢書』『醇堂漫抄』『醇堂手抄』『醇堂記抄』『醇堂雑綴』『醇堂雑録』『醇堂一家言』『醇堂一見識』『醇堂間話』などなど。
次に、なぜ著者は、この妙な人物に興味関心を抱いたか。
それを端的に示しているのが、次のような一節です。
「全篇を貫いて音楽のように流れるテーマがある。暗い片隅から眺めた幕末日本史である。(中略)通常の歴史だったら正面から照明を浴びる有名人も、ほんの傍役を演ずるにすぎない知名度ではマイナーな人士も、まったく無名の人間たちも、ひとしくゴシップの平面に押し下げられて奇妙な平等性のもとに登場してくる。」からに他なりません。
ここでは、その一例として、鳥居耀蔵でも取り上げてみましょうか。あまりマイナーな人物だと、知る人が少なくて困るので。
「醇堂は、蘭学弾圧(=「蛮社の獄」)そのものは非難しない。かえって維新後も依然として『攘夷』と言い続けた耀蔵をエライものだと支持している。時勢をしらぬバカモノではあったが正しかった、幕府が潰れたのも耀蔵の言葉どおりだった言うのである。」この辺りの評価は、勝海舟と共通するところ。
むしろ、醇堂らしいのは、話題がゴシップ、あるいはスキャンダルになってからでしょう。
「醇堂が語るところでは、耀蔵の最初の妻は旗本鳥居一学の長女であったが、耀蔵はこの妻が妊娠中だったのを二階から突き落とし、胞衣が胎児にからみついて母子共に死んでしまったというのだ。それだけではない。今度はその妹にあたる次女を妻にして、一時の怒りに任せて死なせてしまった。妊娠の身に踏み台を投げつけられたのでは堪らない。かっとなると暴力的になって手がつけられなくなる。その報いを受けて死んでも不思議はない男だったと醇堂は言うのである。」本当か、噂があったのか、定かではありませんが、まるで岩井志麻子の世界ですな。
こんなオドロオドロしい話だけではなく、「江戸から狸が消えた日」「阿呆の鳥好き」などのような、お伽話めいた江戸の「ちょっといい話」も紹介されています。
江戸ファンの方は、一度目を通されても宜しいのではないでしょうか。
野口武彦
『幕末の毒舌家』
中央公論新社
定価 2,100 円 (税込)
ISBN 978-4120036026