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⚠️テレワーク終了宣言? 経団連「出勤者7割減見直し」提言に潜む違和感の正体 202111

2021-11-24 10:15:00 | なるほど  ふぅ〜ん

テレワーク終了宣言? 経団連「出勤者7割減見直し」提言に潜む違和感の正体
 ITmediaビジネスonlain より 211124   川上敬太郎


◆なぜ、7割超の日本企業は「五輪・緊急事態」でもテレワークできなかったのか

 10月7日、最大震度5強の地震が首都圏を襲い、その翌朝の通勤電車はダイヤが大きく乱れました。駅で人が長蛇の列をつくっている様子を見て、まるでコロナ禍前に戻ったかのような印象を受けた人もいたのではないでしょうか。

 それから1カ月後の11月8日、経済団体連合会(経団連)が出した「テレワーク見直し論」ともいうべき提言が、話題を呼びました。朝日新聞は「テレワークなどで出勤者7割減『見直すべき』 経団連が政府に提言」と題する記で、提言内容について次のように伝えています。

 “政府が新型コロナ感染拡大対策として呼びかけてきたテレワークなどによる「出勤者数の7割削減」について、「科学的な知見」を踏まえ、なくしていく方向で見直すべきだとする提言を出した”

 地震が起きた翌朝の駅で人があふれ返り、入場規制までされた状況からすると、そもそも「通勤者の7割削減」自体が実現できていなかったように見えます。しかし、緊急事態とはいえ出勤者数を一律に7割減らすというのはかなり乱暴な目標であり、事業運営しづらいなど経済活動に支障が出てしまう面があったのも事実でしょう。

 とはいえ、経団連の提言には、少なくとも2つの点で違和感を覚えます。

⚫︎代替案のない“甘い提案”
 一つは、テレワークを続けるべきだとはしているものの、出勤者の一律7割削減の見直しを提言するだけにとどまり、今後の取り組みについて具体的に言及していないことです。このような姿勢は、会社組織の中で仕事する際には好ましくないと認識されているはずです。

 もし、かねてテレワーク推進などの職場改善に取り組んできた会社の社長が、コロナ禍を機に、出勤者を7割減らすよう人事総務部門の担当者に指示していたとしたら、社内でこんなやりとりがなされるのではないでしょうか。

人事総務:「コロナ禍が落ち着きつつある今、出勤者を一律7割減らすという目標は見直すべきかと思います」

社長:「目標を見直すというのであれば、今後はどんな取り組みを進めていくつもりだ?」

人事総務:「テレワーク自体は継続してよいと思うのですが」

社長:「そんなことは当たり前だろう。そもそもテレワークは、働き方改革の一環でコロナ禍前から推進していたはずだ。なのに、結局出勤者の7割削減は達成できずじまいじゃないか」

人事総務:「いや、しかし、7割削減は緊急時に設定された科学的根拠も乏しい目標かと・・・」

社長:「では、今後は具体的にどんな取り組みをするつもりだ? キミは、今の職場体制や働き方に課題を感じてないのか?」

人事総務:「もちろん、課題は感じているのですが……。今後の具体的な取り組みについては、これから検討します」

社長:「指摘される前に、代替案くらい準備しておけ! コロナ禍前の職場環境に戻すつもりか!」

 テレワークは、コロナ禍だから推進されてきたわけではありません。その前から働き方改革として、政府が強く推進していたはずです。仮に一律7割削減には無理があったのだとしても、ただ見直しを提言するだけでは、これから進むべき道も見えてきません。経団連は日本を代表する一流企業の集まりです。ただ「目標を見直してほしい」と言うだけの“甘い提言”など、会員企業各社が日常の職場で交わしている厳しいやりとりの中では、決して許されないのではないでしょうか。

 もう一つの違和感は、日本の経済界を代表する団体が「出勤者の7割削減見直し提言」を発表することで、社会にネガティブな影響を与えるメッセージになってしまうのではないかという点です。

 むろん、そんな意図はないと思いますが、まるで「今後はテレワークを推進して出勤者数を積極的に減らしていくつもりはない」と経済界全体の意志として宣言したように聞こえてしまいます。それでは、せっかくコロナ禍という未曽有の危機の中で培われた、テレワークの推進機運に水を差すことになります。

 確かに、エッセンシャルワーカーと呼ばれる働き方の社員が多くを占める会社も含めて、一律に出勤者を7割減らせというのは無理な面があるのかもしれません。
 しかし、地震の翌朝に駅で列をつくっていた人たちは、全員がエッセンシャルワーカーだったのでしょうか。その中には、職場体制を工夫改善さえすれば通勤せずに済んだ人たちが、かなりの割合で含まれていたはずです。

 いざというとき,いつでも在宅などのテレワーク勤務に切替えられる体制を整えておけば,会社は不測の事態が起きても事業運営を止めることなく継続できる可能性が高くなります。
 コロナ禍が落ち着きそうだから、とテレワーク推進の手を緩めたり、働き方を元に戻してしまう方が、長い目で見ると経済活動への支障が大きいのではないでしょうか。

⚫︎喉元を過ぎても、熱さは忘れるな
 「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ということわざがありますが、世界中の人々を苦しめているコロナ禍の記憶も、沈静化されるとともに薄れていき、やがては喉元を過ぎた“熱さ”として忘れ去られてしまうのかもしれません。
 しかし、コロナ禍がもたらした教訓は、喉元を過ぎたからと忘れてもいいような一過性の“熱さ”ではないはずです。たった一つのウイルスが世界中の人々の生活に影響を及ぼし、経済活動をマヒさせるほどの危険性があることを知らしめた人類史上に残る教訓です。

 また、会社によってその成否に違いはあるにせよ,危機に際して,テレワークの活用次第では事業活動の継続ができるという経験を得られたことも経済界にとっては大切な教訓です。
 コロナ禍が発生する前からテレワーク推進に積極的に取り組むなど体制を整備し、出勤でもテレワークでも遜色なく事業継続できた会社は、テレワーク環境の構築がいざというときのリスク対応力を高めると身をもって学んだはずです。

 一方、コロナ禍の一時しのぎで無理やりテレワークを導入したような、うまく活用ができなかった会社では、テレワークそのものがつらい記憶になってしまったと思います。そして、コロナ禍の沈静化とともにテレワークの失敗が喉元を過ぎた“熱さ”となり、いずれ忘れ去られてしまいそうです。

 そんな経験の違いは、テレワークを今後の職場改善に積極的に生かすために推進強化する会社と、早々に出勤前提の職場体制に戻そうとする会社とに分けることとなり、コロナ禍のような危機が生じた際の事業継続性において大きな差を生み出すことになるのだと思います。

 以上は、経済界がテレワークを推進することによる、経済活動領域内での影響ですが、もう一つ大切な観点があります。

 経済界がテレワークを推進することによる、もう一つ重要な視点は「社会への影響」です。テレワークが推進されて浸透していけば、社会全体にポジティブな影響をもたらすことが期待できます。

 例えば、テレワークを導入して在宅勤務できるようになれば、通勤時間が不要となり、その時間を他の活動に回すことができます。世の中の可処分時間が増えるということです。その結果、家族の会話時間が増えたり、家事育児にゆとりを持って対応できたり、勉強や趣味の時間が確保できたりと、日々の生活の中に新たな可能性が生み出されることになります。

 また、テレワーク体制を整えて通勤せずに済む人の数を最大化できれば、地震などの天災や緊急事態宣言発出などの際、エッセンシャルワーカーやお年寄りなどに公共交通機関を優先的に使ってもらうことができます。他にも、場所にとらわれずに働くことができれば、全国各地どこに移住しても仕事が継続できるようになり、地方創生に寄与することなども期待できます。

 経済界が社会にポジティブな影響を与えている活動といえば、すぐにSDGsやESG、CSRなどが頭に思い浮かびます。それらも意義ある取り組みに違いありませんが、“地球温暖化防止”や“循環型社会形成”といった壮大なテーマに限らず、テレワーク推進など身近な職場環境改善に関する取り組みでも、社会にポジティブな影響を与えられるのです。逆にもし、こうした身近な改革をないがしろにしてSDGsやESG、CSRなどの取り組みだけアピールしてしまうと、表面的に体裁だけ取り繕っているようにも見えてしまいます。

⚫︎目を向けるべきは「経済」だけではない
 経済界は経済活動を通じて日本社会を動かす原動力です。しかし、経済界が目先の経済活動だけを見ていては、社会からの期待とズレた取り組みになりがちです。
 テレワーク推進に限らず、長時間労働是正、女性活躍推進、男性育休取得の促進など職場環境改善にまつわる範囲の中だけを見ても、経済界の取り組みはアピール先行で実際の取り組みが追い付いておらず、期待とのズレを感じてしまうことが多々あります。

 テレワーク導入をつらい経験として記憶から消し去りたいと考える会社にとって、テレワークは喉元を過ぎた“熱さ”です。しかし、毎日ラッシュアワーに出社を余儀なくされ、地震などでダイヤが乱れるたびに駅で長蛇の列をつくらなければならない社員やその家族たちにとっては、日々繰り返される通勤地獄こそが、早々に喉元から過ぎ去ってほしい“熱さ”なのです。このような認識のズレを無視して、なし崩し的に過去に引き戻そうとする姿勢では世の中を白けさせてしまいます。

 11月19日、政府は新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針を見直し、経団連からの要請通り出勤者数の7割削減目標を撤廃しました。それでも経済界は、自らの取り組みが社会に与えている影響に目を向ける必要があります。
 コロナ禍で得た教訓を踏まえると、テレワーク推進の時計の針は、未来に向けてさらに進めていかなければならないはずです。もし今後、経済界がテレワーク推進の時計の針を過去に戻す取り組みをしてしまうようであれば、社会全体もその取り組みの道連れにされてしまうのです。




⚫︎著者プロフィール・川上敬太郎
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ3万5000人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
 現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。

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