『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』怪獣大図鑑 ─ ゴジラ・モスラ・ラドン・キングギドラ、設定と造形に迫る
THE RIVER編集部 より 210530
🎥「私たちが採用したのは、世界は彼らの所有物なのだという考え方。我々の方が外来種なのです」。
映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)のマイケル・ドハティ監督は、怪獣たちを“タイタンズ”と呼び、あくまでも“古代の神々”として扱った。「古代人たちが両膝をつき、首を垂れてしまうような存在感にしたかった」というデザインには、東宝怪獣映画への愛情と、本作を独自の作品に仕上げようという熱意が見て取れる。
ゴジラ、モスラ、ラドン、キングギドラ。東宝が誇る人気怪獣は、いかにしてモンスターバース(モンスター・ヴァース)の世界に蘇ったのか。登場怪獣の振り返りとともに、造形に込められたこだわりを紐解いていきたい。
🦖ゴジラ
我らが怪獣王、ゴジラ。1954年『ゴジラ』では、ジュラ紀~白亜紀の海棲生物がビキニ環礁の核実験で住処を追われ、海上に出現したものではないかと推測された。その後の東宝映画では、ルーツは同じではあるが、原子実験によって巨大生物として変貌したものとも説明される。
ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』では先史時代から存在した巨大生物という設定に変更され、ビキニ環礁での核実験はゴジラの駆除が目的だったとされた。ゴジラはシリーズを通じて大きさが変化しており、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』でも前作の身長108.2メートル/体重9万トンから成長を遂げ、身長119.7メートル/体重9.9万トンという巨大化を果たした。
ドハティ監督は「怪獣の優れたデザインの基本はシルエット。シルエットだけで区別が付くものでなければいけない」「鳴き声を聴いただけで、どの怪獣なのかが分かるようにすべき」との考え方から、怪獣の造形についてはオリジナル版を大切にしたアップデートを試みている。特にゴジラの造形には“シルエット主義”が顕著に表れており、前作の造形を踏襲しながら、“初代”である1954年版『ゴジラ』の背びれを採用。監督は「ゴジラの背びれは王冠のようなもの。大きく、美しい方がいい」と語っている。
ちなみに鳴き声についても、監督は「怪獣たちは古代の神々である」という新設定を踏まえ、“それぞれの鳴き声には独自の由来がある”という発想で制作にあたった。今回は前作で聞くことができた咆哮をもとに、より1954年版に近い鳴き声に仕上げたという。
🦋モスラ
ゴジラと並ぶ東宝映画の人気怪獣であり、『モスラ』シリーズのほか、『ゴジラ』シリーズへのゲスト登場は最多回数を誇る。本作では翼長244.7メートルという設定で、ゴジラをしのぐほどの巨大ぶりを見せる。本作では中国・雲南省の古代遺跡にて卵として発見された。
四大怪獣が登場する本作で、ドハティ監督が「一番大きな挑戦だった」と語るのがモスラの造形だ。過去の登場作品をすべてチェックし、蛾の研究にも取り組んだ末、監督が選んだのは、あくまでも“リアリティを感じられる怪獣”というアプローチ。鱗粉や発光という側面にも注目した。その一方、監督は「モスラは常に美しく、それゆえに他の怪獣よりも際立っていた。モスラは畏敬の念や驚き、美しさをもたらす」のだとも強調。“怪獣は古代の神々”というコンセプトから、「モスラが夜空を飛んでいると、まるで天使を見ているように思うんじゃないか」という発想も取り入れられた。
本作ではゴジラやラドン、キングギドラと同じく、モスラも従来より巨大化し、より強い怪獣となっている。カマキリやハチなどもデザインの参考にされており、爪のように鋭い脚を持っているのだ。羽根に見られる眼のような模様は、“ゴジラの眼”をイメージしたもの。実際の蝶や蛾が、捕食者に対抗するための模様をもっていることを参考にしたという。もっとも東宝サイドは、「モスラは誰も殺さない」というルールを製作側にオーダー。監督も「モスラは善意の生物。彼女とゴジラは陰と陽、対極の存在です」と語った。
ちなみに東宝映画へのオマージュとして、本作にはモスラにまつわる“双子”も登場する。東宝シリーズの「小美人」こそ直接言及されないが、モスラが繭から現れるシーンでは、チャン・ツィイー演じるチェン博士の双子の妹であるリン博士が登場(チャンの一人二役)。過去の写真には双子の姉妹がしっかり映っているので、お見逃しのないように。
🦅ラドン
体長46.9メートル/翼長265.4メートル/体重3.9万トン。重量は軽いが、サイズはモスラよりも大きく、体温は1,200度にものぼり、「炎の悪魔」と呼ばれる。15年ぶりの映画登場となる本作では、メキシコのイスラ・デ・マーラの火山にて発見されている。
ゴジラ・モスラ・キングギドラと比較しても“ラドンが一番好き”だと語るドハティ監督は、「昔のゴジラ映画ではラドンは勝ち目のない怪獣でした。常にサイドキック(仲間、相棒)のポジションだった」と言いつつ、「あらゆる面でラドンはゴジラよりも強い」と断言。「ラドンは上空を飛ぶだけで街を破壊できる。翼の生えた核兵器のようなもので、衝撃波やソニックブーム(音波)、風を起こして大きな被害をもたらすのです。他の怪獣にはない速さと凶暴性があります」とその強さを強調。「灰の中から生まれる炎のフェニックスの神話から要素を取り入れた」とまで言っている。
しかし、ドハティ監督の描くラドンは少々くせ者だ。「ラドンの忠誠心がどこにあるのかは完全に分からない」「どちらかといえば悪いヤツ」と言い、「人間の倫理観をあてはめようとしてもうまくいきません。動物たちは我々と同じルールでは生きていない。もう少し複雑なルールのもとで生きているんです」と語っている。その戦いぶりはぜひ本編で確認してほしい。
なお、デザインにあたっては“火山”のイメージが全面的に活かされている。皮膚は炎に強く、色も赤みを帯びているという設定だが、どうやらラドンの造形には東宝側からの細かいオーダーがあったそう。ドハティ監督も「ラドンには2本のツノに独特の形をした翼、鎧のような胸板が必要。具体的な要求のすべてに心から賛同しました」と話している。
🐲キングギドラ
体長158.8メートル/体重14.1万トン、飛行速度は時速1018キロメートル。言わずと知れた東宝の人気怪獣であり、本作では南極にて凍結状態で発見され、モナークでは「モンスター・ゼロ」というコードネームで扱われている。宇宙から飛来した地球外生命体という設定で、自然の摂理によらない圧倒的な身体能力と戦闘能力、そして凶暴性を持つ。
ドハティ監督はキングギドラを「ゴジラを脅かす存在。バットマンのジョーカーと同じ」と語り、圧倒的な強さと迫力にこだわった。デザインにあたっては、過去の登場作品を研究し、デザインの共通要素を見出していったという。「キングギドラは西洋のドラゴンとは違う。最初の段階から、西洋のドラゴンよりも東洋の龍に近づけるよう指示しました」「2本の尻尾と3つの頭がないキングギドラなんてありえない。適切なサイズのツノと、特別な形の翼も必要」。
しかしながら、プロダクション・デザイナーのスコット・チャンブリスは「キングギドラは大変でした。現在の文化にはドラゴンがあふれ返っているので、最も退屈なものになるリスクがあった」と語っている。そこで採用されたのが、3つの頭部に異なる個性を与えるという試みだ。監督いわく「中央の頭が司令塔、長男のようで一番まじめ。左側の頭は攻撃的でしつこく、右側の頭は周囲に好奇心を持っている。あらゆる意味で三つ子のような存在」。凶暴だがどこか愛嬌がある様子は、ぜひ本編で確かめてほしい。
なお、本作に登場する怪獣は主にCGで描かれているが、キングギドラの頭部はそれぞれ3人の俳優がモーションキャプチャーで演じている。ドハティ監督はキングギドラを生き物としてリアルに表現するため、物理的に3人を縛って撮影に臨んだ。撮影現場では中央の頭が「イチ」、右側の頭が「ニ」、左側の頭が「サン」と呼ばれており、なぜか左側の「サン」には「ケビン」という別名もあったという。
Reference: THE RIVER過去記事(1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8)