【出口学長・特別講義】「大乗仏教」を読み解く最強の本を紹介しよう。
ダイヤモンド onlain より 220713 出口治明
世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。
世界史を背骨に日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した『哲学と宗教全史』が「ビジネス書大賞2020」特別賞(ビジネス教養部門)を受賞。発売3年たってもロングセラーとなっている。
◎宮部みゆき氏(小説家)が「本書を読まなくても単位を落とすことはありませんが、よりよく生きるために必要な大切なものを落とす可能性はあります」
◎池谷裕二氏(脳研究者・東京大学教授)が「初心者でも知の大都市で路頭に迷わないよう、周到にデザインされ、読者を思索の快楽へと誘う。世界でも選ばれた人にしか書けない稀有な本」
◎なかにし礼氏(直木賞作家・作詞家)が「読み終わったら、西洋と東洋の哲学と宗教の大河を怒濤とともに下ったような快い疲労感が残る。世界に初めて登場した名著である」
◎大手書店員が「百年残る王道の一冊」
◎日経新聞リーダー本棚で東原敏昭氏(日立製作所会長)が「最近、何か起きたときに必ずひもとく一冊」と評した究極の一冊
だがこの本、A5判ハードカバー、468ページ、2400円+税という近年稀に見るスケールの本で、巷では「鈍器本」といわれている。“現代の知の巨人”に、本書を抜粋しながら、哲学と宗教のツボについて語ってもらおう。
▶︎出口治明(でぐち・はるあき)立命館アジア太平洋大学(APU)学長:1948年三重県美杉村生まれ。
京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年、上場。社長、会長を10年務めた後、2018年より現職。訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊超。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
おもな著書に『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『仕事に効く教養としての「世界史」I・II』(祥伝社)、『全世界史(上)(下)』『「働き方」の教科書』(以上、新潮社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『人類5000年史I・II』(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇、中世篇』(文藝春秋)など多数。
おもな著書に『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『仕事に効く教養としての「世界史」I・II』(祥伝社)、『全世界史(上)(下)』『「働き方」の教科書』(以上、新潮社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『人類5000年史I・II』(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇、中世篇』(文藝春秋)など多数。
◆大乗経典の4グループ
前回紹介した主たる大乗経典は、以下の4つのグループに分けられます。
般若経(はんにゃきょう)、法華経(ほけきょう)、浄土三部経(じょうどさんぶきょう)そして華厳経(けごんきょう)です。
般若経は紀元前後に書かれました。 一番古い大乗経典と考えられています。
その教えの中心は「空」を説くことです。
数字のゼロを発見したインド人らしい考え方で、この世に存在する、さまざまなものは我々人間を含めて、お互いの関係性があって初めて実体として成立する。
関係性がなければ、その実体はなきに等しい。
すなわち空である、と考えます。
世の中はすべて互いのご縁があって成立しているのだ、といっているわけです。
その意味では諸物が生まれてくる縁起を説いているともいえます。
⚫︎般若経とは?
なお、般若とは「真実を悟るための根本的な知恵」という意味です。
般若経の経典には、呪術的な内容が多く記載されており、後に登場する密教につながる側面も軽視できません。
現存する代表的な般若経は、唐の僧、玄奘がインドから持ち帰った『大般若波羅密多経(だいはんにゃはらみつたきょう)』の600余巻です。
⚫︎法華経とは?
法華経は3世紀後半に中国で翻訳された、代表的な大乗経典です。
サンスクリット語の原典の題名は、『正しい教えである白い蓮の花の経典』です。
そこから妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)や法華経と中国語に翻訳されました。
法華経では、ブッダは彼一代で悟りを開いたのではなく、はるか久しく遠い過去に、実は成仏しており、現世までも存在していると説きます。
この久遠実成(くおんじつじょう)の存在であるブッダが、今もなお、すべての人々を平等に救済し、永遠の命を与えてくださるのだと説きます。
理想主義的、平等主義的な色彩が濃厚で大乗仏教の中では過激派といってもいいかもしれません。
現存する代表的な法華経の経典は、五胡十六国時代(304-439)の鳩摩羅什(くまらじゅう)の訳による『妙法蓮華経』8巻28品です。
⚫︎浄土三部経とは?
浄土三部経は、無量寿経(むりょうじゅきょう)・観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)・阿弥陀経(あみだきょう)の3つの教典を指します。
3世紀半ばから5世紀半ばにかけて書かれました。
なお無量寿とは阿弥陀の漢訳名の一つです。
そして阿弥陀は西方にある極楽浄土を支配する仏です。
現世で貧しかったり、苦しみの多い人生をおくっても誠実に生きて阿弥陀仏を信じて手を合わせ、「南無阿弥陀仏」と唱えれば、死後に極楽浄土で永遠の生命を得られますよ、という教えが浄土三部経から広まりました。
⚫︎華厳経とは?
大乗仏教では、浄土三部経の阿弥陀仏をはじめとして、数多くの仏が登場します。
上座(部)仏教では仏といえばブッダ一人、お釈迦様しか存在しませんでした。
大乗仏教ではブッダも多数の仏の一人である、と考えます。
上座(部)仏教の僧たちが、大乗非仏教と非難したのも無理からぬことでした。
華厳経の原典は、その成立がインドではなく、4世紀中頃の中央アジアであると推定されています。
「時間も空間も超越した絶対的な存在である仏の、華(はな)で飾られたような荘厳な教え」といった意味の経典で、華厳経と漢訳されました。
この宇宙を支配する仏は毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)と呼ばれます。
毘盧遮那仏には数多くの菩薩が仕えています。
仏の次の位の身分で、自分もいつかは仏になろうと修行しながら、世の衆生を救うために行動しています。
華厳経の教えは、中国に入って異民族の王朝の下で国家仏教になりました。
君主(皇帝)が毘盧遮那仏、部下の役人や軍人が菩薩、人民は救いを求める衆生(しゅじょう)(大衆)であると考えます。
そして皇帝の仏のような慈悲深い政治によって王道楽土が出現し、人民(衆生)は救われるのだという論理となるのです。
⚫︎大乗仏教を読み解くこの本!
以上、主要な大乗経典について概略を述べました。
般若経(はんにゃきょう)、法華経(ほけきょう)、浄土三部経(じょうどさんぶきょう)そして華厳経(けごんきょう)です。
般若経は紀元前後に書かれました。 一番古い大乗経典と考えられています。
その教えの中心は「空」を説くことです。
数字のゼロを発見したインド人らしい考え方で、この世に存在する、さまざまなものは我々人間を含めて、お互いの関係性があって初めて実体として成立する。
関係性がなければ、その実体はなきに等しい。
すなわち空である、と考えます。
世の中はすべて互いのご縁があって成立しているのだ、といっているわけです。
その意味では諸物が生まれてくる縁起を説いているともいえます。
⚫︎般若経とは?
なお、般若とは「真実を悟るための根本的な知恵」という意味です。
般若経の経典には、呪術的な内容が多く記載されており、後に登場する密教につながる側面も軽視できません。
現存する代表的な般若経は、唐の僧、玄奘がインドから持ち帰った『大般若波羅密多経(だいはんにゃはらみつたきょう)』の600余巻です。
⚫︎法華経とは?
法華経は3世紀後半に中国で翻訳された、代表的な大乗経典です。
サンスクリット語の原典の題名は、『正しい教えである白い蓮の花の経典』です。
そこから妙法蓮華経(みょうほうれんげきょう)や法華経と中国語に翻訳されました。
法華経では、ブッダは彼一代で悟りを開いたのではなく、はるか久しく遠い過去に、実は成仏しており、現世までも存在していると説きます。
この久遠実成(くおんじつじょう)の存在であるブッダが、今もなお、すべての人々を平等に救済し、永遠の命を与えてくださるのだと説きます。
理想主義的、平等主義的な色彩が濃厚で大乗仏教の中では過激派といってもいいかもしれません。
現存する代表的な法華経の経典は、五胡十六国時代(304-439)の鳩摩羅什(くまらじゅう)の訳による『妙法蓮華経』8巻28品です。
⚫︎浄土三部経とは?
浄土三部経は、無量寿経(むりょうじゅきょう)・観無量寿経(かんむりょうじゅきょう)・阿弥陀経(あみだきょう)の3つの教典を指します。
3世紀半ばから5世紀半ばにかけて書かれました。
なお無量寿とは阿弥陀の漢訳名の一つです。
そして阿弥陀は西方にある極楽浄土を支配する仏です。
現世で貧しかったり、苦しみの多い人生をおくっても誠実に生きて阿弥陀仏を信じて手を合わせ、「南無阿弥陀仏」と唱えれば、死後に極楽浄土で永遠の生命を得られますよ、という教えが浄土三部経から広まりました。
⚫︎華厳経とは?
大乗仏教では、浄土三部経の阿弥陀仏をはじめとして、数多くの仏が登場します。
上座(部)仏教では仏といえばブッダ一人、お釈迦様しか存在しませんでした。
大乗仏教ではブッダも多数の仏の一人である、と考えます。
上座(部)仏教の僧たちが、大乗非仏教と非難したのも無理からぬことでした。
華厳経の原典は、その成立がインドではなく、4世紀中頃の中央アジアであると推定されています。
「時間も空間も超越した絶対的な存在である仏の、華(はな)で飾られたような荘厳な教え」といった意味の経典で、華厳経と漢訳されました。
この宇宙を支配する仏は毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)と呼ばれます。
毘盧遮那仏には数多くの菩薩が仕えています。
仏の次の位の身分で、自分もいつかは仏になろうと修行しながら、世の衆生を救うために行動しています。
華厳経の教えは、中国に入って異民族の王朝の下で国家仏教になりました。
君主(皇帝)が毘盧遮那仏、部下の役人や軍人が菩薩、人民は救いを求める衆生(しゅじょう)(大衆)であると考えます。
そして皇帝の仏のような慈悲深い政治によって王道楽土が出現し、人民(衆生)は救われるのだという論理となるのです。
⚫︎大乗仏教を読み解くこの本!
以上、主要な大乗経典について概略を述べました。
大乗仏教全体については、中村元『大乗の教え〈仏典をよむ〉3』(前田專學監修、岩波現代文庫、全2冊)が読みやすく書かれていますのでお薦めします。
『哲学と宗教全史』では、哲学者、宗教家が熱く生きた3000年を、出没年付きカラー人物相関図・系図で紹介しました。
僕は系図が大好きなので、「対立」「友人」などの人間関係マップも盛り込んでみたのでぜひご覧いただけたらと思います。
(本原稿は、13万部突破のロングセラー、出口治明著『哲学と宗教全史』からの抜粋です)