人間のY染色体は、X染色体よりも急速に進化している
Eaquire より 240802
[目次]
▼ Y染色体の進化を示す新たな研究が発表に
▼ この研究結果から見える可能性
▼ まとめ
▶︎Y染色体の進化を示す新たな研究が発表に
学名「ホモ・サピエンス(Homo sapiens)」、ラテン語で「賢い人間」の意味する現生人類が属する種。つまり、現代人を示す学名であるが、そんなわれわれは23対の染色体を持っていることはご存じかと思う。
特別な染色体異常がない限り、すべての人間はこの23対の染色体を持っている。
ただし、23番目の対は性染色体と呼ばれ、生物学的な性を決定する遺伝子を含んでいるのだ。ほとんどの女性は2本のX染色体を持ち、ほとんどの男性は1本のX染色体と1本のY染色体を持っていることがわかっている。
2010年以降*1、科学者たちは人間のY染色体が急速に進化していることへの認識を深めていった。過去の進化生物学者たちは長い間、「Y染色体がほとんど変わっていない」とそれまで考えていたため、この発見は驚くべきものであった。
そしてペンシルベニア州立大学、そして国立ヒトゲノム研究所、ワシントン大学の新しい研究*2では、この急速な変化はヒトのY染色体だけでなく、チンパンジー、ボノボ、ニシローランドゴリラ、ボルネオオランウータン、スマトラオランウータン、そして遠縁のシアマン(フクロテナガザル)など、他の大型類人猿のY染色体でも起きていることが示された。
研究者たちは、「テロメア・トゥ・テロメア(Telomere-to-Telomere=T2T)シーケンシング」という方法を用いて、テロメア(染色体の「キャップ」として機能するタンパク質構造)を基に、種間での比較を行った。
そうしてコンピューターソフトウェアを使い、染色体のどの部分が変化し、どの部分が同じであるかを判別。すると6つの種の中で、Y染色体はX染色体よりも遥かに多くの変異を示したという。
例えば、人間とチンパンジーのX染色体は約98%が一致していているが、Y染色体の一致率はわずか3分の1程度。この研究結果は、2024年5月下旬に『Nature』誌に掲載*3されている。
▶︎この研究結果から見える可能性
ペンシルベニア州立大学のカテリーナ・マコヴァ氏は、プレス声明*4で次のように述べている。
「性染色体は最初、他の染色体対と同じように始まりましたが、Y染色体はそのほとんどの部分で他の染色体と遺伝情報を交換しないため、多くの遺伝子の欠失や変異、繰り返しが蓄積されてきたという点で独特な染色体です」
もちろん、Y染色体を持つ個体が、持たない個体よりも進化しているというわけではない。つまり、私たちは皆同じ種の一員なのだ。
一方で、ボノボやチンパンジーのように同じ属の種であっても、Y染色体には顕著な違いがある。
これらの変異はたった1つの個体から得られたものであり、その種内でもっと多くのバリエーションがある可能性に注目すべきである。そうなると、人間と同様に他の個体でも多様な変異が見られる可能性は高いと言える。
この研究は、Y染色体の選択圧(進化や変化の過程において影響を与える力)を解明しようとしたもので、マコヴァ氏によると、「男性の突然変異バイアス」と呼ばれる現象、つまり、精子の生成には卵子の生成よりも多くの複製が関与するため、複製が多いほど突然変異の可能性が高まることを示している。
大型類人猿におけるY染色体の違いを理解することは、人間の健康に役立つだけでなく、絶滅危惧種となっている霊長類の同族を理解するのにも役立つ可能性がある。
マコヴァ氏は、別のプレスリリース*5で次のように述べている。
「これらの大型類人猿の種が、絶滅の危機にあることを忘れてはなりません。この研究を通じて人類の進化について学ぶだけでなく、彼らのゲノムとヒトゲノムの知識を応用して、絶滅危惧種の生態や繁殖をよりよく理解することができるでしょう」
▶︎まとめ
染色体の23番目の対には性染色体が含まれているが、ほとんどの女性は2本のX染色体を持ち、ほとんどの男性は1本のX染色体と1本のY染色体を持っている。
2010年以降、科学者たちは人間のY染色体が急速に進化していることを知っていたが、新しい研究によると、同じ現象が人間にとても近い類人猿全体にも当てはまることが明らかになった。
驚くべきことに、チンパンジーやボノボのような同じ属の種間でも、Y染色体には顕著な違いがあることも判明している。